第303話 フェリエ

 サプルに焼かれる前になんとかアニバリらを洗浄できた。


「すまない。我が国では湯に入る習慣がなくてな……」


 まあ、北欧ってくらいだからな、気候は寒く、薪は暖に優先するんだろう。よー知らんけどさ。


「ところ変われば品変わる。その国の事情と歴史、そうしなければならない理由があんだ、謝罪はいらねーよ」


 病原菌から体を守るためにトドのような海獣の油で体を塗るらしいのだが、これがまた臭いときてる。オレには結界があるし、多少の臭いなら気にもしねーが、ド田舎のクセに清潔(ハイ、オレが原因です)なオネーサンたちには堪えられねえようで、半径十メートル内には入ってきませんでしたとさ。


「あと、ここにいるなら清潔にしてろ。その風呂は使ってイイからよ」


 簡易な風呂だが、数日間の滞在ならこれで充分だろう。土壁で囲ってるし、男女にも分けたしな。ちなみに魔術を使えるヤツがいたので沸かすのはそいつに任せた。あと管理もな。


「すまない。なるべく清潔に心かける」


「そうしてくれると助かる。うちの妹はキレイ好きで汚ねーヤツには容赦がねーからよ。ここで殺人とか、ほんと勘弁してくれだ」


 殺したところで誰が裁くってこともないんだが、やはり外聞ってものがある。平和でやれんなら平和に生きてーよ。


 おばちゃんらに帰ることを伝え、家へと戻った。


「また王都にいくの?」


 オレの頭の上の住人が肩に降りてきて聞いてきた。


「ああ。今日中にいってサクっとマルっとお任せして来るよ」


 まだ品出しも終わってねーし、広場の整備とかいろいろやることあるしな、ぱっぱと片付けねーとな。


 時刻はまだ三時前。夕食前までには帰ってこれんだろう。


「あら、ベー。もう隊商がきたの?」


 と、山に上がる曲がり角で久しぶりのヤツに会った。


 隣のおじぃとおばぁの孫──と言うことになっている金髪碧眼スタイルバツグンの、ちょっと影があるねーちゃんだ。確か十六、だったかな?


 まず金髪碧眼なんてこの国には存在せず、帝国か西の大陸でしか見れねー毛色だろう。両親が死んで祖父母のところに預けられた、とか『完璧に設定を間違えてるよね!』とか突っ込みてーが、突っ込まれる男ナンバーワンのオレの横にいたら気にもならないらしい。なに、その理不尽!


「いや、まだ準備中だよ。今回はどこいってたんだ?」


 フェリエは去年から魔術師として修業の旅──ってほどでもねーが、近隣をソロで回って己を鍛えているのだ。


 ……もう本人も自分の出生の秘密を知って強くなろうとしてるのが嫌でも見てとれるよ……。


「今回はサニダ村の方にいってみたわ」


 サニダ村って言うと、こっから西に五十キロくらい行ったところの村、だったよーな? 馴染みがなさ過ぎてよくわかんねーや。


「そうか。なんか収穫はあったかい?」


 山に上りながら近況を尋ねる。


「そうね。ベーの武器や防具がどれだけスゴいかがわかったわ。わたしの魔術、なんの意味があるのと落ち込んだわ」


 まあ、お隣さんだし、オトンともなんか関係ありそうだし、そのアッパレなスタイル……は忘れてください。あー、えーと、ですね。オレのねーちゃんみたいな人。死なせるわけにはいかんでしょうよ。


「上には上がいる。努々忘れることなかれだ」


 オレも三つの能力があるとは言え、世には人外やら天才やらが多くいる。能力に胡座をかいてたらあっと言う間に追い抜かれちまう。それでなくてもうちにはスーパーな妹と弟がいんだからよ、兄の威厳を守るのに必死だわ!


「旅に出て良くわかったわ。強くなるにはベーの側にいた方が強くなるってことに。特に精神的な意味、でね」


 なにやら遠い目になるフェリエさん。なんか貶められると思うのはオレの気のせいかな?


「ま、まあ、強くなる方法はいろいろさ。自分に合ったと思う方法で強くなればイイさ」


 フェリエも天才の域に入ってるし、向上心もある。なにより意志がある。サプルやトータといれば嫌でも伸びるってもんさ。まあ、落ち込まないかが心配だけどよ。


「ええ。そうね。一から自分を鍛え直すわ。あ、それでなにか仕事ないかしら? さすがにタダでおじいちゃんちにはいれないわ」


 働かず者食うべからず、じゃねーが、ド田舎で無職は勇者の所業。村八分の対象だ。それか強制的に誰かの嫁にさせられることだろう。ド田舎じゃ十七、八で結婚するのが当たり前とされてるからな。


 フェリエを望む野郎はこの村どころか近隣の村からも結婚の要請が届いている。それをかわすのは大変だが、仕事をしていれば辛うじて断る理由にはなる。うちの村は女がツエーからな……。


「なら、オレの仕事を手伝ってくれねーか? なんか最近忙しくてよ、ちょこちょこ村を抜けなくちゃなんねーんだよ。今も王都に行かなくちゃならなくて、広場の店の品出しを止めてきたとこだぜ」


 好きでやっているとは言え、あっちもこっちもじゃ身が持たねーよ。


「……ごめんなさい。ベーの言ってることがなに一つわからないのだけれど……?」


 なんか無表情になるフェリエさん。たまにオレの言葉がわからなくなる人がいるが、オレ、そんなに説明下手か?


「まあ、オレの手伝いを頼むよ。それなら理解できんだろう?」


 さすがにそれ以上はわかりやすく言えねーぞ。


「……わ、わかったわ。なにか、ベーの手伝いって言うのが不安だけど、それも込みで修業だと思うわ!」


 いや、オレの手伝いするだけでなんでそんな意気込むんだよ。店番だったり品出しだったり、あとは……いろいろだな。


「そ、そうかい。なら、今日はゆっくりして明日の朝から頼むわ」


「わかったわ。お風呂、良いかしら? 旅でお風呂がないのが一番耐えられなかったわ」


 サプルには劣るがフェリエもキレイ好き。村にいた頃は毎日うちの風呂に入りにきてたからな。


「たぶん、サプルがいると思うから頼むわ」


「……ほんと、ベーの側にいるのが精神的に強くなれるわ……」


「兄としてスンマセン!」


 小さい頃から一緒にいるからサプルの事情も良く知っている。そして、こーゆー場合のフォローはフェリエさまにお任せ。


 ほんと、心の底からサーセン!

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