第342話 コークスクリューパンチ

 どうやら会長さんが借りた倉庫は、港側の倉庫だった。


「なんでまた?」


 と、疑問に思いねーちゃん──ザニーノの聞いて見た。


「港内はマフィアが仕切る場所だから内密に事を進めたいのなら持ってこいの場所なのよ。最近、帝国の間者が多くてね、邪魔されたくないからマフィアとの協定は助かるわ」


 なにやら当然のように言っちゃってますが、それ、村人に軽々しく言っちゃダメな情報でしょう。つーか、帝国はなにやってんの。この国にケンカ売るとか正気の沙汰じゃないよ。


 まあ、嫌がらせくらいで出てくる人外さんらじゃねーが、表で生きてる人らはご苦労さまです、だな。


 港に入ると、マフィアだろうあんちゃんらがこちらを見るが、近付いてこようとはせず、そのまま通り過ぎていった。


「ベー、なんかしたの?」


「ケンカを吹っかけてきたから買っただけさ。まあ、ご隠居さんが出てきて仲直りしたがな」


「仲直り、ね。完全にビビられてるけど」


 それは人それぞれの主観。ちょっかいかけてこなけりゃオレ的には仲直りさ。


「……道理でマフィア側が協力的だと思ったらベーが関わっていたのね……」


 呆れた顔でオレを見るザニーノさん。なんか周り全て敵って感じだな、こん畜生。


 三人(?)からの視線を無視して先を進んでいると、チャンターさんの船が見えてきた。


 ……あー、チャンターさんもいたな……。


 なんか遠い昔のような気がしているの忘れてたわ。


「あ、ねーちゃん。ちょっと寄り道するな」


 断りを入れてチャンターさんの船に向かった。


 船の前にはどこの剣客だよ? と突っ込みてーおっちゃんが船に上がる桟橋の前にゴザを敷いて座っていた。


 まあ、さすがに日本刀と言うこともなく、ファンタジーな剣がゴザの上に、ちゃんと手が届く範囲にあった。


「東洋系ファンタジーに出てきそうな人だね」


 東洋系ファンタジーがいかなるものか知らねーが、なにを言わんとしてるかは、まあ、なんとなくはわかる。出てくるジャンル、間違えてんじゃね? ってくらい武侠なオーラを出していた。


「おう、おっちゃん。チャンターさんいっかい?」


 瞑想でもしてんのか、オレが目の前に立っても反応しないので声を掛けた。


「おれのときもそうだったけど、ベーってほんと、怖いもの知らずだよね。こんだけ殺気を出してる相手に近づくばかりか、気軽に声をかけるんだから」


「別に殺気なんて珍しいことじゃねーだろう。いつも感じる殺気に比べたらカワイイもんさ」


 あれはマジで命の危機を感じる。股間がキュッとするもんだ。


「……ベー。子供に殺気がカワイイとか言われるこの人の立場も考えてやりなよ。侮辱どころかたんなるイジメだよ……」


 え、そーなん? と剣客さんを見たらちょっと俯き加減。傷つけちゃった?


 そりゃワリーと謝ろうとしたらカイナに頭をつかまれ、持ち上げられてしまった。


「ベーは黙ってて」


 と、横へとずらされた。


「悪いね。この子、非常識な存在に非常識と言わせる子だから気にしないでよ。あなたの強さはおれが認める。なんせおれの気配を前に微動だにしないでいられるんだからね。うん。尊敬に値するよ、あなたは」


 カイナの言葉に剣客さんの瞼が開き、まっすぐカイナを見た。


「かたじけない」


「どう致しまして」


 目と目で通じ合うお二人さん。オレにはさっぱりだよ。


「男と男の友情か。いいよね」


 頭の上の住人さんが感動しているが、オレも友情場面見せてるよね? 君の目の前で。なのに、その温度差はなんなの? マジ納得できないんですけど!


「おれ、カイナ。今はベーの、この子の友達をやってるよ」


「わたしは、タジト。今は真理を求めている探求者だ」


 あー、ゴメン。どこで突っ込んでイイのかわからんから勝手にお邪魔させてもらうわ。ハイ、ちょっくらごめんくださいよ。


「チャンターさん、いるか~?」


 前に通された部屋の扉をノックすると、二秒もしないで扉が開かれた。


「ベ、ベーか!?」


「おう。そのベーだ」


「いや、そのやり取りおかしいから!」


 頭の上の住人の突っ込みなんて聞こえません。あーあーあー。


「……まったく、お前は……」


 と、なぜかため息をつくチャンターさん。あら、ヤダ。子供は見ちゃダメな状況でしたかしら? なにやらピンクな感じが部屋から漏れてきますが。


「お、こりゃお盛んなところを失礼した。昼くらいにまたくるから続けてくれや。んじゃな」


 お邪魔虫はさっさと退散しますかね。


「今さら遅いわ! ちょっと外で待ってろ! すぐにいくからよ!」


 バンと扉を閉められた。


「遠慮しなくてもイイのにな?」


 そう、横を浮遊しているプリッつあんに同意を求めたら、なぜかコークスクリューパンチが返ってきた。


「乙女になに聞いとんじゃ、ボケ!」


 その日、妖精に男女の区別があることを知りました……。 

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