第240話 会長さんの娘
会長さんの店は大繁盛である。
貿易商とかなんとか言ってた記憶があるが、見た感じでは鉱物が主流のよーだ。
自分には土魔法の才能があり、考えるな感じろのままにやってきたが、金属の名前などよくは知らねーし、なにに使うかも知らねー。
「いろんなのがあんだな~」
鉄や銅くらいなら見ても直ぐにわかるが、黄色い石なんてなにに使うんだ? まったくもって謎だな。
「帰りに標本としてもらっていくか」
触って体が覚えたら集められるからな。
人の出入りに邪魔にならねーように避けながら事務所っぽいところに向かった。
「ん?」
事務所っぽいところの横に木造の建物があった。
興味に引かれ中を覗いて見たら雑貨屋だった。
石造りと続きになってることからして会長さんの店なんだろうが、こーゆー店までやってんだ。商売広いね~。
「お、意外と広いな」
手前の方は棚や台があって珍しいもんが並べてあったが、奥は資材倉庫みてーな造りになっていた。
おっ。石灰も売ってんのか。これも買いだな。ん? 砥石か、これ? なんか荒いな。これならオレが創った砥石の方が優秀だぜ。
ふんふんと見て回っていると、奥に浮かぶ石が飾ってあった。
「会長さん。浮遊石まで扱ってんだ。結構帝国と繋がりがあんだな」
浮遊石は帝国産であり、帝国が認めた商人しか扱えねーと公爵さんに聞いたことがある。しかも、この浮遊石、拳くらいのものが金貨八十枚はすると言う。
このサイズでは大人一人浮かべるのが精一杯で、利用価値はそれほどねー。が、そこは創意工夫だ。オレなら車椅子ならぬ浮遊椅子でも作るな。
──おっと。こんなことしてる場合じゃねーな。会長さんに会いにいかねーと。
「──きゃっ!」
振り向いたそこに灰色の髪をした十八、九の、お──ではなく、ねーちゃんがいた。
「びっくりしたー! 突然振り返るんだもの」
「そりゃワリーな。オレも背後に人がいるとは思わなくてよ」
ちっとばっか集中してたようだな。まったく気がつかんかったわ。
「いいえ。わたしこそごめんなさいね。黙って近づいちゃって。あ、わたし、ザニーノ。よろしくね」
なんともほ──じゃなくてフレンドリーなねーちゃんだ。
「元の名前が長いし、言い辛いからベーと呼んでくれや」
そう名乗るとはっとするき──じゃなくねーちゃん。
「どうしたい?」
なるべくねーちゃんの顔を見ながら自然に問うた。なんでかは許しておくんなまし。
「いえ、父から聞いてはいたけど、本当に王都までくるのね……」
父? って、会長さんのことか? え? 会長さんの子供? 若くねー? 会長さん、頑張りすぎだろう。いったい幾つのときの子だよ!?
「……ねーちゃん、マジで会長さんの子どもなのか……?」
「ふふ。本当に見た目とは違うのね。わたしは第三婦人の子なの。まあ、一番下の子ね」
一夫多妻が許される時代なのは知ってたが、知り合いにそんなヤツがいなかったからその感覚がよーわからん。どう接すればイイんだよ?
「ワリーな。そー言う第三とか第一とか知らんところで育ったから失礼なこと言ったら許してくれな。あと、嫌なら嫌と言ってくれや」
一夫多妻とか、あと六度ほど転生しても理解できんだろうが、言ってイイこととワリーことは理解しておきたいぜ。
「気にしなくて良いわよ。大店の商人はたくさん妻がいるのが信用や威厳に繋がるし、帝都の男は妻を大事にするから全然卑しいことではないのよ」
ところ変われば品変わる。そんなもんだと納得しておくか。まあ、理解も共感はしねーがな。
「そうかい。なら自然に接しさせてもらうわ」
「ええ。そうしてもらえると助かるわ」
なかなか表情豊かなねーちゃんだ。まさに看板娘って感じだな。
「どうぞ。父からあなたがきたら通してくれと言われてるの。あ、用がなければだけど」
「いや、今日は会長さんに会いにきたから通してくれや。つもる話……は、そんなにねーが、いろいろ話をしてーしな」
今日は会長さん時間。ゆっくりしていくよ。
「わかったわ。では、どうぞ」
「おう。お邪魔するわ」
雑貨屋の奥から会長さんち(店)にお邪魔した。
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