第367話 庭で昼食を

 少々時間を食ったようで、昼を過ぎてしまったよーだ。


「時間も時間だし、昼食にすっか」


 このまま広場に行けば一時は過ぎるし、どのみち昼食で時間も食う。なら、ここで食ってってもイイだろう。どうせ、つもる話は夕食後になるだろうからな。


「ベー。先にいって宿泊の用意するよ」


「昼食はイイのか?」


「飲み過ぎて食べる気しないからね、ちょっと動いてくるよ」


 魔王の体がどうなってるか謎だが、本人がそう言ってるのならお願いしますだ。


「あ、場所はどこにする? おれとしては景色の良いところにしたいんだけどさ」


「広場の真ん中じゃなけりゃどこでもイイよ。カイナに任すわ」


 餅は餅屋。カイナの判断で構わんよ。


「了解。任された」


 と、どこからかバイクを出して走り去っていった。


 ……ほんと、躊躇いのない人生を送ってるな、カイナは……。


「な、なんなのだ、あれは!?」


「魔道具だ」


 そうバッサリ切り捨て、庭にテーブルと椅子を土魔法で創る。


「ちょっと座って待っててくれや。ちょっともう一組の客を片付けてくっからよ」


「客? 誰かきてるのか?」


「いや、一緒にきた商人と剣客さんだよ。まあ、暇があったら紹介するよ。計画の要になってもらう人だからな」


 そう言って離れへと向かう。


 時間がなくて片付けてねーが、寝せるだけなので構わんだろう。


 ポケットからチャンターさんと剣客さんを出してベッドに寝かす。


「……あ、チャンターさんって、どんくらいのサイズだったけ?」


 今更ながらにしてプリッつあんの能力を把握してないことに気が付いた──が、まあ、いっか。だいたいで。


「……こんなもんだろう」


 オレの考えるな、感じろ的観点から見て、このくらいだったはずだ。多分……。


 まあ、なんか違和感があれば言うだろうと、剣客さんもテケトーに大きくした。


「今、昼食の用意すっからよ。もうちょっと待っててくれや」


 と、席に座る会長さんに言った。あれ? 他にもいたよな?


「初めてきた者には、お前んちは宝箱だからな。つーか、住居が増えてるって意味わかんねーよ!」


 あー。そー言や、会長さんらがきたときは、あんちゃんの家もドワーフのおっちゃんの家もなかったっけな。


「時が過ぎるのは早いな」


「お前の一月、どんだけ長いんだよ!」


 オレ的には一年くらい昔のような感覚だな。


「ベー! これはいったいなんなんだい! どうしてこんな丸みが出せるのさ!」


 なんか昨日のメルヘンズを思い出すかのように、カイナの家の壁にへばりつくサリネさん。あなたも大概ですよね。


「技術だろう」


 それ以上のことは知らんよ。


 興奮する木工バカを放置し、昼食の用意をする。つっても、収納鞄から出すだけなんだがな。


「相変わらず、お前の鞄からはなんでも出てくるよな。どんだけ入ってんだよ」


「ん~。オレもよくわからん。取り合えず入れとけ、な性分なんでな」


 まあ、調べようと思ったら調べられるんだが、メンドクセーから必要になったときに調べることにしているんだよ。


「まったく、絵本に出てくる魔法使いも真っ青だな、お前……」


 へ~。絵本とかあったんだ、この時代に。そりゃイイこと聞いた。暇ができたら探してみるか。


「あ、昼食、適当でイイか?」


 基本、オレ収納鞄の中にある食料は、大人数か一人分のものしか入ってねー。五人とか十人と言う中途半端な量は入れてねーのだ。


「構わんさ。適当でも最高だからな、サプルの料理は」


 そりゃそーだ。


 と言うことで、トロトロ肉鍋と塩漬けの野菜、フランスパンのようなわざと日保ちするように固くしたパン、あとは、カイナが出したワインでイイか。


 前世同様、飲み水がキタネー時代では葡萄酒やエールは日常的に飲まれているもの。出しても不思議ではねーんだよ。うちの食卓以外では、だがな。


「どれもこれも旨そうだな、こん畜生が!」


 どんな喜びの表現だよ、まったく。


「つーか、美中年さんは?」


 あと、他にもいたよね。誰だったかは言わないけど。


「お前には普通でも、知らない者にしたらここにあるもの全てが興奮するものだ」


「ふ~ん。意外と好奇心旺盛な美中年だ。で、あのおっちゃんって、鍛冶関係の人なんか?」


 ゴッツイ見た目からしてガテン系の人なんだろうとは思ってたが、鍛冶場を見る真剣さから言って、それに近い人だろう。そもそも石炭繋がりで連れてきたんだろうからな。


「鍛冶ギルドのマスターだ。さすがにわしだけでは決められんからな」


 おや、お偉いさんだったのね。どっかの工房の大将かと思ってたわ。


「お前に頼まれたものを造ってもらう関係上、一度は顔合わせさせたかった意味も含めて連れて来たんだよ」


「ドワーフって、鍛冶ギルドとかに入ってんだ」


 いやまあ、その辺の事情はよー知らんけどさ。


「当たり前だろう。移住民権を買わなくちゃ街では暮らせんし、街は各ギルドが仕切ってる。いろいろあんだよ」


 確かに、法律とかザルな時代では、ギルドが仕切らねーと纏まるものも纏まらねーもんな。メンドクセーが、しゃーねー、だな。


「まあ、その辺は会長さんに任すわ。好きようにやってくれ」


「まったく、軽く言いやがって。国で管理されるようなものを穏便に済ませるようにすんには苦労もんなんだぞ」


「らしいな。オレもねーちゃんたち、渡りの冒険者に聞いて驚いたよ」


 ファンタジーな金属に、だがよ。


「本当にあれのこと知らなかったのか?」


「田舎で仕入れられる情報には限界があっからな、知らねーことはいっぱいあるさ」


 その辺だけは困りもんだよ。


「まあ、そんなことより昼食だ。温かいうちに食えや」


 興奮してるヤツはあとだ。料理を出したら食すのが我が家のルールなんでな。


「では、いただきます」

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