第468話 先達者として

「……どうして解放したんですか?」


 魔物使いから充分離れたところでタケルが詰問口調で聞いてきた。


「ハイ、フェリエさん。どうしてですか?」


 反対側にいるフェリエに振った。


「……また?」


「また、です。答えてみ」


 思考も日々の修行がものを言うのです。


「……解放をしたのはベーが言った通り、無駄でしかないから。もしあれが暗殺な場合、実行者は標的の情報しか与えられない。まあ、これはベー情報ね。その情報通りなら尋問するより解放して泳がせるのが一番。ベーにはその手段があり、暗殺者は報告するために必ず誰かと接触する。それが連絡員でもベーには関係なし。ベーの手段は病気が感染するかのごとく首謀者に届く。そうなればベーの勝ち。少なくともわたしは、それを二度見ているわ」


 どうかしらって目に合格と頷いた。


「情報力、知識力、思考力、精神力、他にも駆け引き、はったり、真実、虚偽、その全てが武器になり防具になる。己を救う力となる。他人を救う力ともなる。イイか、タケル。お前の潜水艦は強力な兵器だ。だが、それは海でのこと。地上や空では役には立たねー。ましてや兵器は人が使うもの。兵器単体じゃなんも怖くねーんだよ。それに、だ。潜水艦を知っていたら倒す方法など幾らでもある。オレですら沈める手段なら幾つかある。つーか、この世には潜水艦すら超える人外がいる。まあ、人外ならまだイイ。人の理から出てはいるが、人の世に生きているからな。問題は、悪意ある者だ。これは人だけではなく種全体に言えるが、心に闇を持つ者は厄介だ。そう言うヤツらは裏をかく。こちらの隙を突く。こちらの弱みにつけこむ。そんなクソたれなアホどもにオレの大切な人生を邪魔されたくはねー。邪魔すんなら誰であろうと容赦はしない。限りある人生を死ぬまでくる――オホン。死ぬその日まで解けない宿題を与えてあげようじゃないの」


 三つの能力なんて所詮、じゃんけんだ。パーはチョキに負けるし、チョキはグーに負ける。どれか一つが絶対にはなりえねー。勝負を決めるのはやる者の力量。多い方が勝つのだ。


 まあ、これはあくまでも例え。じゃんけんしてんのに裏表してくるヤツもいる。自分は今、なんの勝負をしているかも見極めなくちゃならんし、勝負を変えられてもならねー。


「まったく、生きるってのは大変だな」


 どの世界、どの時代だろうと生きるのは苦難苦闘がつきもの。そんな中でスローライフをやるには力がいる。強い信念がいる。なにより豊かな心が必要となる。


「でもまあ、それが生きてるってこと。素晴らしきかな人生だ」


 二人にはまだわからねーだろう。だから先達者が導く。それが人生の先輩としての義務である。


 なんてことやってたらバリアルの街が見えて来た。


 人生訓を語るのは取り合えず中止して、上空を飛んでるメルヘン機を荷車台に降ろした。


「フェリエ。門兵の対応は任せる。臨機応変だぞ」


「わかってるわよ。領主夫人が門兵になにか言ってるかも、でしょう?」


「うんうん。順調に経験を積んでなによりだ」


「ったく。年下のクセにムカつく!」


「やれやれ。年下とか年上とか言ってるようじゃまだまだだな。見た目は判断材料の一つ。真の強者は見た目には騙されない。年齢に捕らわれない。心の奥底を見ている。だからそう言うヤツとは仲良くしねーとな」


 心に闇を持つ者がいるように、心に光を宿す者もいる。そんなヤツらがいるからこそ、生きることに恐怖は感じねーんだよ。


 フェリエの『ぐぬぬ』を眺めていると、門へと到着。順番に並ぼうとしたら門兵が二人、慌ててこちらにやって来た。


「あ、お前!?」


 と、門兵の一人、前に来たときにいた中年のおっちゃんだった。


「おう。久しぶり。領主夫人様からなんか聞いてるかい?」


「お前、いったいなんなんだ?」


「前にも言ったろう。ボブラ村のヴィベルファクフィニーだってな。まあ、領主夫人様と知り合いって時点で普通ではねーが、ボブラ村のベーってことでよろしく。あと、二人は護衛でこっちは冒険者でこっちはオレの専属護衛な。フェリエ。あとはよろしく」


 任せ、荷車台に移り、マ〇ダムタイム。と思い気や、すんなり通されてしまった。なんで?


「領主夫人が先に伝えてくれたそうよ」


「そりゃご婦人に感謝だな」


 やって得する人助け。ありがとうございます、ご婦人。


「それで、このあとどうするの? パニア修道院に向かう?」


「いや、今日は宿に泊まるか。時間も時間だし、宿屋がどんなもんか学ぶのもイイだろう」


 時刻は四時半。まだ早い時間ではあるが、修道院につく頃には五時近くになる。夕食の忙しいときに邪魔すんのもワリーだろう。


「わかったわ。で、宿はどこにする?」


「フェリエが前に来たときに泊まったところでイイんじゃね?」


 日帰りで来てっから宿屋とか知らんし。


「なら、白木亭でいいかしら? ちょっと高いところだけど、なかなか綺麗なところだったわ。馬車も余裕でおけたし」


 初の宿屋にはちょうどイイか。オレも汚いところよりは綺麗な方がイイしよ。


「んじゃそこで」


「了解」


 フェリエを先頭に今日の宿へと向かった。

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