第78話 港へ
「気をつけてな、ねーちゃんたち」
朝、いつもオレたちが朝食を取る時間(だいたい七時前くらい)にねーちゃんらは出発して行った。
村からの依頼は、村の周辺の調査で、対処可能なら魔物の排除だ。
なんともふわっとしたもんだが、今の段階ではこれが精一杯。まあ、見回りみたいなもんで、原因がわかればラッキー。わからなくてもC級冒険者が受けたことで村のもんは安心するぐらいのものだ。
今後、どうなるかはわからねーが、備えは整えておく──が、まあ、蛇が出るか鬼が出るかは、ねーちゃんらの運と実力次第。なんで、今は待つしかねー。
とは言え、オレの生活にスローはあってもストップはねー(考えるな、感じろ的な表現だ)。日々の仕事はなくならないのだ。
本当ならねーちゃんらとは別に周辺を探索したいんだが、前からの約束があるので、トータに任せることにした。
「いいか、トータ。お前の仕事は探索。山でなにが起こってるかを調べることだ。倒すのは二の次。生きてオレに報告することだ。いいな?」
「うん!」
元気に返事してねーちゃんらとは違う山へと向かっていった。
トータは戦いよりも探索の方が才能があるんだが、どうも戦いに傾倒してしまう性質があるのだ。
まあ、別にワリーことじゃねえんだが、戦いだけで解決できねーこともあるのもまた事実。手はいくらあっても困らねー。
生きてりゃ考えなんてコロコロ変わる。そんときなんになるかはわかんねーが、やれんなら覚えろだ。
オーガはイイのとか反論されそうだが、敢えてイイと答えよう。実際、逃げられたら逃げられたで問題ねーし、食料は十二分に置いてきた。なんも問題はねぇよ、オレには、だがな。
なので、村人は村人らしく村人らしい仕事(反論は一切受付ません)をやりますか。
保存庫へと向かい、人魚族の商人に頼まれたものを取りにいく。
まずは武器庫。
海の戦士──ハルヤール将軍に頼まれて作った三又の槍、二十六本を結界でコーティングした木箱に収め、空飛ぶ結界台車バージョンに載せる。
今、海の中は人魚族による戦国時代のよーで、結構物騒になっている。
ハルヤール将軍と出会ったのも辺境領主(海から見れば大陸寄りが辺境となるんだとさ)の反乱で、不意を突かれて重傷を負い、なんとかうちの港まで逃げてきたそーな。
まあ、海の中のことは興味もねーし、陸に攻めてくる訳でもねーから、深入りは……してますが、基本、オレの心はハルヤール将軍──友達にしか向いてない。
薄情と罵られようが悪魔と見られようが、身内贔屓主義者なオレなので他人の言葉など右から左。気にしなぁーい、である。
とは言え、ハルヤール将軍が属する国は小国なので、オレが売る武器や防具では劣勢を覆せないが、現状維持はできるよーで、こうして地道に戦力アップをしているのだ。
次に隊長格に与える白銀鋼の鎧を十。浮遊機雷(たんに空気を圧縮させた結界玉)を百。箱にして五箱。有刺鉄線五十メートル巻きを四つ、空飛ぶ結界台車バージョンに載せていく。
結界同士を連結させ、次は薬剤庫に向かう。
まあ、向かうつっても隣だがな。
戦国時代な世なので、戦いに訓練にと怪我が絶えない。ましてや生きてりゃ病気にもなる。人魚だって生き物なんだ、薬の需要は海中も地上も大差はない。
大差はないんだが、需要と供給が保たれているかは別問題。これも海中地上に関わらず、弱いところには回ってこないのが世の常だ。
ハルヤール将軍が属する国──バルデラル王国も薬の供給が追いつかず、更に弱い者が死んでいるそーで、あるなら幾らでも買う、と言う状況なのだ。
とは言え、薬ならなんでもイイわけじゃなく、人魚に効くものに限定されるから、そう毎回毎回は供給できるわけじゃねーがな。
人魚に地上の薬効くんかい? と、突っ込まれそうだが(オレは突っ込みました)、これが効くんだと。まあ、傷薬とは言っても治癒力を高める飲み薬や化膿止め的な貼り薬もある。
ましてや、オレだって海のものを使っている。効かぬ訳がない。聞けば、帝国(人魚のな)では地上と取り引きもしてるって言うんだから驚きだよ。
まあ、問題は薬の保管と使用時だ。海の中で粉薬なんて置いてけねーし、飲む前にと湿気っちまう。錠剤にしたって同じだ。保管方法(場所)や使用場所は空気のあるところじゃねーと使用できないときてる。
んで、そこで重宝されんのがオレの結界術。結界で包み込み、口ん中に入れて噛めば消えるように設定すれば問題なし。結界包帯もあるので貼り薬もオッケー。保管だって問題ねー。
強いて問題を上げるとすれば結界術の代用となる魔術の制作が上手くいってないことだな。
一月で調合した薬、箱にして七箱を空飛ぶ結界台車バージョンに載せる。
他に地上の食いもんや鏡や櫛、おしゃれな髪止め、指輪などを載せ、港へ続く扉を開いた。
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