第336話 歓迎宣言
「あんちゃん、中にいるの!」
キャンピングカー試乗をしていたら、外からサプルに呼ばれた。
おっと。もうこんな時間か。楽しみすぎたぜ。
「おう、中にいるよ! 今いくわ!」
サプルに応え、直ぐに外へと出ると、サプルの他にねーちゃんたちと隣のあんちゃん夫婦、ドワーフのおっちゃん夫婦、あとついでにフェリエがいた。
「あん? どーしたい、雁首揃えて? なんかあったんか?」
なんて聞いたら皆さんが呆れ顔におなりになりましたわ。いったいなんざましょ?
「お前の中では普通かも知れんが、広場から帰ってきて見知らぬ家が建ってれば何事かと思って見にくるのが清く正しく生きてるヤツの普通だからな」
なんか普通の代表選手かのように言ってるが、あんちゃんはもうこちら側の人だからね。いや、オレを受け入れた時点からこちら側にいるからね。
「まったくよ。ベーの家じゃなければ大騒ぎだわ」
「そうね。またかとか思っちゃったし」
「慣れてしまってるわたしたちもどうかと思うけどね」
「まあ、ベーくん、なんでもありだし、しょうがないわよ」
なかなか辛辣なことを言うねーちゃんズ。ちっとは手加減してくださいな。ナイーブなときもあるんですからさ~。
「それで、なんなんだや、これは?」
職種は違えど職人なドワーフ。キャンピングカーが気になるようだ。
「おう、丁度いいや。ご近所さんが集まったところだし、これからうちの家族になるヤツを紹介するわ。カイナ」
呼ぶと直ぐにキャンピングカーから出てきた。
「あ、どーも。カイナです。帝国の端っコからきました。今日からベーのところでお世話になることになりました。よろしくお願いします」
そんな礼儀正しく自己紹介したのに、皆さんポカーン顔。どったの?
「ん~。やっぱりこうなるよね」
「やっぱりって?」
疑問に思い尋ねるが、カイナは苦笑するばかり。なんですのん?
「この人、と言っていいかわからないけど、この見た目で普通に話せるベーがおかしいんだからね」
あらヤだ。頭の上の住人さんがシニカルに笑いながら言ってますわよ。またムギュして欲しいのかしら?
「じゃあ、プリッつあんはなんで普通にしてられんだ?」
会ったとき……はいたかどうか、と言う以前に存在すら忘れてましたが、気付いたところから普通にしてただろうが。
「わたしはもうベーの一部だから恐くはないもの」
「え? 寄生獣だったの、プリッつあん!?」
今知るどころか一生知りたくなかった真実。マジっすか?
「寄生じゃないわよ! 共存よ! ちゃんとわたしの力も使えるんだから!」
「なにそれ? 初耳なんですけど?」
「ちゃんと言いました! ベー、『へ~スゲーな』って言いました!」
まったく記憶にございません。が、なんか言ってそうな感じがする。オレの場合……。
「アハハ! ベー、超大物。そりゃおれなんか恐れるわけないか!」
「そりゃ見た目は魔王っぽくてこいつ魔王なんじゃね? ってくらい魔力がつよいが、それだけだろう? ちゃんと向かい合って話せばおもしろいヤツってわかるじゃねーか」
人を見た目で判断したらダメって言うイイ見本だと思うがな、カイナって。
「ほんと、ベーって鋭いよ。うん、おれの体は伝説中の伝説、蒼園の魔王と呼ばれた者の体さ」
「おー! 知ってる知ってる。十万年生きたとか堕ちた神とかあるあの魔王かよ。カイナ、スゲーな!」
なんか歴史上どころか神話級の人物に会ったみてーで超興奮だわ!
「なるほどな。道理でイイガタイしてると思ったわ。やっぱ、伝説の魔王ともなると迫力違うわ」
「まったく、それで片付けられるんだからベーの方がよっぽど魔王だよね」
「平和に暮らしてる村人を捕まえて魔王とかヒデーな。オレは人を見た目では判断しねーだけだ。ちゃんと中身を見て相手してるだけだわ」
「その精神がもう魔王の器って言ってるんだよ。村人とか言ってる方が意味わかんないって!」
「村人イイじゃねーか。面倒な仕事もなけりゃ面倒な柵もねー。イイ空気に囲まれて旨い食事を頂ける。好きなときに働いて、好きなときに茶を飲める。好きなヤツとも友達になれる。こうして面と向かって笑い合える。なんとも理想的な立ち位置じゃねーか」
魔王なんて苦労しか想像できんし、ジメジメしたイメージしかねーわ。そんなもん、やるヤツの気がしれんわ。
「それはベーだけよ」
と、真っ先に復活したアリテラさんが穏やかな苦笑を見せていた。
「確かに。だがまあ、ベーが言うと妙に説得力があるから始末におえんよ」
と、あんちゃんも穏やかに苦笑している。
まったくだとねーちゃんズが頷き合い、なぜかドワーフ夫婦が笑い出し、そして笑いの大合唱。
「……いいところだね……」
声に抑揚はなかったが、その厳つい顔には嬉しさと懐かしさが浮かんでいた。
「よし! 今日はバーベキューだ! カイナの歓迎会をやるぞ!」
バンとカイナの腰を叩き、皆にそう宣言した。
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