第458話 春風駘蕩

 なんつーか、外観もそうだが、中もド田舎に住んでることを忘れそうな内装だよな。


 外に出るときは気がつかなかったが、なんか洒落た花瓶に花が活けてあったり、刺繍が飾ってあったりと、昨日なかったものが置いてあった。


「サプルのやつ、どっから持って来てんだ?」


 いやまあ、サプルがやっているとこなんて見てねーが、我が家でこんなことするのはサプルくらいしかいねー。


 オカンは畑仕事してれば満足の女だし、この館に気後れして借りてきた猫のように大人しくしている。そんなオカンがこんな洒落たことする訳もないだろう。


 トータなどは花……は、チャコにしか興味がないし、家なんて寝る場所としか認識してねー。自分の部屋よりチャコの部屋にいついてるくらいだ。


 オレは自分の部屋以外はどうでもイイと思ってるから、館のことは一切口出ししねーと決めている。


 他も同じく部屋は自分流にカスタマイズしているようだが、他のことにはまったく興味がねー様子だった。


 サプルはカワイイよりカッコイイが好きな女ではあるが、自分の住むところは自分でしたい派であるため、こうして自分色に染めてんだろう。それに綺麗好き。前世の生活に負けねーくらい掃除がいき届いていた。


「……自分の家って感じがしねーな……」


 オレ的にはもっとこじんまりしたところがグッドなんだが、家族が多い現状では、この大きさじゃねーとしかたがねー。一国一城の主より一家一部屋の主になれたことで満足しておこう。


 チロリロリーン。チロリロリーン。チロリロリーン。


「うん? なんだ、今の? ベルか?」


「食事の合図だよ」


 頭の上の住人さんがそんなことを言った。


 いたんかい! とか、突っ込みが欲しい今日この頃。いやまあ、オレもプリッつあんの存在、忘れちゃいますけどね。


「合図って、昨日はなかったよな?」


「今日の朝からできたのよ。この家広いから合図がないと不便だとかで」


 確かに、三階建ての三十以上も部屋がある館で叫んでも聞こえねーし、いちいち呼びに行くのも大変だ。なるほど、ベルは必須だな。


「ぬおぉぉぉぉっ!」


「ぬぅぅぅ!」


 どこからか変な叫びが聞こえたと思ったら、角から我が家の二大食いしん坊が全力疾走で現れ、そして、通り過ぎていった。


「…………」


 我が家が変われど住む者は変わらない、か。今日も平和でなによりだ。


 疾風怒濤の食いしん坊どもが向かう先へと、春風駘蕩のように向かった。


 まあ、食堂とは言っても居間と併設しているので三代目の家となんら変わらんのだがな。


「あ、あんちゃん、起きたんだ。大丈夫?」


 分身の術に更に磨きが入ったマイシスター。もはや、考えるな、感じろセンサーでも捉えらんねーよ。つーか、分身の数も数えらんねーわ。


「あ、ああ。大丈夫だよ。コップ一杯しか飲んでねーからな」


 なにを飲まされたかわからんが、そんな度数の高いものではなかった……はず。寝ている間は頭が痛くて吐き気がしたが、起きた楽になっていた。それに食欲もある。全然問題ねーよ。


「そっか、よかった。なら、早く昼食の用意しちゃうね」


 分身数が更に増え、あっと言う間に昼食が完成。テーブルに乗りきれない(食いしん坊がフライングしてます)から溢れていた。


 うちのテーブルは楕円形をしており、それぞれ思い思いの席に着席する。


 この時代のこの近辺でも上座と下座の文化はある。が、それは貴族社会でのこと。こんなド田舎では関係ねー。早く来た順に座っていくのが新しい我が家のルールとなりつつある。


 着席してしばらくして、皆がやって来た。


「ベー、調子はどうですか?」


「まあ、なんとかよくなったよ。心配かけたな」


 なにかうちの良心になっているカーチェさん。その優しさが身に染みるよ。


「ベー。起きたか。もういいのか?」


「ベー殿、気分はよろしいのか?」


 毎晩酒盛りに付き合いながら毎朝剣の稽古をかかさない親父殿と剣客さん。元気なおっさんらだこと。


「ああ。もう平気だよ。心配してくれてありがとな」


 親しき仲にも礼儀あり。ちゃんと礼は返さねーとな。


 なんてやりとりをしながら皆が席につく。


 以前ならサプルは作りに徹してたが、新しい家主の方針で食事は全員でとなったのだ。


 全員が座り、親父殿が家族の顔を見回した。


「うむ」


 満足気に頷く親父殿。まあ、その気持ちはわからないわけではないので好きにさせておく。


「では、いただきます」


 親父殿の音頭で昼食が始まった。


 まっ、親の音頭で始まる食事もイイもんだな。

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