第87話 女のコ?

「オカン、伐り場にいってくっからよ」


 遅めの昼食だったので、食後の休息は短めにし、予定通り、オーガを見に行くことにした。


 まあ、予定したとは言え、別に守る必要もないのだが、店の商品(山の衆の内職品)を頼むは早い方がイイ。オーガは余った時間の有効利用、的なもんだ。


「あんたのことだから大丈夫だろうけど、あんま無茶するんじゃないよ」


「無茶? オレの嫌いな行動だな」


 そんな中途半端、オレの主義じゃねーな。やるからには無茶苦茶に、だ。


「はいはい。じゃあ、無茶じゃなく穏便にしなさいよ」


 さすが我がオカン。息子を知ってらっしゃる。


「んじゃ、いってくるな」


 家を出て、主に革作りを内職としているバリトアのおっちゃんちへと向かった。もちろん、歩いてだ。


 空飛ぶ結界は、緊急時か遠いところに行く場合。まあ、健康な肉体があるのだから必要がないときは楽をするな。健康を、風景を楽しむべし、だ。


 伐り場に続く道を下ること約四百メートル。山の部落で革作りを一手──ではないが、村一番の革作り名人、バヤマのじーちゃんの工房(オレ製)の扉を開いた。


「じーちゃん、生きてっかー?」


「残念なことにまだ生きとるよ」


 さすが年の功。返答が穏やかでウィットに富んでるぜ。ギルドのおっちゃん、見習え、だ。


「ハハ。元気でなによりだ」


 オレもこんな風に年を取りたいもんだ。


「まーな。で、今日はなんだい? 鞄はそんなにできとらんぞ」


「いや、皮をなめして欲しくてな、お願いできるか?」


「構わんよ。オーガ騒ぎで木を伐れんからな、人手は余っとるし、仕事をもらえるのはありがたいことじゃしな」


「そー言やぁそーだったな。すっかり忘れてたよ」


 オーガ騒ぎではなく、樵の仕事がない場合(雨とか魔物発生な)は内職の手伝いか、のんびりしてるしかないことをだ。


「山はそんなに危険なのかい?」


「危険かどうかはわからんが、珍妙な魔物を操るもんがいるのは確かだな。ダリルのおっちゃんから聞いてると思うが、しばらくは山には入らん方がイイぞ」


「魔物発生は世の理とは言え、難儀なこった」


「まあ、不幸中の幸い。C級の冒険者パーティーがいっからな、しばしの我慢。内職に励め、だ」


「そーだな。仕事がありゃあ、なんとかなるか」


 前向きじゃなきゃ生きていけんからな、このド田舎では。


 保存庫から処理前の毛皮を出して、工房の端に重ねた。


「また大量だな。魔術で時間停めてんのか?」


「ああ。指で三回突っつけば解除されっからよ」


「まったく、ベーの魔術はスゲーな。さすが神童だ」


 そんな言葉にオレは苦笑する。が、反論はしない。言っても無駄だし、説明もできんしな。まあ、それが当たり前になり、受け入れてもらえたらオレは満足さ。


「んじゃ、できた頃に取りにくるよ。あ、鞄の方も頼むな。余裕があったらでイイから小物入れも作ってくれや」


「ああ、わかったよ」


 ベストのポケットから銅貨を二十枚と小銅貨四十枚入った革袋を取り出し、近くの棚に置いた。


「これ、皮の加工代な」


「いつもすまんな」


 物々交換が主なド田舎で現金収入があると言うのは、なかなか貴重で、いざと言うときの保険になる。


 今回のように不測の事態が起こったとき、金があれば食糧を買えるし、税の代用にもなる。金はあっても邪魔にはならない。稼げるときに稼ぐ。なにごとも貯蓄は大切って話だ。


「んじゃな」


 言って工房を後にした。


 その後、村部落の共同機織り小屋へと向かい、ジャケットやベスト、スカーフの制作を依頼してから伐り場へと向かった。


「……女のコ……?」


 伐り場まであとちょっとと言うところで、女のコが道に倒れていた。

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