第144話 これもなにかの縁

 すったもんだの末に、フリーダムなふる〇ン野郎が服を着て戻ってきた。


 その間、オレは敵対する意思はないと、その場から動かずにいた。


「……さて。お互いいろいろ聞きたいこともあるだろうが、まずは自己紹介といこうじゃねーか」


「……わかった……」


 頷く元フリーダムなふる〇ン野郎。


「ならオレからだ。オレの名は、ヴィベルファクフィニー。呼びづらいからべーでイイ。周りからはそれで認識されてっからな。年齢は十歳。村人だ。まあ、なんとなく察してはいるだろうが、転生したもんだ」


 驚きが薄いことからして、やはり察してはいたんだろうよ。


「お、おれは、バンドウタケル。十七、だと思う。地球生まれの日本人だ……」


 ますはお互いの自己紹介を飲み込む。


「まずオレから嘘偽りない主張と簡単な提案だ。イイか?」


「……あ、ああ」


 不安そうな顔で頷いた。


「ありがとよ。なら、まず嘘偽りない主張だ。オレはあんたが敵対しない限りなにもしねーし、関わるなって言うなら関わらねー。このまま島に生ってる実を採って帰る。その後は、あんたのことは忘れるし、誰にもしゃべらねー。ってことだ。次は簡単な提案だが、もし、対話を望むなら家で、茶でも飲みながらやらねーか?」


 そんなオレの主張と提案に、『は?』と言う顔になる。まあ、そうなるのも当然なので、脳に染み込むまで待ってやる。


「……え、えーと、質問いいですか?」


 どうやら見た目の年齢とは違うとわかったらしい。まるっきりアホって訳じゃねーようだな。


「別に畏まらなくても構わねーよ。転生したとは言え、この世に生まれて十才。ただの生意気なくそガキとして接しればイイさ。オレは気にしねーよ」


 こちらも畏まるしゃべりなんてメンドクセーしな。


「は、はあ。わかりま……じゃなくて、わかった」


「んで、オレと対話するかい? それとも──」


「──お願いだ、おれと対話してくれ! もう一人は嫌だ!」


 おろ? エリナみてーな引きこもりじゃねーようだな。


「わかった。んじゃ対話しようじゃねーか。と、その前に、イイぞ、下りてこい!」


 と、腕を大きく振り回して合図を送った。


 サプルはオレ以上に目がイイので、すぐに下りてきた。もちろん、ルククもな。


 結界による浮遊石操作で、ふわりと島に着陸する。


「へ? 飛行機? ロケット?」


 タケル少年がオレ製の飛行機を見て混乱していた。


「まあ、オレの能力だ。お前だって神からもらったんだろうが」


 いやまあ、同じ神(?)かはわからねーが、こんなことする神(?)なんて前世の神(?)くらいなもんだろうよ。


 飛行機のハッチが開くなり、中からサプルが飛び出し、宇宙船っぽいものに駆け出した。


 スゴーイを連呼しながら宇宙船っぽいものを好奇心全開にして触りまくっていた。


 ……ど、どーもうちの妹はカワイイよりカッコイイが好きなよーだ……。


「ワ、ワリーな。うちの妹、あーゆーもんが好きでよ。触られるのが嫌なら止めさせるが?」


 オレと同じで夢中になると見境なくなるからな、サプルちゃんは……。


「あ、いや、構わないです。今は修復中なんで、防御装置は切ってますんで」


「そーかい。ありがとな。つーか、口調が畏まってんぞ」


「あ、いや、なんと言うか、べー、さんが年上っぽいので、つい……」


「まあ、確かに死んだときの年齢は四十半ばだったが、そんな敬われるような大人でもなかったしな、年上とか気にすんなって」 


 今世にしても敬われる生き方してねーしな、雑で構わねーよ。


「な、なるべく、そうします……」


「まあ、好きなようにしな」


 人それぞれしゃべりやすい口調がある。押しつけはしねーよ。


 持ち主の了解を得たのでサプルは放置し、ルククにはブララを食いに行かせた。収穫しているときはだいたいそんな感じだしな。


 最低限の創りなので、大したものは置いてない家だったが、今は生活感ありまくりになっていた。


「……あの宇宙船っぽいものから運んできたのか?」


 ソファーやらテーブル、未来的な機器が乱雑に置かれていた。


「あ、あれ、宇宙船じゃなく、潜水艦です。紺碧大戦ってアニメ、知りません? あの中に出てくる人工知能搭型載万能潜水艦、イ六〇〇改──嵐山らんざんです!」


 テレビっ子だったのでアニメもいろいろ観てたが、紺碧大戦は知らねーな。そんなもんやってたっけか?


「ワリー。知らねーや。人気だったのか?」


「いやまあ、二話しかやってなかったんですが、原作本は六巻まで出てましたよ。おれ、一話からのめり込んじゃいました!」


 まあ、前世の仕事場にもこーゆーオタク(?)はいたから理解はできるし、イイんじゃねーのと肯定もする。だが、それを神(?)に願う神経が理解できねー。


 中二病って言葉はもちろん知ってはいるが、あまりにも現実(来世)を軽く見すぎだろう。いくら神(?)からスゲー能力をもらったからって、それだけで生きられるほど世界は甘くねー。人の悪意、自然の脅威、己の愚行、いたるところに落とし穴はある。


 いやまあ、長年生きたからわかったことだが、それでも考えなしにもほどがある。よくそれで剣と魔法の世界で生きてこれたな。それともあの潜水艦が優秀なのか?


「まあ、そのアニメや原作本が素晴らしいのはわかったから、まずは茶にしようや。コーヒーでイイか?」


「え? この世界、コーヒーなんてあるんですか!?」


「前世とまんま同じってわけじゃねーが、それほど違いねーよ。まあ、拘りがなけりゃあ、だがな」


 環境がまるで違うんだ、同じものになる方がおかしいだろう。オレは異世界だからなと軽く流してるよ。


 昨日できたばかりのインスタントコーヒーと道具一式を収納鞄から取り出して淹れてやる。


「……無限鞄とか、ほんと、ファンタジーですね……」


「無限ではねーが、まあ、その感想には同意だな。ほらよ」


 淹れたカップを渡す。もちろん、砂糖とミルクもつけてな。


「……コーヒーがこんなに旨いとは思いませんでした……」


 その涙からしてコーヒーの味にではなく、前世の記憶に涙してんだろうな。


「メシはちゃんと食ってんのか?」


「……いいえ。嵐山らんざんには食糧は積んであったんですが、自己修復機能は食糧を生み出さなくて、半年前になくなってしまいました。今は、魚を釣ったりして食い繋いでます……」


 まあ、三つの能力なんてそんなもの。便利な道具の一つと見ておかないと人生失敗するぞ。


 鞄から重箱を取り出し、テーブルに並べた。


「腹が減ってんなら食えや」


 まあ、これもなにかの縁。助けてやるよ。

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