第169話 ベーんちの食卓

「また休んだら頼むな」


 ルククの首を撫で、飛び下りた。


「キュイー!」


 一鳴きすると、仲間たちがいる湖へと帰っていった。


 体の方向を変え、結界を発動。緩やかに降下して家の前に着地した。


「ふぅ~。なんとか間に合ったな」


 今の時刻は六時。ギリギリ夕食前までに帰ってこれた。


 冒険者ギルドを出てから帰るつもりだったのだが、武器や防具を見てたら時間を忘れっちまって、気が付いたら五時前になっていた。


 そこから急いで街の外へと出て、人目のない林に駆け込み、空飛ぶ結界で空へと上がり、待っていたルククの背に乗って帰ってきたわけだ。


「あ、あんちゃん、おかえり」


 ドワーフのガキんちょどもを従えたトータが現れ、帰りを迎えてくれた。


「おう、ただいま。仲良く遊んでたか?」


「うん! ガブたちと砂の城作って遊んでた!」


 なんとも五歳児らしい遊びをしてたな。やはり、同じ年齢だとそうなるのかな?


「そうか。ありがとな、トータと遊んでくれて」


 そう礼を言うと、ドワーフのガキんちょどもが恥ずかしそうにはにかんだ。


「ほれ、土産だ。かーちゃんたちに持ってってやんな」


 収納鞄から市場で買ったサニュー(枇杷びわに近いかな?)を沢山出し、三人に渡してやった。


「……あ、ありがと……」


 三人の中で一番上なのか、代表して礼を言った。


「あいよ。ほら、もう夕食の時間だ。かーちゃんのとこに帰えんな」


 うん! と返事してガキんちょどもが仮設住宅(?)の方へと駆けて行った。


「さて。オレらも夕食にすっか」


「うん!」


 年相応に笑うトータの頭をガシガシと掻き回し、我が家へと入った。


「ただいまー」


 夕食の準備はできてるようで、オカンやサプル、タケルにモコモコガールが待っていた。


「おかえりー」


「お帰んなさいあんちゃん」


「お帰りなさい、ベーさん」


「…………」


 一人、ヨダレを流していたが、もはや気にもなんねー。もはやオレの中では家族ペットだ。


「遅かったね。なんかあったのかい?」


「いや、今回はやることいっぱいでな、結構時間を食っちまったんだよ。特におもしろいことはなかったよ」


 席に着きながらオカンの心配に笑いで安心させてやった。


「オカンらの方はどうだった? たくさん採れたかい?」


 ルコの実の加工やらはサリバリんちでやるからここにはないのだ。


「ああ。豊作でいっぱい採れたよ。秋には美味しいルコ酒ができるよ」


「そいつはよかった。んじゃ、夕食にすっか」


 モコモコガールのヨダレの量がハンパなくなってきたしな。


「いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 オレの音頭に皆が応え、夕食が始まった。モコモコガールはちょっとフライングだったが、まあ、気にするなだ。


 美味しく楽しく和気藹々に、とある欠食児の二人はガツガツと。まあ、なんだかんだと夕食を食べ終わった。


 腹を膨らませて大の字に寝る欠食児に苦笑しながらコーヒータイム。あーウメー。


 家族団らんをしていると、戸が叩かれた。


「開いてるよ~」


 と応えると、騎士系ねーちゃんが現れた。


「どーしたい?」


「お風呂、いいかしら?」


「構わんよ。ゆっくり入りな」


 人数が、と言うよりタケルがきたのでかち合わないように入るときは声を掛けてくれと言っておいたのだ。


「ええ。ありがとう」


「あ、あたしも入るー」


 と、サプルが騎士系ねーちゃんの後に続いて出ていった。


 随分ねーちゃんらになついたな~とかなんとか思いながらコーヒーのお代わり。やっぱ本物はイイぜ。


「あ、おれもコーヒー飲みたいです」


 腹が落ち着いたようでタケルがポットに手を伸ばし、タケル用のカップ(サプル作)に注いで美味しそうに口にした。


 それを見たモコモコガールが欲しそうな面をしたが、お前には早いとコーヒー牛(羊)乳を出してやった。


 不思議そうにしながらも飲まないと言う選択肢はないようで、口でコルクを外し、ゴクゴクと飲み出した。


「タケル。潜水艦は持ってきたのか?」


「へ? あ、はい」


「港の方か?」


「はい。ギリギリでしたけど、なんとか入れました」


 やっぱギリギリか。ならもうちょっと広げるとするか。


「じゃあ、明日……の午後にでもモコモコ族を島に連れてくか。そー言やぁ、お前の潜水艦って何人乗れんだ?」


「そうですね。一応、乗組員は三十人ですが、格納庫には四十人は余裕で入れますね。格納機を外せば更に二十人は可能ですよ」


「ふ~ん。結構乗れんだな、潜水艦って」


「まあ、輸送目的なら、ですけどね」


「まあ、輸送だし、問題はねーだろう」


 この海域で危険なのは海神さまぐらいなもんだしな。


「なら、朝にモコモコ族に説明して用意させたら午後から出発するからタケルもそのつもりでいてくれ」


「あ、はい。わかりました」


「それとな。今日、お前の潜水艦に乗せる料理人を二人決めてきた。もちろん、最終判断はタケルに任せるが、その方向で修行させるからよ」


「え、えーと、わかりました。が、なんで料理人なんです?」


「乗組員を先にして誰がメシ作んだよ。お前か? それとも乗組員か?」


 まあ、お前がそれでイイのならそれでも構わんが、残念な食事しか待ってねーぞ、絶対。


「料理人が先のほうがいいです」


「だろう。でもまあ、お前もがんばんねーとなんねーぞ。お前が乗組員の命を預かる船長なんだ、心身ともに軟弱では乗組員に反乱起こされるぞ」


「……それはなんか嫌です……」


「そうならんように鍛えろ。オレも手伝うからよ」


「よろしくお願いいたします」




 お前がしっかりしてくれんと楽しい海中散歩ができんからな。

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