第168話 依頼完了
「ようこそバリアル冒険者ギルドへ」
犬耳ねーちゃんのとこに行くと、こちらが口を開く前に切り出された。
さすが街の冒険者ギルド。教育が行き届いてんな。
「依頼を出したいんだが、ここでイイのかい?」
「はい。こちらでも大丈夫ですよ」
眩しいほどの笑顔を見せる犬耳ねーちゃん。なんか調子狂うな……。
「利用すんの初めてなんだが、どうすっとイイんだい?」
「では、二階にお上がりください。二階のカウンターで依頼を出しにきたと言えば係の者が対応しますので」
二階に通じるだろう階段を手のひらで差した。
「わかった。ありがとな」
礼を言って二階へと上がった。
二階は依頼を出すところ専用の階らしく、カウンターの奥に個別のブースがあった。
「ようこそバリアル冒険者ギルドへ」
二階のカウンターにいたのは人族のおばちゃんで、いかにもベテラン然と微笑んでいた。
「依頼を出したいんだが」
「はい、ありがとうございます。では、係の者を呼びますのでお席でお待ちください」
「名前とか言わなくてイイのかい?」
簡単と言うか雑と言うか、こんなんでイイのか?
「はい。依頼者の顔や順番を覚えるのもギルド職員の仕事ですので」
「そーゆーもんなんだ。スゲーな」
感心しながらカウンターの前にあるベンチへと座った。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
と、待つこともなくカウンターの奥で事務仕事をしていた男性職員がやってきた。
「あいよ」
男性職員の後に続き、ブースの一つに入る。
中は簡素で机と椅子が二つあるだけだった。まあ、依頼出すだけだし、こんなもんなのかな?
椅子を勧められ素直に座ると、男性職員も向かいの椅子に座った。テーブルにはなにもないんだが、これも記憶すんのか……?
「わたし、ザナと申します」
「オレはヴィベルファクフィニー。長いんでベーと呼んでくれ。ボブラ村のもんだ」
「ボブラ村のヴィベルファクフィニーさまですね。よろしくお願いいたします」
ス、スゲーな、この男性職員。オレの名をそらで言ったぞ……。
「……優秀なんだな、冒険者ギルドの職員って……」
「それが仕事ですから」
誇ることなく自然体で微笑んだ。冒険者ギルドナメてたよ。
「それで今回の依頼はどう言ったものでしょうか?」
やっぱ、依頼も記憶すんだ。スゲーな、ほんと。
「最近、村の近くにオークの群れが出没してるんでボブラ村の専属護衛を求めている。C級以上のパーティーで最低でも三人。多くて五人のパーティーだ。報酬は一人一日大銅貨五枚。宿泊は村の宿屋に。もちろん三食付きの宿泊無料だ。あと、村の鍛冶屋や雑貨屋を半額で利用できる。契約は一年ごとになる。以上だ」
それを聞いた男性職員は、しばし目を瞑り、反芻するかのような何度か頷くと、瞼を開いた。
「……ヴィベルファクフィニーさま。正直申しまして、その報酬でC級の冒険者チームを雇うのは厳しいかと」
だろうな、とは言わねーし、顔にも出さねー。わかってての報酬だからな。
「ダメかい?」
「ダメとは申しませんが、余程の物好きか、安定志向の冒険者チームでなければいないかと」
「ふ~ん。なら今うちの村を守ってくれてる闇夜の光は物好きなんだな」
男性職員の表情がピクリと動いた。やっぱ、ねーちゃんらって有名なんだ。
「闇夜の光と申しますと、トコラさま率いるパーティーでしょうか?」
「ああ。騎士っぽいねーちゃんと魔術師のねーちゃん。斥候系のねーちゃんといつもフードを被ったねーちゃんらだ」
「失礼ですが、トコラさまは冒険者ギルドからの依頼でしょうか?」
「もちろん。うちの村長がうちの村にある冒険者ギルド支部に依頼を出してねーちゃんらが快く受けてくれたぜ。報酬は一日銀貨一枚。必要経費込みだ」
そう言うと、男性職員は押し黙り、まっすぐオレを見てくる。
なんでオレも黙って男性職員を見返した。
しばし無言が続くが、オレが退かぬしゃべらぬを貫いてたら男性職員が苦笑した。
「わかりました。受理します」
「それは良かった。村長にイイ報告ができるってもんだ」
あと、カラエルらのことも依頼しておこう。いつこれるかわからんしな。
「……ところで、そのオークの群れですが、何匹くらいの群れでしょうか?」
依頼が終わると、男性職員がおずおずと聞いて来た。
「ねーちゃんらが最初に見たときは二十匹くらいとか」
「どう言ったオークでしたか?」
「鎧を纏ったオークだそうだ」
また男性職員の表情がピクリと動いた。ってことはここら辺にも出てるってことだな。あとで依頼を貼ってるボードを確認するか。
「そのオークの群れはどうしたのでしょう?」
「ねーちゃんらが退治した」
そしてエリナが美味しくいただきました。
「わかりました。そうなりますと手数料と仲介料といたしまして銀貨八枚となります。報酬の支払いはボブラ村の冒険者ギルド支部へお願いいたします」
「了解」
そう返事してポケットから銀貨八枚とカラエルたちの報酬、銀貨三枚を出して男性職員に差し出した。
「確かに。では、受領印を出しますのでカウンター前のお席でお待ちください」
と言うので場所を移動し、待つこと十五分弱。おばちゃんに名を呼ばれて受領印(板に焼き印したもの)を受け取った。
「受領印はなくさないよう保管にはお気をつけください」
「あいよ」
「では、またのご利用をお願いいたします」
おばちゃんに手をあげ一階へと下り、ボードを確かめる。
やはりここら辺にもオークの群れが出ているようで退治やら調査らが貼り出されてた。
「ますますもって都合がイイぜ」
ニンマリしながら冒険者ギルドを出た。
さて。ここでの手筈は整った。次は王都だ。
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