第146話 先輩からのアドバイス

 オレが思う以上に食に飢えていたらしく、先程たくさん食ったのに、それ以上に胃に詰め込んでいた。


「ほどほどにしろよ。胃が破けるぞ」


 なんて忠告も耳に届いてないようで、飢えた野獣のようにオーク肉を貪るタケル。


 それ、オークの肉なんだぜ。


 なんて言ったらどんな顔するんだろうな、なんて不埒な考えが浮かんだが、異世界転生初心者には酷だろうと止めておいた。


「……スゴく食べるね、このあんちゃん……」


 タケルの食いっぷりに唖然とするサプル。


「これが飢えるってことだ、よく覚えておけ」


 オトンが生きている頃からうちは恵まれていて、食に困ったことはねー。


 そこそこ三つの能力を制御できた四才の頃からオレも狩りに、っても、陽当たり山に棲む灰色兎やら鳥だが、肉に困ることはなくなった。


 サプルが大きくなり、四歳で厨房に立ってからは量だけではなく質もよくなり、三食欠かすことなく、栄養満点味満点の日々が続いている。


 飢饉対策も万全なので、前世以上に飢えるなんてこと知らずにここまで生きてきた。


「世の中にはパン一つのために人を殺すヤツもいる。人が魔物になることもある。食なくして人は生きられねー。だから忘れるなよ、食えることがなによりも幸福だってことを」


 いただきますにごちそうさま。なんて素晴らしい言葉であり、なんて幸福なことなんだろうと、転生してわかった。


 世はまさに弱肉強食時代。強い者が生きる時代、ではあるが、食えるありがたみを忘れたとき、人は滅びる。常に恵みに感謝し、強者であること自覚し、慢心することなく生きよ、である。


「うん、わかった」


 先程の駄々っ子とは思えない真剣な顔で頷いた。まあ、常に命を扱っているサプルだからこそわかるのだろう。


 そんなできた妹の頭を撫でてやる。ほんと、お前のあんちゃんでいることが誇らしいよ。


「──うっ、もう食えない……」


 口を両手で塞ぎ、地面へと崩れてしまった。


 ほんと、アホだな~と苦笑しながら座る地面を土魔法で椅子にしてやり、楽な姿勢にしてやる。


 ライバルがいなくなったのでオレたちも昼食にする。


 オレもサプルも育ち盛りとは言え、そんなに食うことはねー。オーク肉の串焼きを二本(一本百グラムくらいかな?)と野菜、ホタテみたいな貝を三つも食えば腹一杯になる。なんでそんなに時間を要せず食い終わった。


 残りの食材はサプルの前に創ってやった収納鞄に戻し、昨日作ったばかりのコーヒー牛乳(羊乳)と甘いカフェオレ、ブラックを即席のテーブルに並べた。


「タケルはなに飲む?」


 椅子に背を預け、うーうーと食い過ぎて苦しむタケルに尋ねる。


「うーうー」


 それをもうなにも口には入りませんと解釈し、オレはブラック。サプルはコーヒー牛乳(羊乳)を選んで食後の一服をする。


 二十分すると(なんかデジタル時計が暖炉の上に乗っていた)、腹の具合が多少落ち着いたのか、タケルの手が届くところに置いていたカフェオレに手を伸ばした。


 それからサプルとおしゃべり──つっても、未来的な潜水艦の話題であり、潜水艦がなんであるかの説明だった。


「そーか。潜水艦ってスゴいんだね~!」


 興味のないことには才能を開花させないサプルだが、興味のあることには異常なくらい開花するので、オレの知識でオレ以上に潜水艦に理解を示した。


「……サ、サプル、ちゃん、スゴくないですか……」


「まーな。うちのサプルはスーパー幼女だからな」


 説明になってねーが、それで納得しろだ。


「もしかして、サプルちゃん、転生者ですか?」


 あん? 転生者?


 タケルの言葉にハッ! とする。


 言われてみればサプルの能力は異常だ。いろんな人から聞いた情報からもサプルの能力は超が二つ付くくらい飛び抜けている。


 オレと同じく、なんらかの三つの能力をもらっていればなんら不思議じゃねー。いや、当然の能力と言ってイイ。となると、トータも転生者である可能性が高い。まあ、サプルより劣るが、それでもスーパー幼児に変わりはない。


 う~ん。今までそこに気がつかないとは、オレ、相当に鈍いか、底抜けのバカのどちらかだな……。


「──まあ、なんでもイイか」


 サプルやトータが転生者であろうとなかろうと、オレと同じく今世に生まれてきた者。同じオカンの腹から生まれてきた兄弟で、共に育ってきた家族である。なにより大事なのは今を生きているってことだ。前世なんてどうでもイイことだ。


 ……ってまあ、前世の記憶を利用してるオレのセリフじゃねーがな。アハハ!


「お前の能力は知らねーし、聞く気もねーが、その体でこの世界に生まれてきたのは間違いねー事実。なら転生者だ前世だなんて細かいこと気にしてんな。神からなんらかの能力をもらったんだろう。なら、その能力を活かして今世を生きろ。そして、楽しめ。お互い、これからなんだからよ」


 せっかくもらった今世と能力。使わなくちゃ損ってもんだ。どんどん使えだ。


「でもまあ、この世界は自己責任だからな、自由に生きたきゃ強くなれ。この世界に生まれて十年生きた者からのアドバイスだ」


 そして、前世で四十半生きてきた者からの忠告だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る