第479話 成長

 パニア修道院へ向かっていると、カラエルら若き冒険者と出会った。


 と言っても前方約三十メートル先を歩いているのを発見した、のが正しい状況だがな。


 カラエルたちの様子からして外の依頼にいく格好だが、時刻は十時近い。冒険者が動くとしては遅い時間である。


 ……街での仕事かな……?


 野宿できるようにしろと指示を出し、カラエルら指定の薬草採取名目の依頼も出してある。


 あれから一月以上経っているから野宿はできるようになって、他の依頼をやってるんだろう。腰には剣や弓は持ってないようだし。


 ゆっくり近付くと、斥候役だろう犬耳の少年が、なにかを感じたように耳をピクピクさせ、背後を振り返った。


「あ、兄貴!」


 犬耳少年も十五であり、オレより上なのだが、こいつもオレを兄貴呼ばわりであった。


 その声で他の皆も気がつき、こちらへと振り返った。


「兄貴! 待ってたぜ!」


「おう。ワリーな、遅くなって。元気にしてたか?」


「ああ、元気過ぎて皆を静めるのに苦労してるよ」


 リーダーとして、人を纏めることの苦労を知ったのだろう、前に来たとき以上に男の顔になっていた。


「アハハ。孤児院の悪タレも変われば変わるもんだな」


「そ、それは言わないてくれよ。あのときのことはスゲー後悔してんだからさ」


 まあ、若気の至りってやつだ、からかうのはワリーか。


「それを覚えているヤツがいる、ってことを覚えてれば悪さもできねーさ。んで、どーしたい。街にいるなんて?」


 街での依頼にしちゃラフな格好だが。


「今日は休みを兼ねて買い物さ。兄貴に言われた通り、野宿はできるようになったが、食い物が味気なくてよ、なんか簡単に料理できるものはないかと探してんのさ」


 ほぉう。なかなかおもしろい発想をするようになったじゃねーか。もしかして、カラエルには料理人としての才能があんじゃねーの?


「食事に拘りが出てきたってことは、ちゃんと食えてるようだな」


「兄貴の依頼のお陰さ。それに、今、孤児院じゃ料理の練習とかで腹一杯食えるしな。まあ、味にばらつきはあるけどよ」


「でも、食えるだけおれは嬉しいぜ」


 副リーダーのノットは、その巨漢を持つだけに大量に食うことだろうよ。


「ああ。腹一杯食える。こんな喜びはないぜ」


 斥候のバモルは、一見して細身だが、獣人だけあってノットに負けないくらい食うとカラエルが言ってたっけ。


「そうよね。お陰でちょっとお腹がたるたるになっちゃったけど」


「ナザリはいいわよ。ほとんどが胸にいってんだからさ。あたしなんか筋肉にしかならないよ」


 カラエルのパーティーの女性陣も変われば変わったもんだ。


 弓を使うパニーは、出会った頃は男と見分けがつかなかったし、魔術使い(師になるには魔術師ギルドに入り、ある昇進試験を受けなければ魔術師とはなれないのだ)たるナザリは、小さな女の子だった。


 もはや、この五人は立派な冒険者。ほんと、変われば変わるもんだぜ。


「まあ、食えてるならそれでイイさ。オレたち――あ、紹介しとくな。こっちはタケル。今回、護衛としてついてきてもらったが、船の船長で、たぶん、その料理を作ってる二人を迎えに来たんだよ」


 挨拶しろと、タケルを見る。


「初めまして。タケルと言います。ベーさんが言ったように船長をしています」


 ちょっと緊張してるが、毅然とカラエルたちを見て挨拶した。


「おれらと変わらんのに、船長かよ。スゲーな」


「まあ、兄貴の護衛をやるくらいだし、おれらと違うさ」


「やっぱ、兄貴の周りはスゲーんだな」


 過大な評価にたじたじなタケルだが、まあ、これも経験。イイ方向に蓄えろ、だ。


「で、だ。オレらは孤児院に向かうが、カラエルたちも買い物が済んだら来てくれや。お前たちに依頼も出したいしな」


「なら、このままいくぜ?」


「いや、直ぐにでもなくてイイさ。今日は挨拶しにいくだけだからな。本格的には明日から。いろいろ準備とかあるしよ」


 前に来たとき言ってあるとは言え、いきなりでは可哀想だ。心の準備を与えてやらんとな。


「わかった。なら、明日の夕方にでもいってみるよ。まあ、朝もいくが、日中は街の仕事があるんでさ」


「まだ、街での仕事もやってんだ」


「ああ。兄貴が言ったようにコネをつくるためにな」


 へ~。そこまで理解できるようになったか。カラエル、化けたもんだ。


「そうか。まあ、コネは一つでも多いほうがイイ。がんばれや」


「おう! もちろんさ!」


 なかなか気持ちのイイ顔を見せる五人に、自然と頬が緩んだ。


 まったく、こう言う姿は何度見ても楽しいもんだぜ。


 笑顔で人混みの中に消えていくまで見送った。


「まるで親の顔ですね」


 タケルの苦笑に、オレは笑顔を見せる。


「ああ。カラエルたちはもうオレの家族だからな」


 家族至上主義なオレには、なによりも嬉しい家族の成長だぜ。

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