第435話 メインディッシュ

 さて、メインディッシュ……じゃなくて、本隊が来る前にサヤラ村の状況を確認しとくか。


 つっても、サヤラ村はほぼ壊滅状態。残っているのは瓦礫とタロイのじいさんちくらい。もう夢も希望もねーって感じだな。


「酷いものだな」


「自然の摂理とは言え、惨いもんじゃな」


 賢者殿は知らんが、ザンバリーのおっちゃんならこんな光景、珍しくもねーだろうが、それでも慣れる光景じゃねー。苦々しい顔をしていた。


「ほんと、これがあるから油断できねーんだよな」


 幸いにしてボブラ村には訪れてねーし、こんな大規模な大暴走はなかなか聞かねーが、村が一夜にしてなくなる話なら何度も耳にし、一度だけ壊滅した村を見たことがある。


 なかなかどうして悲惨な光景だったぜ。


 まあ、深くは言わねーが、自然の無情、厳しさ、理不尽、人の脆さをトラウマになるくらい教えられたもんさ。


 死んでいった者にはワリーが、その死を教訓とさせてもらい、対大暴走を防ぐ方法を考えた。


 とは言っても中堅規模のボブラ村では、用意するだけで年単位。そして、誰にも知られずにやるのは不可能だ。で、その対大暴走用の実験をさせてもらったのが、ここ。サヤラ村。そして、協力者がタロイのじいさんだ。


 タロイのじいさんは、オババの三番目の弟子で、サヤラ村の薬師でもある。


 村の中央に建つ一軒の石造りの平屋。サヤラ村の薬所だ。


「……なぜここだけ無事なんだ? しかも、まったくの無傷とは……」


「まあ、ベーの顔からしてベーに関連ある者の家ってことじゃろうのぉ。よくわからんものが施されておるわ」


 二人の説明しろの無言の圧力を無視して、タロイのじいさんんちのドアを叩いた。


「タロイのじいさん生きてるか~」


 しばらくしてドアが開き、つるっぱげなじいさんが出て来た。


「ベー!? 来てくれたか!」


 オレの顔を見て、今にも泣き出しそうなタロイのじいさん。村長より若いんだからそのままポックリ逝くなよ


「おう。久しぶり。災難だったな」


「まったくだ。まさか大暴走に遇うんだからよ!」


 余程怖かったんだろう、元C級冒険者なのに、震えが止まらないようだ。


「アハハ。運が悪かったと諦めろ。こうして運よく生きてんだからよ」


 過ぎ去った恐怖より今生きている幸せ噛み締めろだ。


「そうだったな。お前のお陰でこうして生き残れた。ありがとな」


「気にすんな。同じオババの弟子同士。家族みてーなもんだ。守るのは当然だ」


 実験を赤の他人にはできんしな。


「そんで、村のもんはどうしたい?」


「皆無事だとは言えんが、ほとんどの者は無事だ。中におるよ」


 タロイのじいさんちの地下にはシェルターを創ってあり、ちゃんと村人が一月は暮らせるだけの空間と設備あり、食糧を置いてあるのだ。万が一、ボブラ村から逃げることがあった場合の避難所としてな。


「そうか。なら、まだ中にいろと伝えてくれ。オークの群れが来るからよ」


「通り過ぎたんじゃないのか!?」


 まあ、大暴走は、増えすぎたために起こるものであり、食料を求めて人里を襲い、なくなったら別を襲うのが一般的大暴走だ。


「いや、まだ途中だな。これから本隊が来るところだ」


 前菜でちょっと腹いっぱいになったが、メインディッシュ……じゃなくてオークは別腹。ちゃんと美味しく頂きます。


「……じゃあ、お前、どう……いや、お前なら問題ないか。土竜を殴り飛ばすお前だしな……」


 この村は、前にも土竜によって壊滅したことがある。まあ、土竜は、草食なので人死には出なかったがよ。


「まあ、そーゆーこった。それに、今日は元A級の冒険者と戦闘民族のハイエルフがいる。もうしばらくゆっくりしてろ」


「ハイエルフが戦闘民族って、初めて聞いたわ」


「わたしが言うのもなんじゃが、ハイエルフは究極の引きこもりの脆弱な種族だぞ」


 ハイ、後ろの雑音は聞こえませーん。


「ま、まあ、ベーに任すわ。村のもんにはわしから言っておく。無茶……はしないだろうが、自重はしてくれよ。お前が本気になったら大暴走以上の被害になるからよ」


 遠くにある噴火して崩れたような山を見て乾いた笑みを見せるタロイのじいさん。ハイ、殲滅技は殲滅するときに使います。


「大丈夫だよ。今回は殲滅じゃなく一網打尽だからな」


 そのための準備はしたし、時間も稼いだ。仕込みは万全よ。


「んじゃ、終わったら呼ぶからよ」


 言ってドアを閉め、一応、土魔法でドアを塞いだ。侵入されるのではなく、村のもんが出て来ないためにな。


「……お前はほんと、滅茶苦茶してるよな……」


「確かに。魔王が可愛く見えるわい」


 ハイ、後ろの雑音は聞こえません。


「二人は手を出すなよ。これ以上、ミンチにされたらたまったもんじゃねーからよ」


 これ以上、食材を無駄にするとか、オレの主義主張に反するわ。


 村の外に出ると、森の中からオーク兵が出て来たところだった。


「うんうん。なかなか肥えたブタどもだ」


 どれもこれも旨そうで涎が出そうだぜい。じゅるり。


「……この数を前によく言えるよな。おれですら肝が冷えてるって言うのによ……」


「うむ。さすがに多いな」


 視界を埋めるブタ肉……じゃなくてオーク兵が、槍や剣を掲げ、ブヒブヒ威嚇してくる。


「よく鳴くブタどもだ」


 これだけ元気なら身が引き締まってて歯応えがよさそうだ。あ、なんならしゃぶしゃぶ食いたくなってきた。今夜はサプルにお願いして作ってもらお~っと。


 と、ブヒブヒ威嚇が突然止み、前方のオーク兵が左右にわかれると、ブタに跨がったブタが現れた。


「逃げずにいるとは感心だ、裸猿ども。吾はセシリアート・アリエルト。派手に抵抗して食われろ!


 なんか無駄にカッコイイ名を持つブタだった。

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