第339話 人外区
「……なんと言うか、おれも大概バカなことしてきたけど、自力で地下ダンジョン創るベーには負けるよ……」
転移するために保存庫にきたら、カイナが興味を示したので案内したらそんなこと言われた!
「ダンジョンって、そんなわかり難く創ってねーぞ。ちゃんと案内板だって貼ってるしよ」
「いや、家族以外入らせないとか言ってるのに案内板とか意味わかんないよ! 誰に見せるのさ!?」
あー確かに。
「誰だ?」
「真顔で聞かれても知らないよ!」
だよね~。なんで作ったんだろう、オレ?
「……ほんと、ベーって極端だよね。凄く洞察力が鋭いと思ったら子供でもしないバカをやるんだから……」
「別にオレは普通だし、普通の頭だぞ。まあ、バカなことをするのは大好きだけどな!」
「確信犯!?」
なんて軽いジョークを交わし合いながら転移の間にやってきた。
「……まんまダンジョンじゃん……」
うん、そこは否定しねーよ。オレもそう思ったからな。
「カイナにはこれの仕組みわかるか?」
「いや、全然だよ。体は魔王でも中身はサバゲー好きなおじさんだからね。まあ、魔王が覚えた魔術は使えるけど、魔術自体にあんま興味ないから大半は使ったことないけどさ」
まあ、趣味は人それぞれ。どうこう言うつもりはねーが、それで済ませられるカイナも大概だと思うけどな……。
「このファンタジーな世界で銃とか役に立つのか? 精々オークくらいまでだろう」
銃自体それほど詳しくはねーが、オーガの皮膚なんてなまくら剣では傷一つつかねーし、ついたところで直ぐに治癒してしまうぞ。
「そこは武器と戦術次第さ。武器は出し放題。弾尽きることなし。銃無双さ。それに、これでも74式で蒼竜を撃ち落としたことだってあるんだからね!」
なんかスゲー自慢気に言ってるが、74式ってなんだよ? なんかの武器だってのはわかるが、生憎オレはサバゲーを知らずに育ってきた男なんだよ。つーか、蒼竜も知らんわ。
「はいはい、武器談義は今度な。好きそうなヤツ紹介すっからよ」
まあ、タケルも潜水艦とか好きそうだったし、カイナと話が合うだろう。いや、わかんねーけどさ。
「あ、そー言や、これってカイナも一緒に転移できんのかな?」
肝心なこと聞いてなかったわ。
「多分、だけど大丈夫だと思うよ。魔王の記憶の中にもこれと似たようなものがあったし、この空間ごとの転移だと思う」
なら大丈夫か。まあ、やってみろだ。とやったらあら成功。無事カイナ──と、頭の住人さんも転移できた。
「へ~。これを創った人、かどうかはわかんないけど、スゴいね。魔術にまったく無駄がないよ」
「わかんのか?」
さっきは全然とか言ってたが。
「詳しいことはわかんないけど、魔王の目はそう言う魔術の形を見れるからね、スゴいとかスゴくないくらいはわかるんだよ」
ふ~ん。魔王っていろんな力持ってんだな。
「まあ、オレの領域じゃねーし、どうでもイイわ。いくぜ」
今回は平衡感覚も大したことねーし、気分も悪くねー。あと、会長さんちまでの道は覚えてある。
上に行こうとしたらなぜか扉が開かない。故障か?
「いや、ロックされた感じだね」
「ロック? って、閉じ込められたってことか?」
侵入者でも入ったんかいな?
さて、どうしましょうと考えこんでいると、ご隠居さんが忽然と現れた。
「おーナイスタイミング。助かった……って、どーしたん? そんな怖い顔して?」
なんか強敵を前にしたような緊迫な顔してよ。
「……ベ、ベー。これは一体なんだと言うのだ……?」
「なんだってなにが? つーか、どうしたんだよ。そんな息が詰まりそうな顔して」
寿命か?
「……あー、たぶん、おれのせいだと思うよ」
と、なにやら困ったように頭を掻くカイナ。説明ぷりーず。
「ベーには感じないだろうけど、おれの魔力を数値化したら五千万くらい。並みの魔王の軽く二十倍だね。そこのおじいさんは、そうだね。三百万くらいかな? 今まで会った中で一番強いね。何者?」
「それはこっちのセリフさね。一番強いどころか魔神でも降臨してきたかのような気分だわ……」
いつもの飄々とした顔はどこにもなく、ヘビに睨まれたカエル状態。気のせいか体が薄くなってね?
「まあ、落ち着けや、ご隠居さんよ。こいつはカイナ。オレの家族だ」
「……家族? ちっとも似てないが? まあ、ある意味非常識なところは似てるがな……」
なに気に失礼なご隠居さん。実は結構余裕があんじゃねーの?
「まあ、義兄弟の仲さ。だからそう警戒すんなって。別に襲いにきた訳じゃねーんだからよ」
「うん。今日はベーのお手伝いきたまで。あなたたちと敵対する気はないよ。平和に行こうよ」
視線を左右に動かしていることと、たちと言ってることからして人外さんたちもきてるってことか。迅速だな。
「まあ、こんなだしね。信じろとは言わないよ。でも、ベーの人物鑑定眼は信じてよ。おれの見た目や口調より中身を見てくれたベーの目を、ね」
ふっと、ご隠居さんの気配が柔らかくなり、いつもの飄々とした顔に戻った。
「そう、だったな。ベーが認めたなら問題ないか。このわしにすら一歩も引かない自称村人。力に負けたらベーじゃないさね」
なんだろうね。過剰な評価を得てるとはわかるんだが、貶められてるとしか感じねーだがな……。
「ま、まあ、そんなわけで通してくれっかい?」
そこは深く考えまい。なにかに負けるからよ。
「すまんかったね。道を閉ざしてしまって」
と、扉が開かれた。
「イイよ。棲み家を守りたい気持ちは誰にでもあるしな。カイナだって気にしてねーよ。なっ?」
「うん。気にしてない。ベーのような理解者がいてくれるからね」
「そうか。お互いいい出会いをしたさね」
「ふふ。まったくだね」
なにやらご隠居さんとカイナの間に友情が芽生えた感じ?
「そうだ。これを魔女さんにやってくれや」
収納鞄からラ・フランスのジャムを取り出してドラム瓶にして渡した。
「なんさね? この非常識は?」
「遠い国のジャムだよ──」
「──ありがとう~!」
と、どこからか悠久の魔女さんが現れ、ドラム瓶に抱き付いた。
うん、まあ、突っ込んだら負けの人外区。さて、会長さんちにいきますか。
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