第128話 男には一人になりてーときがある
おじぃに毛刈りの約束した次の日、いつものように朝日に二拍一礼し、オトンの墓参りを終え、ラムノや畑、柵を見回る。
続いて家畜を牧草地に放つのだが、今日はリファエルに牛、そして山羊だけを放った。
今日の主役たる毛長山羊はうちの牧草地に放つ。
それほど機敏な動物ではないが、おじぃんちの牧草地は広いので捕まえるのが大変なのだ。
刈り取った草に粉末にした貝と塩を混ぜた飼料をエサ箱に入れ、水飲み桶に水を注ぐ。
結界で固定するのだが、見えない壁に固定されるのは毛長山羊のストレスとなるので、エサを余分に与えて満腹にさせ、脳の働きを鈍くさせるのだ。
毛長山羊の食べる様子をしばし眺めてから朝食を取るために家に戻った。
いつもならねーちゃんらが出る時間だが、昨日の報告でオークの部隊をエリナらと無事捕まえたとかで、今日は休みにしたそーだ。
朝食を済ませ、毛刈りの準備をしていると、山の女衆が続々とやってきた。
「おはよーべー」
その中にはトアラもいて、のんびりした挨拶をしてきた。
「おう、トアラ。今日は頼むな」
やってきた女衆に挨拶をし、準備が整うまで茶を飲みながらガールズトークをしててもらう。
「しかし、よく集まれたな?」
集まった八人を見て、自然と口から漏れた。
「そりゃ、毛長山羊の毛は実入りがいいからね」
と、いつの間にかいた機織り頭のバルレおばちゃんが応えた。
「まあ、言われてみれば確かにそうだな」
毛長山羊の毛糸は高額で引き取ってもらえるので、おばちゃんらに払う給金も一人銀貨十六枚と破格である。
都会じゃ四人家族が二月は暮らせる金額だが、田舎では軽く半年は暮らせる額になる。下手したら伐採で稼ぐより多いかもしれねーな。
まだ頭数も少なく、手作業だから世に出回ってはいねーが、人気が出て頭数が増えれば村の産業としてもイイかも。なんて妄想をしないでもないが、毛長山羊の値段が番で約金貨三枚。年に多くて二頭しか産まねー生き物。気長に構えろだ。
そんな世間話をしていると隣のおじぃとおばぁがやってきた。ついでにねーちゃんらもやってきた。
「なにかするの?」
「ああ。毛刈りだよ」
騎士系ねーちゃんの問いに簡素に答える。まあ、見てればわかるさ。
準備も整ったので毛刈りを開始する。
おじぃの長年の技術で毛長山羊をオレの前に連れ出し、結界で足を固定する。
「んじゃやりますか」
特製のハサミを構え、毛長山羊のケツから切り始める。
毛長山羊の毛は丈夫と言ったが、生え際はそんなに硬くはない。まあ、それでも一般的にはベテランでも苦労するものだが、毛刈りも今年で三回目。ベテランとは言えねーが、この力と動かねー相手を切るのだ、一頭十五分も掛からず丸裸にできる技量はある。
「ほい、終了。はい、次」
結界を解き、丸裸の毛長山羊のケツを叩いておばぁに回す。おばぁも子供の頃から山羊の世話をしていたので扱いも上手。まるで気功で操ってるかのように柵から出して牧草地に放った。
「へ~。上手いもんね~」
「あたし、毛刈りなんて初めて見たわ」
「でも、こんな毛の長い山羊っていたかしら?」
まるで観光牧場にきたガールのように眺めてるねーちゃんたち。やはり馴染みがないとそんな感じになるんだな~。カルチャーショック!
なんてことを考えながら二頭、三頭と毛を刈って行く。
その横では女衆が刈った毛を樽に入れ、いっぱいになったら専用一輪車で水場へと運び、水で洗い始める。
洗髪なんてするわけもないんで相当汚れている。
前世なら洗剤を使用して綺麗に汚れを落とすのだが、今の時代に石鹸なんてねーし、基本水洗い(棒で叩いて汚れを落としたりもする)だ。まあ、たまに灰を使うが、そんなに劇的には落ちねー。やらないよりはマシくらいなものだ。
所々休憩を挟み、昼前には十七頭の毛刈りを終了させた。
汚れ落としはまだまだ続くし、洗ったら乾かす行程に移るが、オレの仕事は終了。あとはお任せしますだ。
「村人の仕事って、いろいろあるものなのね」
後片付けしてると、ねーちゃんらが近寄ってきた。
「まーな。大量生産大量販売ができねーからな。細々とやるしかねーんだよ」
「ほんと、べーは難しいこと言うよね」
「もっとわかるように言ってよ」
無茶言うな。これ以上はわかりやすく言えねーよ。
「バルレおばちゃん、あと頼むな一」
「あいよ。任せておきな」
サプルとオカンにも言って物置にいく。
小型のリヤカーを引っ張り出し、鍛冶工具を載せる。
「どこいくの、べー?」
「山の上だ」
「山の上? なにしに?」
まあ、山の上の秘密基地に行ったことがあるアリテラにしたら鍛冶工具を持って行く意味がわからんだろうて。あの秘密基地に鍛冶工房や作業場はなかったんだからな。
「まあ、逃亡だな。ここにいたくねーから」
はあ? と疑問の花を咲かせるねーちゃんらに構わず出発する。
前にも言ったが、ガールズトークなんて男が聞くもんじゃねー。あれはちょっとした拷問だ。なんで、我が心を守るために逃避させていただきます。
「ねーちゃんら着いてくんなよ。今から山の上は男の聖地。女は入ってくんな」
男には一人になりてーときがあんだよ。
あ、言っときますが、別にやましいことはしませんぜ。本当に一人になりてーだけだ。マジ、本当だからねっ!
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