第460話 キャサリンバージョン

 食休みしたのち、オレの新しい秘密基地へと向かった。


 まあ、秘密基地とは言っても館の地下。サプルの愛機、ファニー号があった場所なんだがな。


 サプルのヤツ、もうファニー号ではもの足りないようで、ブララ島にいってからまったく乗ってねーんだよ。


 聞いたらエリナから、いや、エリナから流れてきたメルヘン機を一機、もらったようで、もういらないってのことだった。


 ちょっと寂しいが、オモチャは飽きられられるもの。しょうがねーと諦めて次に進むまでさ。


「さて。なに着ていこうかな」


 女子か! ってな突っ込みを受けそうだが、オレは形から入る男。旅に適した服を着ていきてーじゃん。


 意外と思われるかもしれんが、オレは結構衣装持ち。トアラに頼んでいろいろ作ってもらってんのだ。


 ……まあ、つってもお気に入りは毎日着たい派なんですけどね……。


 灰色狼の皮を元に作ったズボンに毛長山羊の毛で編んだシャツ。角猪の革のベスト。飛竜の羽根の外套と、まあ、衣装はこんなもんでイイだろう。


「荷物は収納鞄に入ってるから、あとは武器か?」


 まあ、オレには殺戮阿吽と言う強い相棒がいるんだが、あれは狩り用であり、殺戮戦用(いや、したことないけどねっ)である。護衛のための武器としては殺傷力があり過ぎる。


 オレの力で殴ったら人なんてミンチだよ。残酷な描写ありになっちゃうわ!


「なんかイイ武器ねーかな?」


 いやまあ、戦闘センスゼロのオレに剣や槍なんて使いこなせねーだが、なにもなしではカッコがつかねー。


「なんかねーかな?」


 収納鞄には武器も入れてある。万が一のときのためにな。


 博士ドクターから買ったものや自分が造ったものを漁るも、これってものがなかった。まあ、だいたいが剣か槍、そして弓ぐらいなもの。オレの琴線に触れるようなものなんかあるはずもなかった。


「ん?」


 漁っていたらなんか拳銃を発見した。


「なんで入ってんだ?」


 拳銃の名前なんて知らんが、なにか年代ものってものはわかった。


「……あ、チャコからもらったやつだわ」


 冒険者になるときにお礼だと渡されたものだ。


「名前、なんったっけ?」


 モーゼじゃなくてモーテルでもなくて、モーなんとかなのは覚えてんだよな」


 我ながら驚きだが、最初の一文字だけは記憶していた。いやまあ、なんの自慢にもならんがよ。


「タケルなら知ってるかな?」


 なんか、こーゆーのに詳しそうだしよ。と、外に出た。


 午後も乗馬訓練してると言ってたんだが、見当たらねーな。遠出に出たか?


 まあ、いねーのならしょうがねー。この拳銃の威力でも確かめてみるか。


 土魔法で人型、狼型、ゴブリン型の的を創り、結界で辺りを覆った。うるさいとご近所さんに迷惑だからな。


 銃の構えなど知らんので適当に構え、引き金を引いた。


 人型の的に銃弾が当たる。当たりはしたが、なんかショボいな。銃の威力ってこんなもんなのか?


「音はイイんだがな」


 まあ、銃は音がデカいし、威嚇にはイイだろうと思ったまでなんだから、こんなもんか。戦うのはフェリエやタケル。オレは守られるのが仕事だしな。


 それに、形としてもなんかイイ。こう構えてこう守られる。こうしてこうもありか? ならこうもイイんじゃね?


「……なにしてんの、ベー?」


 と、いつの間にかカイナがそこにいた。あ、結界が破られてたわ。


「ちょっと銃で遊んでた」


 ここで恥ずかしがると、余計に恥ずかしくなる。ここは堂々と、なに一つ恥じることはねーと構えることだ。


「銃? 珍ら――!?」


 なにか目を見開くと、ものスゴい速さでオレの持っていた拳銃を奪い去り、なにやら少年のように瞳をキラキラさせて拳銃を掲げて見ていた。なんやねん?


「……ベ、ベー。これ、どうしたの……?」


「え、あ、チャコにもらったんだよ。チャコ、知ってるよな?」


 結婚式のとき、軽く紹介はした……はず、だよね?


「トータくんの頭に咲いてるお花さん、だったよね」


「あ、ああ。概ねそんな感じだ」


 間違ってはいねーが、訂正するほどでもねーくらいには合ってるんで、そう言っておく。


「今、どこにいるの?」


「冒険に出てるよ。いつ帰って来るかはわからんがな」


 なんの冒険かは知らんが、空飛ぶバイクで飛んでったことからして五日くらいは帰ってこねーんじゃねーか。


「ベー! お願い、これちょうだい!」


「あ、え、ああ。構わんよ」


 キラキラがギラギラになり、スゲー迫力に圧されて許してしまった。


「うおぉぉぉぉぉっ! キャサリンバージョンゲェェェットだぜい!」


 拳銃を天にかざして歓喜するカイナさん。なんなんだい、いったい?


「ありがとうね、ベー! これはお礼だよ。遠慮なくどうぞ」


 と、天からたくさんの銃やら弾丸やらが降って来た。


 カイナの能力を知っているから驚きはねーが、どんだけ出してんだよ! 埋まれるわ! つーか、埋もれたわ!


「ヒッホー! 今夜は飽きるまで撃っちゃうぜ!」


 銃に埋もれたオレを放置してカイナが立ち去る足音が聞こえた。


 ……どうすんだよ、これ……。


 銃に埋もれた中、深いため息をついた。

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