第77話 何気ないおしゃべり

 夜、趣味に没頭してると、戸が叩かれ、我に返った。


「開いてるよ」


 作業を止め、戸に向かって言った。


 戸が横に移動し、来客用のローブを着たアリテラが現れた。


「お邪魔してもいいかな?」


 なにやら乙女っちくな感じで言ってくるアリテラさん。昼間のはなんだったんだと突っ込みたいくらいの変貌である。


 ……ほんと、よーわからんわ、女ってのは……。


 椅子を勧め、オレは台所へと向かい、果実酒とチーズを皿に盛って、テーブルへと置いた。


「ベーは紳士ね」


 変態が付いたらオレは今すぐ死ぬがな。


「女には優しくするもんだからな」


 女は敵にしてはならぬと、前世で学びましたから。あ、別に経験したからじゃないんだからね。たんにおっかない場面を見ただけなんだからね。勘違いしないでよねっ。


「ネラフィラにも?」


 ネラフィラ? 誰だそりゃあ? と言おとしてなぜか殺気を感じた直後、それが姉御の名前だと思い出した。


 ……な、なんだろう、この命が縮む思いは……?


「ベー?」


「あ、いや、ワリー。なんか命の危機を感じたんでな」


「なに言ってるの?」


「オレにもよーわからん」


 わかりたくもねーよ、なんか知らんけど。


「で、姉御がなんだって?」


 唐突になんなんだい?


「ベーはネラフィラにも優しいの?」


「別に普通だろう。むしろ、優しくされてんのはオレのほうだな」


 小さい頃から世話になってるし、オトンが死んだときやトータが産まれるときは涙が出るくらい助けてもらった。


 冒険者ギルド(支部)にいったとき声をかけてくれるのはも当然として、ときどき家の様子を見にきてくれ、オカンやサプルを助けてくれる。ほんと、姉御には足を向けて寝れねーよ。


「姉御は、オトンの仲間だったし、オカンとも仲がイイし、オレが産まれたときはよく子守りしてくれたし、まあ、オレのお──じゃなくて、お、ねーちゃん的存在だな……」


 な、なんだろう。"お"の次を言った瞬間、死をイメージしたぞ。股間がキュッとしたぞ……。


「ふ~ん。おねえちゃん、ね~」


 なにかとってもイイ笑顔を見せるアリテラさん。いったいなんなんです?


「姉御がなんかしたのか?」


 もし敵にしたのなら即、謝れよ。あの人を敵にしてもなんもイイことねぇからな。


「ううん。ベーのこと心配そうに見てたから、なんでかな~って思っただけよ」


 姉御、そんな風に見てたっけ?


「まあ、オレはバカなことたまにやるからな、そうなってもしょうがねーかもな」


 心配してくれる人がいる。なんともありがたい話だぜ。


「たまに、じゃなくいつもでしょう」


 違うと反論できないのが悔しいが、別に周りに迷惑かけてねーんだからイイだろう。


「……ところで、なにしてるの? 鎧作り?」


 テーブルの横へと置いた手甲を見た。


「まあ、そんなもんかな」


 ラーシュにやった防御力特化の初期型とは違い、スピードも追加した改良型である。しかも、十秒から五秒まで短縮させた。


 まあ、まだまだ改良の余地はあるし、納得できるもんじゃねーが、楽しみはゆっくりとだ。


「……また、バカなことしようとしてるわけね……」


 なんとも呆れた目でオレを見るアリテラさん。バカじゃない。これはロマンだ! っと言っても理解されないので肩を竦めるだけにした。


「そー言やぁ、依頼の礼を言ってなかったな。ありがとな」


 明日、三人にも礼を言わんと。


「ベーが言うことじゃないでしょう。村の依頼をわたしたちが受けただけなんだから」


「そりゃそーだが、オレも村のもん。村のために動いてくれてんだ、礼ぐらいは言わしてくれや」


 仕事だから当然、メシを食うために、では、する方もさせる方も味気ねーじゃんかよ。それに、感謝を忘れたら人はダメになる。オレを生かしてくれる全てのことに感謝するって決めたんだ。


「フフ。なら、ありがたく受け取っておくわ」


「まあ、邪魔にならん程度でな」


 これはオレの主義主張。他人さまに押しつけるもんじゃねーしな、ホドホドでイイよ。

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