第307話 可愛い子には旅をさせよ理論

 起きると今日も曇空だった。


 だがまあ、雨の降る曇ではねーから大丈夫だろう。


 いつもの習慣を済ませ、家畜の世話や畑の見回り。じゃあ、朝食にするかと思ったら馬たちに囲まれてしまった。


「……え、えーと、なに……?」


 あ、馬いたね~と思った方、忘れていたとしても別に不思議ではありません。エリナが生み出した馬は賢くて、世話が一つもいらない。なんで小屋から出したら放置。あと勝手に帰ってくるから忘れちゃうんです。


 もちろん、エサをくれたり寝床の片付けはするぜ。だが、そんなのは大した仕事ではねー。他の家畜の世話の延長だし、家畜小屋はいずれ馬や牛を飼おうと設備は万全にしてある。大した手間でも時間でもねーさ。


 そう言ったものを抜きにして、エリナからもらった馬たちは勝手にやっているのだから世話などいらないだろう。


「暇だからなんかやることないかって言ってるよ」


 まさかのメルヘン通訳が出た。


「プ、プリッつあん、馬の言葉わかんのか?」


「うん。この子たち、精霊獣だからね」


 今知る驚愕の真実──かどうかはわからんが、まあ、命を生み出すとかふざけてんだ、実は精霊獣だと言われた方が納得するわ。ファンタジーのデタラメ理論、出た~と言う方向に、だがな。


「ん~、暇と言われてもな~……」


 馬たちに構っている暇はねーし、広場に連れて行くにも一頭が精々だろう。しかも、行ったところで繋いでいるしかねー。下手に放してたらどっかのバカに連れ去られんとも限らんしな。


「まあ、困ったときの冒険者。散歩と称した見回りでもしてもらうか」


 ねーちゃんたちも数日のうちに旅立つだろうし、村の警護を考えておかねーとならんしな。


 広場に行く前に冒険者ギルド(支部)にいって依頼出しておくか。隊商がくる頃はバンやシバダたちは暇になるからな。


 隊商は護衛のために冒険者や傭兵を雇うため、村の冒険者に依頼を出したりはしねーし、出したとしても他からきた高位の冒険者が優先して雇うことだろう。


 カムラ王国からくるって言っても王都だけからくる訳じゃなく、各地からやってくる。冒険者もその都市都市で雇うため、途中で盗賊や魔物襲撃で脱落したりして補充する必要が出てくるのだ。


 まあ、この広場で店を出す前までは一つ前の村で補充していたようだが、ここが賑わい出してからはこちらに集まるようになったんだとよ(とある冒険者談)。


「明日には乗り手を用意して村の周りを走れるようにしとくから今日は我慢してくれと伝えてくれ、プリッつあん」


「うん、わかった」


 オレの頭からアカツキの頭の上に移り、なにやら聞き取れない言葉(?)を言うプリッつあん。マジメルヘン。


「わかったって」


 プリッつあんがそう言うと、オレを囲んでいた馬たちがそれぞれの方向へと散っていった。


「……賢いのも考えようだな……」


 まさか馬に暇だと文句を言われるとは夢にも思わなかったぜ。


「──あ、ベー! おはよう」


 しばらく惚けていたらフェリエがやってきた。


「おう、フェリエ。卵か?」


 フェリエが旅に出る前はいつもうちに卵をもらいにきていたのだ。


 毎日十何個も産むので卵は余る一方なのだ。もちろんのこと、余れば結界で時間凍結するが鶏を飼い始めて六年。毎日五個から十個貯めてたらいったい幾つになると思う? 約三千だよ。部屋二つと半分は卵で埋まってるよ。ほんと、飢饉でもこねーと消費できねーわ。


「ええ。やっぱり朝はスクランブルエッグにソーセージじゃないと力が出ないわ」


 すっかりサプルに、と言うか、オレか? ま、まあ、フェリエさんちの食卓はオシャレな料理が出るんですよ。


 ……ちなみに、フェリエがいないときはおばぁが作ってます……。


 卵は掃除する前に集めて棚に置いてあるのでそこに行き、フェリエの抱いていた籠に幾つか入れてやる。


「ありがとう。やっぱりベーのうちの卵は艶が良いわよね。他の村ではこうは行かないわ」


「だろうな。エサに気を使うなんてしねーからな」


 まだこの時代に酪農なんて言葉はなく、鶏なんて飼うのは余裕のある家が自分ちで食うためにやってるものだ。エサだって野菜クズだったり残飯だったりと、栄養のことなんか考えちゃいねー。


 うちは鶏用の豆を作ったり買ったりして他の野菜と混ぜたり、貝を粉末にしたものを食わしているのだ。


「そうね。村にいた頃は当然と、なんの疑いも持たなかったけど、この村が、ベーが異常なのがよくわかったわ」


 ほう。ちょっとは大人になって帰ってきたようだな。


「勉強の大切さ。世界を知る大切さ。考える大切さ。ほんと、あの頃に戻って自分を殴ってやりたいわ……」


「それがわかっただけでも旅に出た甲斐はあるな」


 フェリエは自分を追い詰めるタイプ。こうと思ったら人の話など聞きやしない。なら可愛い子には旅をさせよ理論に従い、旅に出させたのだ。が、予想以上に学んできたようだ。


「……その見透かした目に腹が立つけど、わたしが悪いんだし、黙って受け入れるわ……」


 その言葉に返すことはせず、笑顔で頷いた。上出来とばかりにな。


「あ、今日はどうするの? 広場にいけばいいの?」


「ああ。先に広場に行って店の用意を頼むわ。去年と変わりねーからよ」


 フェリエには去年、店番や品出しとか手伝ってもらってるのでそれで十分。収納鞄とは別に収納箱にも商品を入れてある。陳列など適当だからフェリエの気分で任すわ。


「わかったわ。じゃあ、先にいってるわ」


「おう。冒険者ギルドにいって依頼出してくるだけだからそんなに遅くならんと思うからよ」


「まあ、期待しないでやってるわ」


 さすが小さい頃からの仲。オレをわかっていらっしゃる。

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