第275話 漁港

 ジーゴと釣りの約束と武器を買ってアロード武具店を後にした。


 親方? まったく帰ってくる気配がねーんで、金塊十本置いて商品は後でってことにしてきたよ。どうせ急ぐ品じゃねーしな。


 あ、槍の買い取り忘れた、と思い出したが、まあ、今度でイイやと思い直して倉庫へと帰った。


 時刻はまだ昼前。なので倉庫には──プリッつあんがいた。なにやら、テーブルの上で体育座りしていた。


「どーした、プリッつあん?」


 呼びかけるが反応なし。


 まあ、メルヘンでも一人になりたいときがあんだろうと、そっとしておいてやることにした。


 釣りの道具は収納鞄に入っているので用意は整っているが、船はさすがに収納鞄には入らねーし、港に置きっぱなしだ。


 今から造るのは無理だが、王都にも漁を生業としている者はいるし、ご隠居さんと言う強いコネがある。問題はねーだろう。とは言え、いきなりいって船貸してくれなんて奥ゆかしい民族だったオレにはできねー。なんで今から行って見るか。


 あ、そう言やぁ、外に誰もいなかったな。諦めてくれたのかな?


 ならいつもの服に着替えるか。着なれてねぇせいか、着心地がワリーんだよな。


「とは言え、オレも十一歳。育ち盛りで服も小さくなってきているしな、新しいの作ってもらうか」


 ならトアラに生地買ってくか。生地、どこで売ってたっけな?


 着替えが終わり、収納鞄を肩に掛け、んじゃいくかとしたらなにかが頭に衝撃を感じた。


 なんだと頭に腕を伸ばすと、プリッつあんがいた。


「どーした、プリッつあん?」


 つかんて目の前に持ってくると、なにやら涙目で怒っていた。


「うーうーうー!」


 手足をバタバタさせながら暴れるメルヘンさん。なんの習性だ、これは……?


「なんか良くわからんが、オレ、出かけるから好きにしてな」


 テーブルに戻したらすぐに飛び上がり、なぜか額に向けて 飛び蹴りしてきた。


「……なんかの修行か……?」


 違うメルヘンも冒険譚が好きで冒険者になりたいと叫んでいたものだ。


 メルヘンの生態は理解できんし、痛くもないので好きにさせといた。疲れたら止めるだろうしな。


 倉庫を出て港に向かう。その間、プリッつあんは暴れに暴れていたが、予想通り体力はないようなので、港に着いた頃には人の頭の上で倒れていた。


 しょうがねぇなと結界で固定させ、周りから見えないようにしてやる。主にオレのために、な。


「さて。どうするかな?」


 コネを使うのも手っ取り早いが、最初から当てにするのもオレの中のなにかが邪魔をする。なので、漁港にいって見た。


 王都の漁港は、港から三百メートルくらい離れており、村でもよく見る粗末な船が浮かんでいた。


「この光景はどこも同じだな」


 農業だけではなく漁業も遅れており、潮の流れとか魚群とかを各自の経験と勘を頼りに網を放って漁をしている。


「……結構、沖まで出んだな……」


 この辺には海竜とかいねーのかなと考えながら漁港へと向かう途中、一人の白髪の品のある老人が釣りをしていた。


 ……ああ、人外だな……。


 我ながら不思議だが、なぜかそう理解してしまった。


 あちらもオレの存在に気が付いたようで、チラっとこちらを見た。が、なにも感じなかったようで直ぐに視線を浮きに向けた。


 オレも別に人外好きって訳じゃねーし、一人を楽しんでいるところを邪魔をするほど無粋ではねー。なのでそのまま通りすぎた。


 海に出てるので漁港には、もう海に出れない老人が集まり、チェス(たぶん、どこかの転生者が広めたんだろうよ)をしていた。


「漁の調子はどうだい?」


 半分酔っ払ったじーちゃんらに酒を渡しながら尋ねた。


「海神さまのお陰で上々さ」


「それはなにより。船は全部出払ってんのかい?」


「ああ。バレムの群れがきとるからな」


 バレムとはイワシのような小魚で、オイル漬けにして山間部に持っていったりする、この国の名物だな。


 となると船は借りられんか。しゃーない。ご隠居さんを頼るか。


 また港へと戻ると、品のある人外なじーちゃんがちょうど大物を釣り上げたところだった。


「旨そうなイカだ」


 この海域にはイカが豊富なのだが、この周辺ではイカは食わないらしく、釣れても捨てるかリリースするかだと聞いたことがある。


「これ、食うのかい?」


 オレの声が聞こえたようで品のある人外なじーちゃんが声をかけてきた。


「ああ。食うよ。生でよし。焼いてよし。フライや天ぷらにするのもよし。煮付けもイイな。塩辛とか旨いぜ」


 オレはゲソの天ぷらが特に好きだな。今度バージャンを甘辛にして食おう。


「ならやるよ」


「お、そりゃありがたい。遠慮なくもらうよ」


 イカを食うのも久しぶりだ。遠慮はしねーが、ただでもらうのもなんなんで、お返しにとエビの串焼きを渡した。


「エビも食うのかい?」


「旨いものなら貝でも海草でも食うよ。つーか、ここら辺のヤツは海の幸を食わなすぎだ」


 漁をしてるクセになぜか海の幸に目を向けないんだよな。こんだけ豊富な海なのによ。


「ありがとな。んじゃ」


「ああ。こちらこそありがとさん」


 それだけ言ってオレたちはあっさりと別れた。


 出会いは時の運とタイミング。繋がりが生まれなければこんなものさ。

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