第364話 三国一
「いや、なに普通にいこうとしてんだよ、お前は!」
普通もなにも普通にサリネんとこ向かってたじゃねーか。なに言ってんだ、会長さんは?
「いくらお前でも貴族にそんな態度をとるなど許されんぞ!」
へ~。さすが貴族を相手にしているだけあって、心構えが村人とは違うんだな。あ、いや、身分制があるところじゃ、これが当たり前か。オレが非常識なだけか。
「そんなもん今更だろう。大老どのにもこの口調だしな。それこそ、この口調が無礼にあたるんなら、さっさとこの場を去るのが配慮ってもんだろうがよ」
そして、お互いのため。相容れぬのなら、速やかに離れろ、だ。それが無難ってもんさ。
「なるほど。さすがあの祖父に見込まれ、我が国の大魔導師を退けるだけはある。豪胆なもの」
「たんに、クソ生意気で、世間知らずなガキなだけさ」
「まるで説得力がまるでないわ! クソ生意気で世間知らずを理解させたいのなら、もっと態度に表せ!」
え? これってないくらい出してんだが、通じてないの? マジで?
「……ほんと、お前は、どこまで本気でどこまで冗談なのか、未だにわからんよ……」
「オレは常に本気で生きてるぜ」
まあ、受け入れられるか受け入れられないかは、それぞれの主義主張次第だがな。
「ってなことで、用がないのならこれで失礼するぜ」
返事を待たずに歩き出すが、待ち伏せしていた時点で用があるってこと。そうはわかっていても逃げたくなるのが人情ってものさ。
横を我が物顔で歩く美中年にため息、ではなく、へーと感心の声が出てしまった。
「なんだ?」
それに気が付いた美中年さんが眉をしかめた。おっと、気にさわったようだ。こりゃ、失礼。
「いや、この国って、オレが想像してたより豊だったんだなと、思ってな」
国力がある、と言う意味でだ。
「それを、なぜわたしを見ながら言うのだ?」
「そりゃ、美中年さんの態度と行動を見てわかったからさ。ほかになにがあんだい?」
商人じゃねーんだ、市場を見ても国の豊さなんて計れねーよ。
「意味がわからんな」
「ベーよ。わしらにもわかるように言ってくれ」
会長さんの要求に、美中年さんを見る。
「聞きたいと言うならしゃべるが、耳にイイもんじゃねーぞ。それでも聞きたいのか?」
その問いに、美中年さんは無言で頷いた。
「美中年さんの態度や行動からあんたが賢いのはわかるし、重要な地位にいるのがわかる。にも関わらず、こうして街に出てくるのだから他の貴族よりはキレると言うこともわかる。だが、それを隠し切れてもいないし、隠そう……とは思ってんだろうが、つーか、その服なんなの? どこで着る用なの? 目立ってしょうがねーよ」
服の質は落としているようだが、それを着る職業ってなんだよ。街のオシャレ野郎でもそんなもん着ねーし、見たことねーわ!
「あと、お忍びならそのいかにもな貴族然とした態度をなんとかしろ。子供でもあんたが貴族とわかるわ」
もう貴族じゃなけりゃ、ただのバカだよ。見ていて痛いわ。
「会長さんからは、しもじもにも心を配る良き貴族と映っているかもしれんが、オレから見たら無知で幼稚なお貴族様の愚行にし見えんわ。それで許されるんだから感心もしたくなるよ」
人外と言う恩恵のないカムラのじいさんズと、人外と言う恩恵を持つ美中年さんたち。真剣度が天と地ほどにも差があるわ。
「納得いかないって顔だな。まあ、そこで激高しないだけ、あんたは優秀な貴族で、人としてもできてるよ。だが、それでもオレから見たら、親の力をまるで自分の力と思い込んでるバカな子どもに見えるんだよ。お前になにがわかる! とか言わないでくれよ」
そう言いそうな感じがしたので、先に制した。
「あんたがオレを品定めしているように、オレもあんたを品定めしてることを忘れるな。あと、オレとしては、大魔導師よりは高く評価してんだ、それ以上、オレの見る目を貶めるような言動はやめてくれよな」
この美中年さんに足りないのは経験だ。そして、人との触れあいだ。
それさえクリアできたら、この美中年さんは、三国一の宰相になれるだろうよ。
あと、三国ってどこよ? って突っ込みはノーサンキュー。たんに語呂がよかっただけだ。
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