第288話 イイ人生でなにより

 人外どもの暴れ食い祭り。


 に見えるかどうかは人によりけりだが、大食らいの世界チャンピオンが六人(ご隠居さんが抜けて親方が入りました)が次から次へと口に入れていく光景を三十分も見てればそうも思うさ。


 乱獲に近いバリエ漁も適正に思えるくらい六人の胃(かどうかは知らん)に消えている。あ、今、十七匹目を平らげました。


 普段、どんだけ食ってんだよと、この世の食料事情が心配になるが、この世の料理事情を考えたら普段はそんなに食ってないんだろう、と思いたい。食糧難ならマジで縁を切らしてもらうぞ。


 なんて光景を見ながらマ〇ダムタイムをしています。


 生憎、オレの胃袋は平均的十一歳の胃袋。あ、誰が調べたんだよとの突っ込みはノーサンキュー。ノリと勢いで言ってるまでデス。そんな平均的な胃袋を持つオレには先程食ったバリエの炙りでお腹いっぱいです。これ以上は口からはみ出るわ。


 あーコーヒーウメ~。


 食後、ではねーな。食事してからしばらく経ったあとのコーヒーは格別だぜ。


 人外どもの横ではオッサンたちもバーベキューをやっているが、人外どもにビビってる気配はない。どちらかと言うと気にしてない感じがするな?


「一般人には認識疎害の魔法をかけてるさね」


 と、ご隠居さんがいつの間にか横にいて、オレの心の中の問いに答えてくれた。エスパーか!?


「いや、お前さん、結構表情に出てるからな」


 え、マジで!? ポーカーフェイスは得意なのに!


「……その信じられないって顔が信じられんさね。まったく、日頃は感情だだ洩れの顔のクセに、ここぞと言うときは表情を隠してしまう。まったく、お前さんがわからんよ」


「空気が読める男、ヴィベルファクフィニーです」


 キランとかやってみる。が、ご隠居さんの心には届かなかったよーだ。クスン。


「……お前さんは、いろんな表情を見せれるんじゃな……」


 なにやらマジな顔を見せるご隠居さん。


 まあ、空気が読める男としてはどうしたとは口にしないが、意味がわからんので目で問うた。どったの?


「この世には人の域から超えた者が多々いる。そんな者は英雄になったり賢者になったりして人の歴史に名を残す。だが、人の域を出た者は孤独になりやすい。親しき者が死んでいくところを見ていくからな。力として人の域を出ようと心は人だ。笑いもすれば泣きもする。不老ではあるが不死ではない。食わなければ飢えるし、体を切れば血も出る。なにも違いはない。だが、長く生きておると、心が萎んでいく。活力や思いが薄れていくのさ。太く短く、戦いの中で死ねる奴はそうはいないさね。だいたいの者が長く細くさね」


「人は一人では生きていけない、か」


 よく聞く言葉だが、人の身でいる以上は真理だとオレは思う。


「フフ。たまに見せる老成した顔を見せるからベーは油断ならないさね」


 別に大したこと言ってねーんだがな。誰でも言えんだろう、こんなことはよ。


「それはお前さんに重みと深みがあるからさね」


 なにやらまた表情に出てたか?


「確かにお前さんの見た目は子供さね。バカな子供のようにバカをやっている。恥じらいもなくバカなことを口にする。だがそれは、バカな子供に憧れる大人の諸行だ。こうしたかったと言う後悔だ。長く生きてればわかるさね。まあ、だからと言ってお前さんの心に触れようとは思わんさね。親しき仲にも礼儀あり、だからな」


 そんな茶目っ気な笑顔にオレはなにも反応できずにご隠居さんを見詰めていた。


「まあ、なにが言いたいかと言うとじゃ、生きる楽しみをくれてありがとうってことさね」


「そうだな。こんなにはしゃいだのは何十年振りだろうな」


 と、いつの間にか人外どもに囲まれていた。


「昔過ぎて思い出せんよ」


「ああ。余もだ。懐かしいと言う感情すら忘れていたよ」


「まるで子供のときに戻ったかのようだ」


「まあ、多少規模が違いますがね」


「釣りがいつの間にか漁になってるのが多少かよ!」


「バリエ、百匹以上は採ったしな」


「気付いていたなら止めろよ!」


「忘れてた奴が言うな!」


 アハハとバカ笑いする人外ども。まったく、無邪気なもんだ。


「でも、楽しかった」


 ガーの情感籠った言葉に全員が同感と頷き、オレを見た。


「ありがとな、ベー」


 と、ナッシュ。


「ありがとうよ、ベー」


 アーガル。


「感謝するよ、ベー」


 と、ガー。


「楽しい時間をありがとうございます」


 と、マイノ。


「感謝だ、ベー」


 と、バックス。


「楽しい一時をありがとう、ベー」


 と、親方。


 なんか照れクサイが、まあ、どういたしましてと受け取っておくよ。


「イイ人生でなによりさね」


 まったくもってその通りだと、皆笑顔で頷いた。

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