第373話 魔族の商人

 酒は飲んでも呑まれるな。


 なんて諺(だっけ?)が思い浮かぶほど、節度ある飲み方をする美中年さんらだった。


 まあ、宰相たる美中年さんの前で、我を忘れるような飲み方などできんだろうが、ちゃんと酒の味を楽しみながら飲んでいるのだ。


 ……まさに、人間止めましたな飲み方だったもんな、人外どもの場合は……。


 やっと復活した鍛冶ギルドのマスターと会長さんの連れのあんちゃんも混ざり、酒談義に花を咲かせていた。


 酒が飲めないオレは、コーヒーを飲みながらぼんやりと聞いていた。


 と、ドアがノックされる音が耳に届いた。


「あいよ」


 ドアから一番近いバーの椅子で飲んでいたので、オレが対応します。


 ドアを開けると、先程の鬼のねーちゃんがいた。その背後には王弟さんらがいた。


「お客様をお連れしました」


 なんとも教育がいき届いてるもんだと感心しながら、礼を言って王弟さんらを招き入れた。


 王弟さんとその娘と続き、変態ねーちゃん、マー……マー、マー、なんだっけ? まあ、じいさんズが入ってきた。


 じいさんズ、関係ねーじゃんとは思うが、まあ、お隣の国のお偉いさん。いた方がいろいろと好都合ってもんか。こちらもお偉いさん、来ちゃったしな。


 さっきまで酒談義に花を咲かせていた美中年さんらも、座って対応するのは無礼と、立ち上がっており、それぞれの本業の顔で迎えた。


 んじゃ、あとはよろしく、とはいかねー雰囲気あり、それは無責任ってもの。しょうがねーと間に入った。


「まあ、なんだ。お互い、いろんな事情があると思うから、名乗る名乗らねーはそれぞれの判断に任せるわ」


 勝手に着いてきたとは言え、それぞれの立場があり、思惑がある。そこにどうこう言う気はねーし、関わる気もねー。それこそ勝手にしろだ。村人の領分ではねーよ。


「では、わしからいこう」


 と、会長さんが前に出たので、オレはその場から下がり、全てをお互いに任せた。


 お互いの自己紹介を、右から左に流しながら酒を用意する。


 マー……ベラスじゃなくて、マーブルでもなくて……まあ、じいさんの酒の趣味、と言うか、カムラは温めた葡萄酒を好むお国柄。これでいっかと棚から適当に選んで湯煎(?)的なことをして温める。


 だいたい五十度くらいが適温とか言ってたから、こんくらいかな? とまあ、テケトーです。


「珍しい葡萄酒だな。アーベリアン産なのか?」


 ほれと、マー……じいさんに出すと、即座に聞いてきた。


「詳しくは知らん」


 短く答えて、その場を去った。


「つーか、なんでお前は、この中に入らないんだ?」


「オレの仕事はこの場を作ること。その報酬として毛長牛をいただく。他はマーじいさんらの仕事だ」


 全てのことに関わってらんねーよ。メンドクセーわ。って言うのが本音だが、村人でいるための、オレなりのけじめだ。


「……ところで、マーじいさんっなんだよ。また、わしの名を忘れてるだろう、お前……」


「ガンバってマーだけは忘れてない!」


「なに一つ威張れた話じゃねーな!」


 ハイ、すんません。


 素直に謝って速やかに退散した。もちろん、部屋からね。


 そのまま一階へと下りると、ロビーにカイナと、漆黒の髪と真っ赤な瞳を持つ、書物に書かれている魔族の男(見た目的には三十前後くらいだ)が、同じテーブルに着いていた。


「カイナ」


 と呼ぶと同時にカイナが振り返り、こちらへとこいとばかりに手招きした。


「なんだい?」


 同じ席につき、ウエイトレスの……なに? なんか、半透明な……なに? なんか上手く表現できねー幽霊のようなねーちゃん(?)にメロンソーダを頼んだ。


「ちょっと紹介と言うか、ベーのしていることに一枚噛ませたい者と言うか──」


「──魔族にも商人っているんだ」


 魔族がいる大陸は、自然の猛威があるせいで、交流がまったくなく、謎とされている。まあ、辛うじて竜人族を介して情報が入ってくるから姿形はわかっている。


「確か、魔族二十四種族が一つ、セイワ族、だっけか?」


「……物知りだね、ベーって。どんだけ情報通なのさ?」


「本を読んでりゃ名前と姿を知ることは可能さ。で、そのセイワ族の商人さんがなんでまた?」


「うん、こちらにも物を回して欲しい。と言うか、文化を」


 文化? 意味わからんのだが?


「魔族って、生命体的には強いんだけど、文化を生み出す能力は、この世界で最低で、強さがルールってところがあるんだよね」


「まあ、無駄に強いヤツはそーだわな」


 オレの中では、強いことに甘んじて成長も進化も諦めた滅びに向かってる種と認定してある。


 特に知性を持つ竜に出てんな。あれはもう、家畜にも劣る生命体だ。生きてるだけ無駄だと思うわ。


「成長と進化、ね。確かに、魔族は先に進もうって気がないよね。まだ猿の方が高尚な存在だ」


 チラっと魔族の男を見ると、同意の頷きをしていた。


「カイナから聞いているだろうが、オレはベー。よろしくな」


「これは名乗りが遅れました。わたしは、アダガ。商人です。どうぞよしなに」


 へ~。なかなか砕けたヤツだな。イイんじゃねーの。


「アダガさんは、なんで文化を仕入れようと思ってんだ?」


「自分の好奇心を満たすためにです」


 キッパリと言うアダガ。イイ理由じゃねーの。


「商売したいと言うなら歓迎するさ。だが、アダガさんは、なにをこちらに売るんだい?」


 商売と言うんだから、一方的な買いも売りもしねーってことだ。


「香辛料を数百種類売りたいと思います」


「香辛料?」


「魔族が住む大陸には、たくさんの香辛料が採れてね、カレーのようなものが食べられてるんだよ」


 ほぉう。それは興味深いじゃねーのさ。


「わかった。建国主要メンバーに加えるよ」


 カレーか。ちょっとやる気が出てきたぜ。

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