第252話 バカな男同士

 難しいことは親父さんにサクッと丸投げして部屋を出た。


 オレは資金は出すのがお仕事。そして、優先的に使わしてもらうのが取り分。他は親父さんのものです。


 時刻は夕方の六時。外でマ〇ダムタイムをするには薄暗くなっていたので……どーすっぺ?


「ベーくん」


 さて、どうしたもんかと悩んでいたら、会長さんの娘が現れた。


「もう終わったの?」


 この会議は食事会も兼ねているので、オレが出てきたことに首を傾げていた。


 娘さんの後ろには、料理を乗せた台車を押す女中さんがいた。


 料理はもちろんオレの収納鞄から出したもの。オレの存在を確かなものにするために会長さんから頼まれたのだ。


「いや、まだだよ。オレは役目を終えたから出てきたんだよ。早く旨いもんを食わしてやってくれ」


 老い先短い老人なんだ、食えるときに食わしてやりな、だ。


「わかったわ。ベーくんは、夕食どうする?」


「あるもんでイイよ。オレは別に美食家じゃねーしな」


 そりゃ食うなら旨いもんがイイとは思うが、前世の記憶があるせいか、誰かが作ってくれた料理を食うと言う意識の方が強い。例えそれが不味くてもオレの中ではご馳走なのだ。


 まあ、たまには不味いものを食ってサプルのありがたみと、飢饉に備えての舌を鍛えておくのもあるがな。


「ベーくんのものより質素よ?」


「食べられることに常に感謝を。イモの一欠片でも食べられたらご馳走さ」


「あれだけ美味しいものを食べていて贅沢にならないなんて凄いのね」


「ド田舎じゃちょっとのことで飢饉になるからな。今が当たり前なんて思ってたら直ぐに死んじまうよ。それより、ゆっくりしてーから部屋を頼むわ。豪華じゃなくてもイイからよ」


「フフ。あなたの家に比べたらうちに豪華な部屋はないわよ。サリー。ベーくんを案内してあげて」


「はい、お嬢さま」


 と、娘さんよりやや年上のねーちゃんに案内された部屋は、一階の庭に面したところだった。


「客間ってこんな感じなんだ」


 広さはだいたい十五畳くらいで、キングサイズのベッドにL字型のソファー。暖炉に四人掛けのテーブル。酒が詰まった棚、水瓶、あと、トイレ(ぼったんな)があったのには驚いた。


「なにか足りないものがありましたら直ぐにご用意致しますが、なにかございますでしょうか?」


 おっと。部屋探索に夢中でねーちゃんいんの忘れてたわ。


「いや、大丈夫だよ。必要なもんは持ってるからな。あ、食事は部屋で取るから運んでもらえるかい?」


 なにもないってのも客の礼儀に反するしな、無難に食事を頼んでおくか。


「あ、なんか果汁があったらそれも頼むわ。王都は果汁が豊富って聞くしな」


 まあ、豊富っても金持ちが飲むもんだがな。


「畏まりました。では、すぐにお持ちします」


 あいよ~と応え、ソファーに腰を下ろした──ら、横のソファーにご隠居さんが現れた。


「体を使わんと足腰が鈍るぞ」


「もう体を動かすなんてことできん年さね」


 だろうな。感じる魔力からして半分以上は魔体(なんつーか精霊に近いかな?)と言っても過言ではない。現世にいるための肉体って感じだな。


「会議はもうイイのかい?」


「ああ。わしらは港を使ってもらえたらそれでいいさ。活気がない港ほど寂しいもんはないからの」


 確かに。オレも村が寂れたら嫌だしな。


「まあ、お互い終の棲家が平和であることを願おうじゃねーの」


 反抗できるとは言え、余裕で勝てる相手ではない。なるべくは良き隣人でいようじゃねーか。


 そんな意味を込めてご隠居さんに笑みを見せると、どこからか拳大の薄い水色の水晶を出してオレに放り投げた。


「これは?」


「転移石じゃよ」


 と、自分の指にしている指輪を掲げてオレに見せた。


「感謝の印さね。お前さんとは仲良くしてきたいしの」


「別にこっちも同じなんだ、気を使わんでもイイよ」


「なに。打算もあるさね。とくに居候が、のぉ」


 クク。打算八割感謝二割って感じだな。


「ありがたくもらっておくよ。善意十割よりもらいやすいしな。んで、これはどう使うんだい?」


「それに少量の魔力を注げば転移可能さね。ただ、転移先は一ヶ所じゃがな」


 と、今度は鍵を出した。


「グレン婆の隣に家を用意した。お前さんにやる。好きなように使うと良いさね」


 グレンのばーちゃんちの隣の記憶はまったくねーが、きっと趣味のイイ家なんだろうよ。


「オレは村人なんだがな」


「なに、別荘だと思えば良いさね。一応、石で造っておいたからのぉ」


 そう言われたらオレのクリエイターの血が騒ぐじゃねーかよ。


「わかったよ。ありがたくいただいておくよ」


「そう言ってもらえると助かるさね。断られたら居候に殺されるからのぉ」


「いくつになっても女はコエーな」


「まったくさね」


 なんとも実感籠った頷きに爆笑してしまった。


「男は幾つになってもダメだな」


「それもまったくさね」


 今度は二人で大爆笑する。


 わかり合える男の友情(悲しい性)。ご隠居さんとの距離が一気に近づいたのがわかった。


「今度、別荘を造っておくよ。いつでも遊びにきてくれや」


「ああ。そうさせてもらうさね」


 幾つになってもバカな男同士、集まってバカなことしようぜ。

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