第461話 旅の準備

「ふ~」


 やっとこさ銃の山の中から抜け出せた。


「ったく。どんだけ出してんだよ。つーか、どうすんだ、これ?」


 大量の銃に途方に暮れていると、馬の嘶きが耳に届いた。


 タケルらが帰って来たのかと、目の前の問題から目を反らした。


「お、なかなか様になってんじゃん」


 まあ、乗馬をする者から見たらまだまだ固いが、乗馬歴一月にも満たないことを考えたら乗れているほうだ。


 ライゼンもそんなに嫌な感じではないようで、駆けることに喜んでいた。


「楽しそうね」


 銃が出るとともに家主を見捨てた薄情者がなにもなかったように微笑んでいる。


 プチっとしてやろうかと思ったが、直ぐそこまでコユキに騎乗するフェリエが来てたので、しょうがなく見過ごしてやることにした。


「まさに人馬一体だな」


 オレには遠く及ばないものの、旅をするには十二分の腕であった。


「まだまだよ」


 フェリエ的には息を切らしているのが気に入らないのだろう。こいつは、結構負けず嫌い。オレが息切れしないで乗ってるのが悔しいのだろうよ。


 収納鞄からよく冷えたブララジュースを出して渡してやる。


 遅れてタケルが到着。落馬するように地面へと崩れ落ちた。


 タケルには冷たい水を頭からかけてやる。結構これが気持ちイイのだ。


「ベー。これ、どうしたの?」


 フェリエの声に振り返ると、銃の山を見ていた。


「カイナに銃をやったらたくさんの銃が返ってきたんだよ」


 意味わからんって顔をするフェリエだが、オレだって意味わかんねーんだからしょうがねーだろうが。


「……ねぇ、ベー――」


「――それをつかんだらお前は死ぬぞ」


 命の生死ではなく、誇りの生死を言ったのだ。


 フェリエの最終目的はなんなのか知らんが、口にしている目標は、大魔導師。人としての最高到達点を目指しているのだ。


 ここしばらくタケルといるので銃の有用性と有利性を理解してるのだろうが、それの力に魅了されたら大魔導師なんて未来は見えなくなる。


「銃は確かに便利だ。武器としての到達点と言ってもイイ。だが、魔術の汎用性は未知数だ。簡単に捨てんな」


 どちらが強いなんて言う単純な見方をして魔術の有用性、有利性を無視するな。魔術の汎用性は銃の比じゃねーぞ。


「……ごめん……」


「気にすんな。銃は人を惑わす。それから逃れるフェリエは立派さ」


 シュンとするフェリエの肩を叩き、元気を出させてやる。


「おおっ! なにこれ!? 銃がいっぱいあるぅっ!!」


 いつの間にか復活したタケルが銃の山に歓喜していた。


「ど、どうしたんですか、これ!? 宝の山じゃないですか!」


 やはりタケルはカイナよりなんだな。


「欲しいけりゃ好きなだけ持ってけ。オレには豚に真珠だ」


 銃なんて一つあれば充分。二つも三つもいらねーわ。


「なら、わたしもいただきます!」


 突然、どこからともなくカーチェが出現。タケルに混ざって銃を漁り始めた。


「エルフが銃とかどうなのよ?」


 森の民に銃なんて、真逆の武器なんじゃねーのか?


「わたしは、革新派ですからね、そう言う古臭いのは他のエルフに任せますよ。おっ、これいいですね。船長、これはなんと言うんですか?」


「おっ! スゲー! キャリコじゃんか!? 初めて見たよ」


 なんか変わった銃に興奮するタケルくん。


 銃にそれほど興味がないんでタケルのうんちくは右から左。チャコからもらった拳銃に似たやつを一丁つかみ、収納鞄に入れた。あとでカイナーズホームに行ってこれに合うホルスター買ってこよう。


 つーかコレ、カイナーズホームで買い取りしてくんねーかな? こんなにあっても鞄の肥やしになるだけだ。


「ねぇ、ベーさん。これ、本当に好きなだけもらっていいんですか?」


「うん? ああ。好きなだけ持ってけ。でも、どうすんだ? あの潜水艦に銃とかアニメ的兵器とか、これより威力がありそうなのあったじゃん」


 まあ、どれほどのものかは知らんけど、あっちのほうがイイんじゃねーのか?


「銃は男のロマンで、異世界で銃無双とか最高じゃないですか!」


 生憎とオレのロマン回路には銃は組み込まれてねー。だがまあ、人のロマンは尊重する主義。なんで、そうだなと肯定しておく。


 あれもこれもと渡した収納鞄に詰めて行くが、銃の山はまだ六割くらい残っている。ほんと、どんだけ出したんだよ、カイナのヤツ……。


「もういっぱいで入らないや……」


「わたしのもです……」


 なんでオレを見る、お二人さんよ。


「ったく。わかったよ」


 収納鞄から予備の収納鞄を出してやった。


「すみません、ベーさん!」


「ありがとうございます!」


 もう勝手にしろや。


 アホな二人を放置し、物欲しそうに見てるフェリエに向いた。


「フェリエ。タケルから旅のこと聞いたか?」


「あ、え、ええ。軽くはだけど」


「明日、冒険者ギルドに依頼を出すから今日中に用意しておけな」


 まあ、心の準備をしておけってことだ。


「わかったわ」


 表情を引き締めて頷くフェリエに、ニヤリと笑い返し、オレも準備に取りかかった。


 さて。どんな旅になりますかね。

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