第86話 妹はカワイイもの
港から帰ってきたらお昼を過ぎていた。
「なんか竜宮城にいってた気分だな」
人魚との交流は四年くらいになるのに、まだファンタジー気分が抜けねーよ。やっぱ、前世の記憶に引っ張られるのが原因かね?
なんてどーでもイイことを考えながら家ん中に入ると、オカンとサプルが丁度昼食を終えたところだった。
「遅くなった、ワリー」
いつものこととは言え、一言謝るのが家庭内での地位を守れるのだよ、全国のおとうさんよ。
「お帰りー、あんちゃん」
「お帰んなさい。ご苦労だったね」
笑顔で迎えてくれるオカンとサプル。涙脆かったら泣いてるところだぜ、まったく……。
「あんちゃん?」
おっと、イカンイカン。危うく泣くところだったぜ。
無理矢理笑顔を見せ、家へと上がった。
「あんちゃんお昼は?」
まだだと答えると、直ぐに用意するねと台所に駆けて行った。
「……エエ妹や……」
あかん。泣きそうだ……。
「あんたはおとうちゃんかい。まったく、あんたは外も中もおとうちゃん似だね」
オカンが呆れてるが、こっちは泣き出さないようにするので精一杯だよ……。
前世はこんなに涙脆くはなかったのに、今世は家族の優しさにメッチャ弱いわ~、オレ。
あと、今さら感がハンパないが、オレの容姿は、父親に良く似てるそーな。
鈍い灰色の髪に黒に近い灰色の瞳と、この辺じゃ珍しい毛色だが、肌の色はこの辺にいるもんと同じく白人系であり、体格も一般的な感じだ。
まあ、オトンがぶっきらぼうで家族愛の深い人だとは知ってるし、そーゆートコは似てるとは思うが、姉御や村長に聞くと、まさにオトンの息子としか言いようなくらい性格もよく似てるらしいよ。
まさに天(神)の采配ってのかね。世界は違えど良く似た(中身が)もんの息子にしたもんだよ。
「あんちゃん、お待たせ」
一切の手抜きない昼食を運んできてくれたエエ妹に感謝し、ありがたく頂いた。
「ごちそうさまでした。旨かったよ、サプル」
「どーいたしまして」
そんぬエエ笑顔を見せるサプルに、また涙が溢れてきそうになる。
「そーだ! なあ、サプル。陶器ってどのくらいできてる?」
泣き出したら止まりそうもないんで、無理矢理話題を変えた。
ちなみにサプルは料理の他に陶芸にもハマり、暇があると陶器作りをしているのだ。あと、ガラス品も。
「んー、結構溜まったかも?」
血をわけた兄弟。サプルも集中すると止まらなくなる
「ってことは相当な数だな」
我が兄弟の結構は、世間で言うところの計測不能な状態を差している。なんたって武器庫と同じ広さの陶器庫が二つもあり、窯は四つもあるのだ、溜まらない方がどうかしているよ。
「港の店に出すの?」
「ああ。今日、完売に近かったんでな、補充しようと思ってな」
なんか陶器を求める客が多かった。人魚界で陶器が流行ってんのかね? まあ、石皿では風情どころか原始人だ。文化に目覚めた人魚には陶器が文明開化の光に見えんだろう。よー知らんが。
「じゃあ、同じ量の陶器製品を箱詰めしておくよ。あ、そーだ。女衆でハンカチや飾り帯なんかを作ったんだけど、それも出してイイかな?」
「お、そりゃイイな。どんどん出せ」
さすがに陶器だけでは寂しすぎるし、そーゆー女向けのもんも売れてた。陶器で作った胸飾りなんて奪い合いになりそうだったからお一人様十個までにしたくらいだ。
「なら、先払いとして真珠の髪留めでも渡しておくか」
小さいのや形が変なのは売りもんにならんので、髪留め(名前はよー知らんが、クリップタイプやバレッタ? みたいなもんだ)に付けて売ってるんだが、これが女衆に人気で、よく売ってくれと言われるのだ。戯れで作ってるから小銅貨一枚と安いからな。
「それ、皆喜ぶよ」
オレとしてはお前も喜んでくれると嬉しいんだがな。
まっ、サプルはそのままでもカワイイんですけどねっ!
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