第437話 サヤラ村への依頼
お昼近くにオーク兵の搬送が終了した。
「では、我々は帰ります」
もはや別人と化したイケメンのゴブリンが森の中へと消えて行った。
「やっぱゴブリンは進化すんの早いな」
あれから二月くらいなのに、別人と思うくらいに進化してやがる。このまま行ったら……なにに進化すんだ? まあ、なにになろうが次世代に活かせねーから一代限りだろうがよ。
種としての進化じゃなく個の進化。まったく残念な種族だよ、ゴブリンってのは……。
「さて。タロイのじいさんらを出してやるか」
「そう言えば村人がいたのぉ。あまりのことに忘れておったよ」
元の白い少女姿に戻った戦闘民族。オレもあまりのことに忘れてたわ。
「つーか、賢者殿はどっちが真実の姿なんだ?」
「内緒じゃよ」
なんて悪戯っぽく笑いながら言うが、九分九厘、戦闘民族……いえ、なんでもございません。
白い方が九分九厘、真実です。よっ、美少女ハイエルフ! 美少女は笑顔が一番。そんな殺気だけで人を殺せるような目で見ちゃやーよ。
「タロイのじいさん、終わったよ~」
優雅に華麗にその場から退避っ。生き残るためならオレは逃げるのも異問わねー男なのだ。
土魔法で固めたドアを解除する。
「おーい、終わったぞー!」
中に向かって叫ぶと、タロイのじいさんと村のもんが出て来た。
誰も彼も顔色はよくねーが、肉体的には問題ねーようだな。
「イイ具合に逃げ込められたようだな」
大暴走なんて突然だ。まず助からねーのが一般的だが、こんな山の中で一度経験してるだけあって生存率がハンパねー。村の九割が助かったようだ。
「木を伐りにいってたヤツらはダメだろうな」
確かに、あの数では万が一もねーだろう。可哀想だが、諦めるしかねー。それがここで暮らすと言うことだからな。
「滅茶苦茶になってんな」
「そうだな。でもまあ、生きてるだけめっけものさ」
「ああ。生きてりゃなんとかなるさ」
誰一人、嘆きの言葉は吐かず、落胆した様子はなかった。
これは楽観的ってわけじゃなく、心が強いってことであり、ここで暮らすと言うことを骨の髄まで知っているってことなのだ。
「まあ、炉は無事なんだ。鉄瓶や農工具を作ってくれたらオレが買うよ」
鉄瓶や農工具は、ラーシュのところで大人気。あっちじゃ竜王が滅ぼされたことにより、あちらこちらで開拓事業が盛んになってんだよ。
「すまんな。ベーには助けてもらってばっかりでよ」
「オレに得があるからやってるまで。気にすんな」
まさに、サヤラ村の鉄製品は得しか生まねー。ラーシュからもできる限り多くのものをと言われ、見返りに送られてくる銅製品はうちの食卓を豊かにしてくれ、なによりサプルが銅製品の鍋がお気に入り。サプルコレクションとか言って、保存庫の一室を支配してるほどだ。
まあ、それでも銅製品はあまるんだが、あまったものは帝国へ流し、これまた金で返って来る。最近じゃ食糧に変えて得してるよ。
「まあ、仕事が滞ると困るしな、寝るところを創っておくよ」
土魔法で簡単な家を数軒創り、埋もれていた炉を掘り起こして工房を復元する。
サービスし過ぎとか言われそうだが、こんなものはサービスにも当たらねーよ。村が元通りになるには何年もかかるだろうし、それまでは苦労しかねー。並みの精神じゃやってけねーくらい過酷な日々だろうからな。
「そうだ。一つ、サヤラ村に頼みてーことがあんだがよ。村長はどこだい?」
なんか姿が見えねーな。死んだか?
「村長ならまだ中さ。逃げるときに足の骨を折ってな、今、熱出して寝込んでんだよ」
「そりゃ災難だったな」
まあ、この村の村長だけあって村人の避難に熱くなって最後までがんばってたんだろう。こんな閉鎖的な村では信じられないくらいコミュニケーション能力が高い人だからよ。
「なら、おばちゃんでイイか」
村長の嫁で、ボブラ村の村長の末の妹。馴染みである。
「おう、誰か呼んで来てくれ」
と、しばらくして村長似のおばちゃんが出て来た。
「ベー。悪いね、助けてもらって」
「感謝は兄弟子からもらったから気にすんな。そんで、サヤラ村に頼みてーことがあんだわ」
「ベーの頼みなら二つ返事で受けるけど、難しいことはできないよ」
さすが村長の嫁で我が村の村長の一族。慎重でよろしい。
「なに、そんな難しいことじゃねーよ。この村で毛長牛を飼って欲しいんだわ。最近、手に入れたんだが、毛長牛って暑いところじゃへばる生き物でよ、村で飼うには厳しいんだわ」
もちろん、エリナのところにも預けたが、まだ人材がいなくて仮の牧場に五十頭を放逐してる状態なのだ。
「毛長牛がどんなのかわからないが、牛なんて飼ったことないよ」
「エサはそこら辺の草でイイよ。毛長牛は毛を利用する家畜だし、肉にするのは他でやってるしな。まあ、サヤラ村には毛長牛の繁殖だな。この牛は暑さには弱いが、病気には強いって話だから、灰色狼や肉食獣から守って欲しいんだわ。繁殖してエサが足りなくなったら運んで来るからよ」
全滅の危機を回避するためにも分散する方がイイ。なにが起こるかわかんねー世界だしな。
「報酬として毛はサヤラ村にやるし、その毛はオレが買うし、行商人に売ってもイイ。その判断はサヤラ村に任せる。どうだい?」
「……旦那が目覚めてからでいいかい? さすがにあたしじゃ決められないよ」
その慎重さが村を救ったんだ、ここは尊重しようじゃねーの。
「わかった。飼ってくれんならうちに来てくれ。あ、頼みてー数は番で三十頭な」
残り二十頭はモコモコ族にやって、島で飼ってもらおう。あそこも涼しいところだしよ。
「ああ。わかった。決まったらいくよ」
頼むわと言って、村に帰ることにした。
「賢者殿。ザンバリーのおっちゃん。村に帰るぞ」
早く帰って、サプルに今日はしゃぶしゃぶにしてくれとお願いしなくちゃなんねーしな。
しゃぶしゃぶ、早く食いてー!
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