第434話 マジスンマセン

「二人とも、乗れ!」


 二人に空飛ぶ結界を創り出して命じた。


 オレも空飛ぶ結界に飛び乗り、二人が乗ったのを確認せず発進させた。


「乗ってるか!」


 どちらもオレが操り、結界使用能力内なので声はちゃんと届くようにしてある。


「だったら確認してから動かせよ!」


「まったくじゃ。乗らなかったらどうするつもりじゃったのだ?」


「そんときは歩いて来い!」


 あれで乗れなかったら元A級冒険者の恥だし、戦闘狂は脳筋なだけ。ついてこられるだけ迷惑だ。


「それで、どうするんだ?」


「どうするもなにも狩りをするに決まってんだろう。待ち望んだブタだぞ、一匹残らず捕獲だ!」


 前世を含めて今生のオレはブタ肉が大好物。とくに角煮に目がない。あれなら余裕で一キロ……は食えねーか。今生のオレ、なぜか少食なんだよな。


 と、ともかく、ブタ肉が手に入る絶好の機会。ブタにオークに角猪に、あと見たことねーブタ。サプルにかかれば無限ブタ料理が一生続けられるのだ、死んでも逃さねーぜ。


「いや、そうじゃなくて、あれだけの大軍をどうやって狩る気だ! 少なくても四、五百はいるぞ! しかも、将軍級だ! 策もなしに突っ込んで勝てる相手じゃない!」



「手はあるし、策もある。そもそも飢饉いつでもかかって来いやのオレが大暴走に備えてねーわけねーだろうが」


 備えあれば憂いなし。こんなファンタジーな世界でスローライフを送ろうとしたら備えるのは当然だろうが。幸せは与えられるもんじゃねー。自ら得るものだ、こん畜生が!


「ライト、いくぜ!」


 収納鞄から鉄球を出し、放り投げて打つ。


 その先には、サヤラ村へと向かう角猪部隊がいた。


 まだ距離があり、木々が邪魔して到達することはできねーが、なにも真っ直ぐ打つだけがノックじゃねー。山なりに打ってフライを取る練習だってある。


 それに、鉄球は炸裂型。狙うのは面。それほど難しくはねーよ。


 もう三発打って、空飛ぶ結界の速度を上げた。


 しばらくしてサヤラ村を囲む柵か見えて来た。


 こんな時代のこんな山の中にあるのだ、柵があって当然。堀があって当然。なんだが、ただの大暴走と違って統率されたものによる襲撃。しかも魔術を使うものもいたんだろう、なんの役にも立たずに破壊されていた。


「おっちゃん! 賢者殿! 中は任せる。殺してもイイが、肉は残せよ! 肉に罪はねー!」


 なんのだよとの突っ込みはノーサンキュー。肉は正義だ!


 ハイ、それも突っ込みノーサンキューだよ。


 二人の空飛ぶ結界を能力範囲内まで飛ばし、二人が飛び降りたのを確認して、オレも空飛ぶ結界を着地させた。


 サヤラ村のような山の中にある村は、だいたい畑にして切り開いている。これは、魔物や野獣の発見をしやすくするためであり、山の中で生きる者の知恵であった。


「捕獲結界、発動!」


 なんて叫んだりしたが、やって後悔。スゲー恥ずかしいわ!


 村を一周して捕獲結界を仕掛け、土魔法で畑を砂へと変えた。


「チッ。もう来やがったか」


 さすが角猪だけあって脚が速い。だが、好都合です。


 村の前、わざと目立つ位置に立ち、角猪部隊をこちらに誘導する。


 統率するとは言え、所詮、角猪は角猪。臆病が売りの生き物を攻撃に使う。しょせん、力任せの脳筋バカ。小狡い人間様の敵じゃねーんだよ。


「捕縛!」


 次々と捕獲結界に捕縛されていく角猪ちゃん。今夜はごちそうだ!


 捕獲結界に捕縛された角猪を小さくして収納鞄に詰めていく。


「入れ食いどころか踊り食いだな」


 まあ、比喩的表現ですがね。


 疲れを知らぬ我が能力。あと、プリッつんの能力。もう百を越えたところで数えるのを止めたわ。


「にしても、角猪、絶滅したらマジーからあとでリリースしねーとな」


 この近くには狩人の村もある。生活の糧を一人占めにするのも偲びねー。ルールを守って狩りをしましょうだ。


 そんなことを考えていると、やっと角猪が途切れた。


 角猪の背後にはオークの兵がいた。相撲取りのような体格してるので、その進軍は遅い。その間に村の様子を見て来るか。


 捕縛結界を再度創り出してからサヤラ村の中へと入った。


 一言で言うなら中は滅茶苦茶だった。


 サヤラ村にはたまに来るので、なにがどこにあったか記憶している。


 人口約八十数人。前世なら限界集落だが、今の時代では珍しくもねー。開拓村など二十人くらいから始まると思えば結構発展した方だろう。


 村の中に入った角猪やオーク兵は、二人によって殲滅され、肉塊……つーか、ミンチになってるじゃんかよ……。


「ったく。肉を冒涜しやがって」


 肉は捌いてこそ、その旨さを発揮すんだぞ。こんなミンチじゃ猛禽か灰色狼しか食わねーよ。


「まったく、もったいねー。これじゃ貝のエサにもなんねーじゃんかよ」


 結界を使えばミンチを収拾できるが、そんな暇はねー。悔しいが、土に還すとするか。


「……ベーはどこでもベーだよな……」


 ミンチを土に還し、オーク兵の装備を集めていると、ザンバリーのおっちゃんが意味不明なことを口にした。なんだい、いったい?


「いや、外はどうなった?」


「美味しくいただきました」


 角猪数百匹をゲット。この世の恵みにお腹(収納鞄)がいっぱいです。


「あー……うん。そ、そうか。それはなによりだな……」


 なにやら遠い目をするザンバリーのおっちゃん。なんか影が薄くなってね?


「お主も大変な子どもを持ったものだのぉ」


 なにやら同情の眼差しで将来のオヤジを肩を叩く賢者殿。


 失敬な。こんなよくできた息子、他にいねーぞ!


 とか言えない息子でマジスンマセン。

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