第426話 天ぷらうめー!
なんつーか、A級冒険者ってスゲーんだな。って感心するくらい木を伐るのがハンパなかった。
オレも人のこと言えねーが、木を伐るのにナイフってねーだろう。つーか、切れ味イイな、それ。風の魔剣か?
軽く振るだけでオレの胴くらいある木があっさりと伐られ、枝なんて一振りで全ての枝が払われてしまった。
「これでいいか?」
「あーうん。イイんじゃね? 無駄がなくて」
ま、まあ、誰が見てるわけじゃねーしな、過程はどうでもイイだろう。多分……。
「ほんじゃ、木はそのままで枝を集めてくれ。だいたいオレの腕くらいの長さにして、それ以下のものはこんくらいに纏める。小枝も税になるからな」
薪を燃やすのに小枝は必需品。あと枯れ葉も集めると税と見てくれるよ。
「わかった」
さすがにナイフでは集められないようで、一つ一つ枝を集め始めた。
普通の樵なら木を伐るだけで半日くらいだが、枝を集めるのは五日から七日の作業どなる。
樵の仕事のほとんどは小枝集めと言っても過言じゃねー。無軌道に生えた枝を伐って集めて束にする。これがなかなかの重労働なのだ。
まあ、冒険者なだけあって軽やかに枝を伐り、集め、そして束にしているが、あまり効率のイイやり方ではねー。
効率的にやるんなら枝を均等に払い、全てが終わってから一ヶ所に集め、同じ量になるように束にして並べていく。
だがまあ、それも人それぞれのやり方。それが正しいとは言い切れねー。いろいろやって自分のやり方を確立していくのがベスト。なんで口出しはせず、ザンバリーのおっちゃんのやりように任せた。
「オレは、雑枝払いしてるな」
大家族の場合は、月に木を三本ほど伐らなくちゃならないが、三人家族のうちの場合は、一月に一本でことたりる。なんで、本当なら月に一回来れば充分なのだ。
だが、村のもんから反感を買われず、山を管理するためには定期的にこなくちゃならん。枝や木も生のままでは使えんし、家の置き場にも限界がある。そんな事情もあるが、オレがここに来る理由は、泉の管理のためだ。
クランコロスの群生地ではあるが、この泉の周りには薬草や食用になる植物が植えてある。それらがよく実るように雑枝を払ったり、泉に溜まった枯れ葉などを排除しなくちゃならんのだ。
「なにやらいろいろ咲いておるのぉ。うん? これはもしかして、チゴの葉か?」
「ほぉう。よく知ってるな。って、賢者殿、エルフだっけな」
白過ぎて忘れてたよ。
「チゴがどうしてここに? チゴが生るのはもっと北じゃろう。しかも、オブロンド氏族が秘匿してるものだ」
「さすが賢者殿。よく知ってる」
秘匿と言いながら知ってるんだから賢者殿もパネーぜ。
「ど、どうして、これがここにある?」
「そりゃ、オブロンド氏族に知り合いがいるからさ。エルフもその地域だけで完結はできない。生きるためにはいろいろ必要となるからな」
長寿で保守的なエルフだって食わなきゃ生きて行けないし、その地域で全てが賄える訳もない。森にだって不作の年はあり、魔物が増えるときもある。そんな自然の摂理がたまたま連続で続き、さらに山火事まで起きてしまった。
生きるために、外に出る必要に迫られた。で、ルククに乗って遠出していたオレと出会い、なんやかんやで交流が始まったわけよ。
そうちょくちょく行けないので、オブロンド氏族がこちらへとやって来て、その代価としてこの泉の改造をしてもらったのだ。
「……滅茶苦茶だのぉ……」
「だからこそオブロンド氏族は生き残れ、オレは泉を得られた。まさに理想的な共存共栄。世界を見習え、だな」
「……なにか違うと思うのはわたしだけか……?」
「人それぞれの解釈だ。納得できねーのなら納得しなけりゃイイさ」
雑枝を払い、泉に溜まる枯れ葉を掬う。久しぶりに来たとは言え、日頃から手入れはしてるし、結界を敷いて害虫の侵入を防いでいる。三十分もしないで終了した。
「ちと早いが昼食の準備でもするか」
さて。今日はなににするかなと悩んでいると、ふと、アバラが視界に入った。
アバラは土筆に似たもので、味はふきのとうに似ている山菜だ。時期はちょっと過ぎたが、成長の遅いやつなら大丈夫だろう。
五センチくらいのものを探して採取する。それ以上になると苦いのだ。
「こんなもんでイイか」
片手に握れる程度しか集められなかったが、大葉に似たルハやウドのようなものもある。これだけあれば充分。あとは収納鞄から出せばイイしな。
「竈? なにをするのだ?」
「昼食の用意さ。まあ、見てな」
ここに来たときの楽しみの一つ、それは山菜天ぷらを食うことだ。
まあ、収納鞄に入ってはいるんだが、採れ立てをその場で食うのも天ぷらの醍醐味。雰囲気も味わえってことさ。
土魔法で創った鍋に豆油を流し、数ヶ月前に集めた薪をくべて魔術で火を着けた。
熱する間にサプル特製の天ぷら粉を出して衣を作る。こんなものかな?
菜箸についた衣を豆油に入れて温度を見る。もうちょいかな?
「ザンバリーのおっちゃん。ちょっと早いが昼食にしようぜ」
「おう!」
ザンバリーのおっちゃんが来る頃にはイイ感じに熱しらた。
まずはアバラから揚げる。うし! イイ感じ!
「ほい。食ってみな」
まずはレディーファーストだ。
渡した皿に乗せられたアバラを不思議そうに見てたが、イイ香りにつられて口にした。
「……美味い……」
「それはなにより。塩をつけて食うのも乙だぜ」
収納鞄から塩瓶を出して渡した。
「ベー。チゴを揚げてくれ。久々に食いたいぜ」
薬草の材料となるチゴだが、天ぷらにするとなかなか通な味になるのだ。オレはあんま好きじゃねーがな。
「あいよ」
泉へといき、チゴの葉を何枚か採って揚げてやる。
食欲旺盛な二人が食している間にオレもつまみ、のんびりゆったりの昼食を頂いた。
天ぷらうめー!
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