第166話 ゲットだぜ2

「話が飛んでばかりでワリーな」


「とんでもございません。べーさまがお越しくださる度にここにいる者たちに笑顔が咲きます。未来が与えられます。何度感謝をしても感謝しきれません」


「なら別のヤツに分けてやってくれ。オレは腹一杯で胸焼けしそうだからよ」


 そもそも人材確保のために資金提供(寄付)やってたのだ。なら、ありがとうの言葉で十分さ。それ以上はオレのなけなしの良心も痛むってもんだ。


「そんで、料理に関心のあるヤツはいるかい?」


「そうですね。料理に関心ある子は二人いるのですが、その……」


 なんか言い辛そうだな。


「……その二人に問題があんのか?」


「はい。なんと言いましょうか、極端な二人でして、船の料理人が勤まるかどうか……」


 そう言われると気になるじゃねーか。


「その二人に今、会えるかい?」


 なにやら副院長さんに間があったが、わかりましたと席を立ち、食堂を出て行った。


 しばらくして小太りでオドオドした十二歳くらいの少年となんともガタイのイイ、まるで親の仇を見るような目をした少女を連れて戻ってきた。


 ……確かに極端な二人だな……。


「結構きてるつもりだったが、知らねーのがいんだな」


 まあ、数時間いるだけだし、この年なら手伝い仕事に出ても不思議じゃねーか。


「さあ、べーさまに挨拶しなさい」


「あ、ならオレからするよ。つっても知ってるとは思うがこれも礼儀だ。オレはべー。ただの村人だ。寄付してるからって威張るつもりはねーし、畏まる必要もねー。オレは奉公先との仲介だ。無理矢理はしねーと約束する。まあ、生憎と信じる神がいねーんで誓えるもんがねーが、気に入らねぇって言うなら断っても構わねー。決めるのはお前さんらだ」


 副院長さんに視線を送り、そちらの紹介を促した。


「さあ、ご挨拶しなさい」


 まず、オドオド少年の背を押して一歩前に出した。


「……ぼ、ぼく、サ、サダンです……」


「よろしくな、サダン」


 サダンの手を無理矢理つかみ、握手した。


「次はあなたよ」


 続いてガタイのイイ少女を前に出す副院長さん。


「マーブ」


 とだけ口にし、ソッポを向いてしまった。


「これ、マーブ!」


「構わんよ。照れ屋でカワイイじゃねーか」


 ガタイのイイ少女の顔が真っ赤になり、親の仇を見るような目をオレに向けた。


 見た目はワリーが、そこにあるのはテレであり、戸惑いだ。まんま年頃の女の子。なんともカワイイじゃねーか。


「……バ、バカにすんじゃねぇー!」


 と、拳が襲いかかってくるが、素人のパンチなどまったく怖くねーし、反応もできる。まあ、オレも格闘は素人だが、伊達にオーガやオークを相手してねー。余裕だぜ。


 ガタイ……メンドクセーからマッスル少女でイイや。マッスル少女の拳を右手で受け止める。


「ほぉう。なかなかイイパンチじゃねーか。だが、相手の力量も知らねーで殴りかかってくるのは頂けねーな。せめてバカになってからかかってこい、愚か者が──」


 拳をつかみ、右足でマッスル少女の足を払ってやり、左手を腰に伸ばして持ち上げてやった。


「チキショー! 離しやがれっ!」


「了ー解」


 ほいと放り投げてやる。もちろん、結界を引いてやったので痛みはねーぜ。


「も、申し訳ありません、べーさま!」


 突然のことに唖然とてた副院長さんが我を取り戻して謝ってきた。


「いや、謝るのはこっちだよ。女の子を投げ飛ばしっちまったしな。ワリー」


 フェニミストってわけじゃねーが、なるべく女の子は大切に扱わねーとな。


「テメー!」


「マーブ、止めなさい!」


 いつにない副院長さんの一喝にマッスル少女が小さくなる。ちょっと副院長さんをナメてました。ごめんなさい!


「まあまあ、そう怒んなって。オレは全然気にしてねーからよ。そのくらい元気があった方が船の料理人が勤まるってもんだ」


「本当に申し訳ありません。マーブ、べーさまに謝りなさい」


 マッスル少女の頭を無理矢理下げさせた。意外と腕力がおありで……。


「……すみません……」


「わかった。許す。だからこれで終わりだ。で、だ。二人に料理人の奉公を紹介してやる。だが、奉公する場所は船の中であり、過酷な状況で料理を作ることを要求される。しばらくは料理の修行をしてもらうが、ある程度の戦闘訓練やサバイ──じゃなくて、野外訓練をしてもらう。何度も言うが、奉公先は過酷だ。覚えることがたくさんある。これまで経験したこともねー非常識が襲ってくる。並みの根性じゃやっていけねーだろう」


 一旦言葉を切り、二人を見る。


「決めるのはお前ら次第。だが、これだけは言っておく。その過酷な先には誰も見たことのねー世界が広がっている。貴族や金持ちでも見れねー世界がな」


 口を閉じ、ニヤリと笑って見せる。


 紹介するとは言ったが、やる気のねーヤツはいらねーし、先にある世界を見る資格はねー。自分で決めて自分の意志で前に出れるヤツを連れていく。


 と、意外にも小太りな少年が一歩前に出た。


「……ぼ、ぼくにも、み、見れますか?」


「少なくとも自分の意志で一歩前に出たあんたには資格はある。あとは根性と努力、そして、見たいと言う欲望だ」


 真っ直ぐに小太り少年の目を見る。


「……み、見たいです! ぼ、ぼくを雇ってください!」


「ああ。そんな男は大歓迎だ。突き進め」


 こいつは化けるな。イイ意味でよ。ふふ。人材豊富だな、この孤児院。


「……あ、あたいも、あたいも見たい! あたいを雇ってくれ! いや、ください!」


 土下座、とまでは行かねーが、それに近い格好で頼み込んでくるマッスル少女。


「ああ。そんな女も大歓迎だ。なりたい自分になれ」


 ほんと、人材育成計画をやってて正解だな。タケルの部下兼料理人ゲットだぜ!

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