第314話 気まぐれ屋、広場店

 健やかに目覚めると、曇一つない快晴だった。


「うん。イイ商売日和だ」


 満足気に頷き、空へと向けて結界弾を放った。


 結界を笛のような形に創ったので、ヒューと言う甲高い音を鳴らして村の空に鳴り響いた。


 これは、隊商相手の商売を始めるよとの合図であり、広場にいる隊商へ用意しとけの合図でもあった。


「さて。朝の仕事を終わらすか」


 開始は各自の仕事を終わらせてから。だいたい八時からなので急ぐ必要はねーのだが、夜通し働いてくれた人がいるのでなるべく早く行ってやらねーとならんのだ。


 ぱっぱと仕事を片付け、サプルの愛情いっぱいの朝食を腹いっぱいいただいた。


「サプル。オカン。先にいくな」


 二人は山の女衆が集まってから来るので、先に行くことを告げたのだ。


「うん。わかった!」


「はいよ」


 サプルは一晩寝たら前の日の嫌なことはリセットされるので、笑顔全開やる気満タンで返し、オカンはマイペースに返してきた。


 いつもの格好で外に出ると、フェリエがこちらに向かってくるのが見えた。


「おう、フェリエ。おはよーさん」


「おはよう、ベー。今日もよろしくね」


 こちらは手作りのワンピースに、オレがくれてやった収納エプロン(腹の位置に半月形のポケット有り)をし、いつもは網で纏めてる金髪をポニーテールにしていた。


「まあ、ほとんどフェリエに任せっきりになるだろうが、なんかあったら直ぐにオレに言えな」


 去年もほとんどフェリエにお任せだったが、一応、オレが店の責任者。やるべきことはやらねーとな。


「ええ。手に負えないときはすぐに呼ぶわよ」


 まあ、だいたいのことは自力で解決するフェリエさん。伊達にうちの隣(非常識耐性レベルマックスなおねーさんになってます)に住んでねーです。


 フェリエの冒険譚を聞いていたらいつの間にか広場へ到着していた。


 隊商もとっくに活動しており、ここで貿易する隊は品を並べたり積んだりし、次へと向かう隊商は出発の準備をしていた。


「今回はすぐに旅立つ隊商は二隊だけか。完全に貿易広場になってるよね、ここ」


 まあ、反論はねーので苦笑いだけを返しておく。


 店に行くと、店先でアリテラが体育座りしていた。どーしたん?


「仲間を置いていけないしね」


 ふ~ん。仲が良いのはわかってたが、アリテラの居場所にもなってたんだな。よかったよかった。


 なんて表情は顔には出さず、店の中に入る。と、力尽きたねーちゃんらが転がっていた。


 品出しを終えたら解除するように設定しておいたのだが、結界の消えた時間からして、少し前まで動いていたようだ。お勤めご苦労さんです。


「アリテラ、これ片付けておいてくれな」


 騎士系ねーちゃんを足で小突きながら言う。


「ベーは女の人でも容赦しないわよね」


「オレは男女の区別はするが、差別はしねー主義なんでな」


 女でも気に入らねーなら嫌うし、敵なら殴ることに躊躇いもねー。平等に対処する主義なんだよ、オレは。


 倒れているねーちゃんらを避けて窓を開け、カウンターの下から店の看板を取り出した。


 ──気まぐれ屋、広場店。


 ハイ、オレのネーミングセンスはこんなもんですが、なにか?


 なんて誰に言ってるか自分でもわからねーが、看板を店に飾った。


 掲げた看板にうんと頷き、回れ右をする。


「気まぐれ屋広場店、開店しまーす!」


 そう宣言すると、朝早くから並んでいた隊商のヤツらが一斉に店へと雪崩れ込んだ。


 港店(今決めた)は海の中にあり、人魚相手なので入場制限は掛けるが、広場店はご自由にどうぞ。結界で商品を守り、一人買い物カゴ一つまでと制限している。


 まあ、これはオレの自己満足であり、やっぱ混みあってないと繁盛してる気分にならないよね、ってな理由でやってます。


 そんなごった返す店を外から眺めて満足気に頷く。


 おい、フェリエ一人になにやらせてんだよ! との突っ込みにご安心を。隊商から怖い顔したおっさんらが護衛と客の整理を手伝っててくれるので、混乱などありませぬ。あったとしてもすぐに排除される安心設定。ご協力に感謝です。


 ……まあ、隊商も混乱して店を閉められても困るからな、いろいろ気を使ってくれるんだよ……。


 あ、ちなみにフェリエは暗算が得意で六桁までなら直ぐに計算でき、買い物カゴごと売るのでカウンターはそれほど混み合ってはおりません。これもちなみに買い物カゴを返すと銅貨一枚で買い取ります。


「さて。売れゆきは上々だし、買い取りにいきますか」


 前にも言ったが、オレは人魚の仲買人。頼まれた野菜を買わなくちゃならんのです。

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