第253話 解せぬ!
イモとなんかの肉とみじん切りの野菜をなんかの香辛料で煮たスープと香辛料で焼いた山羊のステーキ。あと味の薄いリンゴのような果物がついた夕食をありがたく、一つ残さず頂いた。
ブララとなんか甘い果物をミックスさせた果汁で一服──した気になれんのでコーヒーを出して一服した。
「……夜が長いな……」
別に暇だと言っている訳じゃねぇよ。のんびりできてイイと言っているのだ。
こう言う一時を穏やかに過ごせる幸せ。サイコーだぜ。
微かに聞こえる街の喧騒を肴にコーヒーを飲む。オレは世界一の幸せ者だな……。
まあ、そんな幸福な時間は早く過ぎるもの。ノックの音で終わりを告げた。
「……どーぞ」
名残惜しいが、人との関わり合いもまた幸福を感じるエッセンス。しっかりじっくり味わえだ。
「休んでるとこすまんな」
時計を見れば夜の八時前。結構のんびりしてたんだな。
「構わんよ。それで、会議は終わったのかい?」
「ああ。まあ、会議はご隠居さんが帰ったくらいに終わって、残りは食事会だったがな」
「満足してもらえたかい?」
「大満足過ぎて皆今日は泊まることになったよ」
「それは重畳。サプルも喜ぶだろうさ」
お腹一杯食べてもらえることがなにより嬉しいと言ってたからな。
「ありがとうとサプルに伝えといてくれや。で、夕食はどうだったい? うちの料理長の渾身の作は?」
え? マジで? と言いそうになるのを無理矢理飲み込み、平静を装った。
「……まあ、悪くはねーと思うぞ……」
すんません。そう言うのが精一杯です。
「無理せんでもいいさ。サプルの味を知ったら他の料理など一味どころか十味くらい落ちるからな」
こりゃ料理長さんにワリーことしちまったな。プライドが傷ついてなけりゃイイが。
「にしてもよく全部食べたな? 無理せんでもよかったんだぞ」
「オレはオレのために作ってくれたものは全て食べる主義なんでな。余程の不味さじゃなけりゃ食材と料理人に感謝を籠めていただきますだ」
前世で二十年以上、スーパーやコンビニの弁当で生きてきた者にしたら手作りってだけでご馳走だ。残すなんてあり得ねーよ。
「……お前って、変なところで清貧だよな……?」
「まあ、心が豊かだからな」
人生を豊かにするのは己の心次第。どんなに金や権力があっても心が貧しければあれもこれもと求め、満たされない飢えた人生になる。
前世のオレはそれすらなく、ただ怠惰に、惰性で生きる空っぽの人生だった。
「オレが求めるのは心の豊かさ。金も権力も二の次三の次だ。心を満たせよ、我が人生」
なんてね。まあ、ゆったりのんびりスローなライフを求めましょう、だ。
「その才能を惜しいと思わないのがベーのベーたる所以だな」
「なんだい、その理屈はよ?」
「……お前、なんか隠してんだろう?」
表情には出さない、ようにしたが、咄嗟に返せなかったことが『アタリ』と言っているようなもの。オレがまだまだなんじゃなく、会長さんの勘の鋭さが異常なだけだ。
「なんで、そう思ったんだい?」
自分じゃあボロは出してねーつもりなんだがな。
「お前、わしを商人として二番目と言ったじゃろう」
あーそんなこと言ったな。それがなんだって言うんだ?
「じゃあ、なんでその男にアブリクト貿易連盟の代表にしなかった。わしの目から見てもブラーニーの商才はずば抜けている。悔しいが、わしよりも才能がある。仮に、まだ若くて経験がないと言うのならブラーニーなりを副にしてやればよいではないか。あの男ならベーの選んだ者なら一歩でも二歩でも引く男だ。それがわからないベーではあるまい?」
なんつーか、本当にできる商人はおっかねーぜ。見ているとこ、感じてるところが凡人と全然違うわ。
「……そうだな。親父さんと出会わなければあんちゃんを代表に、とは考えてはいたが、それは最終手段。会長さんや他の有力者を見てからと思ってたんだよ」
「わしも候補に入っておったのか。そりゃ光栄と言っておこうか」
「まあ、それも最終手段だがな。我ながらこの出会い運にびっくりだよ」
「そりゃわしもだわ。お前の出会い運、マジ本物だわ」
本物だろうが偽物だろうが、それが呪いになってないことを願うがよ。
「ここで言ったこと聞いたこと、誰にも言わないと覚悟できるか?」
「……誓うか、と言わないところがなんかおっかねーな……」
「まーな。幾ら友達でも許せねーことは許せねーし、友達との約束は裏切らねーを信条としてっからな。例え会長さんでも見過ごすことはできねーんだよ」
会長さんとの友情も大切だが、バンベルとの友情も大切だ。秤に掛けるならまず最初の約束をしたバンベルを優先させる。
「……見くびるなよ。お前から受けた恩を仇で返すようなクズじゃねぇ。お前が守るものならわしも守る。例えそれが商人の誇りを失うことでもな」
ふふ。できる商人はおっかねーが、横にいてくれたらなんとも心強いから笑えてくるぜ……。
「なら教えてやるよ」
ゴクリと唾を飲む会長さん。
「地下に国を創っている。それも多種族国家をな」
なにを言われたか理解できない顔をしていたが、徐々にオレの言ったことを理解してきたのか、顔色が段々と青くなって行く。
「フフ。頼もしい協力者(共犯者)ができて嬉しいよ」
後日、会長さんからお前が悪魔に見えたと言われました。
愛らしく笑ったのに……解せぬ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます