第368話 昔話

 まあ、なんだ。ちょっと昔話でもするか。


 いつ、ってのはこの際、流すとしてだ。夜、いつものようにラーシュからの手紙を読んでるときだったかな?


「あんちゃん、ルクク食べちゃうの!?」


 近くで編み物をしていたサプルが、突然、そんなことを言ってきた。


「はぁ? なんでルククを食わなくちゃならねーんだ?」


 ワリー、マイシスター。あんちゃんに説明ぷりーずだよ。


「だ、だって、あんちゃん今、竜って旨そうだなって……」


 え! オレ、そんなこと言った? マジで?


 言ったかどうかは自分でもわからねーが、まあ、手紙に竜の肉は滋養強壮があり、貴族でも滅多に食べれないものだと書かれていたから、つい、そんな言葉が漏れてしまったのだろう。多分……。


「ルククは食わねーよ。違う竜だよ」


 そう言うと、ほっと安心するサプル。その純真が失われないことを切に願います。


「竜って美味しいの?」


 ルククじゃないとわかると、料理人の顔になるサプルちゃん。


 この頃にはもう料理の才能に目覚めていたので、新しい食材には関心を示すようになっていたんだよ。


「どうだろうな? この辺、竜とかいねーしな」


 ブララ島にいったときに出会った火竜は、サプルが撃ち落として回収できなかったからな。


「そっか。竜、捌いてみたかったな~」


 なかなか豪気なマイシスター。あんちゃん、ちょっと引いたよ。


「ま、まあ、竜がいね……あ、そー言やぁ、ザンバリーのおっちゃんが、どこかの山に飛竜が住み着いたとか言ってたっけ」


 どこの山って言ったっけな? えーと、えーと、あ! 思い出した! カムラ王国のニヒリト山だっけ!


 ここから三百キロほど内陸にいったところにある山とか言ってたっけ。


「飛竜か。あんだけデカけりゃいっぱい肉が取れるな。よし! 飛竜を狩りにいくか」


 飛竜は、だいたい二十メートルくらいあると聞いた。なら、それから取れる肉は、何千人分となるだろう。飢饉に備えるにはちょうどイイんじゃね?


「あんちゃん、あたしもいきたい」


「ん? 珍しいな、お前が狩りにいきたいだなんて」


 綺麗好きなサプルは、汚れる仕事や汚いところにはいきたがらないのだ。


「だって、前から竜を捌いてみたかったし、いくなら日帰りでしょう? それに、あんちゃんがいくならそんなに汚れる狩りしないしね」


 まあ、オレの狩りは一般的な狩り方と違うからな。


「んじゃ、いくか」


「うん!」


 なんて心温まるホームストーリーがありましたが、ルククがくるのは決まってねーし、内陸部にそんな詳しいわけでもねー。ましてや日帰りではすぐにとはいかなねー。


 なんだかんだで一月ぐらいかかったかな?


 その間に竜の鱗や皮膚は堅いそうなので、竜を捌く用に、白銀鋼を基に、結界を施した包丁、百花繚乱ひゃっかりょうらんを創ったのはイイ思い出。今ではサプルの一番のお気に入りになってるよ。あ、まあ、どーでもイイ話か、それは。


 で、だ。なんやかんやといろいろあったが、なんとか飛竜がいるニヒリト山にこれたわけだ。


「……飛竜、想像以上にデケーんだな……」


「おっきねー。あれ、捌けるかな?」


 もはや怪獣。三分間変身ヒーローにお出まし願いてーくらい、デカかった。


「どうする、あんちゃん?」


「ん~。あれだけデカいと、さすがに時間がかかりそうだな」


 え? なにがって、もちろん、捌くのにだが? それ以外になんかあんのか?


 まあ、時間がかかろうが、滅多にない大物。頭の先から尻尾の先まで無駄なくいただきます、だ。


「とりあえず、大雑把に解体して持ち帰るか。もう昼過ぎてるしな」


「そうだね。今回は肉を捌くのでガマンする」


 聞き分けのイイ妹であんちゃん嬉しいよ。


「んじゃ、狩るか」


 と、ズボンの右ポケットから魔剣バットを抜き放つ。


「サプル、球」


 言って魔剣バットを振りかぶる。


「いくよ、あんちゃん!」


 土 魔術で鉄球を創り出したサプルが、ほいと、鉄球をオレの前に放り投げる。


「ふん!」


 殲滅ノック──撲殺ボールを力の限り、振り回した。


 ガギン! とばかりに飛竜に向かって一直線。飛竜の顔面にヒットした。


「お、さすがにデカいだけはある。大して効いてねーぜ」


 怒りに咆哮する飛竜だが、さすがに五百メートルも離れていると迫力がいまいちだな。


「サプル、次!」


「あいさ!」


「秘技、炸裂ボール!」


 いやまあ、秘技でもねーんだが、そこはかけ声。人それぞれの気合いのかけかた。突っ込みはノーサンキューだぜ。


 飛竜にヒットするとともに鉄球が炸裂。ちょっとだけ飛竜を揺るがした。


 ではと、炸裂ボールを連打。さらに連打。六十球くらいで飛竜が地に落ちた。


 まあ、落ちたとは言え、竜は竜。並大抵の生命力ではねー。


「サプル、砲弾!」


「よいさ!」


 土魔術で砲弾を創り出し、オレの胸くらいの高さに浮かべた。


 結界で砲身を創り出し、装填する。


「殲滅技が一つ、爆裂パンチ!」


 全力全開で砲弾を殴り付けた。


 砲身内で回転されながら砲弾が打ち出され、一直線に落ちた飛竜へと向かう。


 飛竜の背にヒットするが、やはり体を揺るがしただけだった。


「サプル、連発!」


「あいあいさー!」


 並べられる砲弾を次々と打ち出す。


 さすがの飛竜も百発以上食らったら完全に動かなくなった。まったく、しぶとい野郎だぜ。あ、飛竜、雌でした。ちなみにだけど。


「オレが死んでるのを確認したらこいな」


 そう言い残して駆け出し、飛竜の生死を確認。よし、死んでると、殲滅技が一つ、結界切断で適当な大きさに切り分けた。


「あんちゃん、あたしもやりたかった!」


「アハハ。ワリーワリー。今度は任せるから許せ。ほれ、結界に仕舞うぞ」


 と、まあ、無事飛竜の肉ゲット。あとは、サプルちゃんにお任せだ。


「……と、まあ、サプルの創意工夫でできたのが、これ。飛竜のコトコト柔らか肉鍋ってわけさ」


 なんでそんな話を? と、尋ねる者に答えよう。


「これ、旨いな。なんの肉だ?」


 と、やっと席につき、昼食を取った美中年さんが尋ねてきたので、そんな話をしてやったのだ。オレは食い終わり、皆が食い終わるのを待つ間の繋ぎとしてな。


 なのに、全員の箸……ではなく、フォークが止まり、なにやらマジな顔になっていた。


「どったの?」


 尋ねるも、沈黙しか返ってこなかった。


「えーと、どったの?」


 再度、尋ねるものの、やはり沈黙しか返してくれなかった。


 なんだか知らんが、マ〇ダムタイム。あーコーヒーうめー! 

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