025「ご褒美じゃないお説教-2」
訓練場、冒険者ギルドの裏にあるそれなりに広い屋外の広場。
ここを使う際にギルド職員に頼めば模擬戦用の刃が潰してある武器を貸してくれるし、ギルドから頼まれたベテラン冒険者が新人冒険者を訓練したり、たまに一般市民向けに護身術の講習が開かれたりする場所。
そんな訓練場までずるずると引きずられていた俺は、レーラさんにぶん投げられた。
人間って、こんなに簡単に飛ぶっけ?
放物線を描くように投げ飛ばされたみたいだけど、今日は星がよく見えて綺麗な空だなー。
つか、現実逃避してないで何とかしないと地面にぶつかるって!
なんとか受け身を取りながら地面を転がって起き上がる。
「…………うわぁ、すげぇ怖い」
訓練場の入り口付近に立っているレーラさんが本気で怖い、というか10m以上投げ飛ばされてるんですけど!!
普段の適当でやる気のなさそうな雰囲気は一切ない、俺を見る視線には何の感情も乗っていない。
結構前の話だけど、レーラさんに連れられて一緒に山へ薬の素材を採取に行ったときに盗賊に襲われてたことがあった。
襲ってきた盗賊はレーラさんが返り討ちにしたんだけど、生き残った盗賊を尋問したらアジトが近くにあるみたいだからついでだし潰そうってことになったんだけど。
侵入したアジトには、盗賊に攫われたらしい女の人が何人かいるのを発見したレーラさんが無言で盗賊達を処理し始めたんだ。
うん、討伐とか駆除じゃなくて処理してた。
それに関しては盗賊達の自業自得だから仕方がない、女の人達は……まぁ酷い扱いを受けてたみたいだから。
それなりに長い付き合いだけど、言い訳も命乞いも聞かずに淡々と作業のように盗賊達を殺していくレーラさんをこの時に初めて怖いと思った。
前世のバイトでやったことあるけど、刺身にたんぽぽ乗せる仕事してる人達のがまだ感情がある目をしてたよ。
で、いまのレーラさんはその時と同じ目をしている。
つまりは、何とかしないとただ処理させる。
流石に殺されたりはしないと思うけど、いまのレーラさんに手加減とか期待しちゃだめだよね?
「ヴィル」
何ですか?もう少しだけ優しい声で呼んで欲しいんですが。
「殺さない様にだけは気を付けるけど、殺しちゃっても蘇生はしてあげるからね」
…………殺害予告ですよねそれ?
レーラさん、蘇生魔法使えたんだ。あれって、難しすぎて使える人がほとんどいないって聞いた事があるんだけど。
「……っ!消えた!?」
レーラさん何処行った?視線外してないぞ?正面にいたのに見失ったのか??
まずい、集中しろ。
レーラさんにボコられるのは最早回避出来ない、たぶんもう謝っても許して貰えない。
攻撃わざとくらってさっさと沈むのも多分無理、何か無理矢理起こされてボコられ続ける気がする。
「右!!」
右腕を盾がわりに構える、最悪顔と心臓だけ守ってれば即死はない。
回避は無理、何とか察知は出来たけど何されるかまではわからないから右腕犠牲にしてでも防ぐしか……あれ?察知出来た??
ヤバイ!!
少しだけ回復した魔力をぶん回して風を捕まえて即暴発させる。俺を吹っ飛ばすだけだから威力も精度はいらない、この場所から離れられるならなんでもいい。
「ぐっ!」
威力は大して出なかったけど何とか俺自身を飛ばすことは出来た、ごろごろと地面を転がり起き上がる。
………うわぁ、危なすぎる。
俺がさっきまでいたところが円形にぐしゃって凹んでる、ていうか陥没してない?前世で見たアニメにあった重力魔法とか使われた跡みたいになってんだけど。
そのまま動かなかったら一緒に潰されてたっぽい、違和感を感じたことは間違ってなかった。
俺の目の前から予備動作なしで消えられるレーラさんを察知できる方がおかしいって気づいて本当によかった。
いまのくらってたら骨バキバキにされて内臓とかもぐちゃぐちゃになってたはず。
とりあえず、動き回ろう。
何されるかわかんないけど、流石にレーラさんでも訓練場ごと吹き飛ばすような威力の魔法は使わないだろうし、動き回ってれば少しは当てにくいだろう。
足を動かし訓練場を走り回る、ちょっとでも情報が欲しいから視線を動かしてレーラさんを探す。
「ぐっは!!」
こけた。
なんだ?何で転んだ??
訓練場はむき出しの地面とはいえ、躓いて転ぶほどの凸凹はなかったし、足がもつれるほどの疲労もしてないぞ?
まぁ、起き上がらな………………あれ?起き上がれない??
あー、そりゃ転びますわ。
うん、だって左足無くなってるんだもん。
「ぎっ!!」
認識した途端に痛みが襲って来た、悲鳴を上げたくなったのを必死でかみ殺す。
泣くな!叫ぶな!!泣いたって状況は変わらない、今やらなきゃいけないことを考えろ!!
多分、魔法か何かで膝辺りから切断されたっぽい。すぐそこに左足が転がって血だまりが出来始めてる。
ここまでやるか!?って叫びたいけど、やられたもんは仕方ない。今はそんなことをしてる暇すらない。
奥歯が軋むまで噛み締め、涙が出そうになるのを我慢して両手で足を押さえる、止血しないと死ぬ。
「がっ!!」
今度は右腕を肘辺りで切り飛ばされた。
吹っ飛んでく右腕と血飛沫が見え、そのまま地面に転がされる。
力が入らなくなってきてる左腕だけで体を起こすとレーラさんの姿が見えた。
「…………動いてなかったのかよ」
あの人、見失ったときから一歩も動かずに訓練場の入り口に立ってる。
「何もさせないって言ったはずだよ、ヴィル」
レーラさんが何か言ってるけど血が流れすぎて眠くなってきた、これ意識落ちたらそのまま死ぬ気がする。
「―――――」
「っ!!」
痛みで落ちそうになる意識を引き上げられた、右腕と左足の切断された辺りに何かされたっぽい。
「痛い?とりあえず止血だけしてあげる」
ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「ヴィル、いま絶望してる?無力さを噛み締めてる?何も出来なくて諦めてる??」
えぇ、痛いし頭ふらふらしてて最悪な気分ですよ。
「………そんな訳ないよね?」
蹴り飛ばされ転がされる。
「足と腕を切り飛ばしたのに、血を流し過ぎて死にそうになってるのに、まだ何か出来ることを探してる眼をしてるよヴィル?」
髪を掴まれ持ち上げられる。
「流石に、ここまで来るとちょっと異常かな?」
地面に叩きつけられる。
「ヴィル。どうしてまだ諦めてないの?」
もう一度、髪を掴まれ持ち上げられる。
レーラさんと目が合う、綺麗だけど何の感情もない眼に俺が写ってる。
「ヴィル、答えて?」
答える?こんだけぼっこぼこにしといて何言ってんだこの残念美人は。
まぁ、問われたから答えよう。
地面に流れた血に流していた魔力から魔法を発動させる。
「………ヴィル」
血は槍に形を変えレーラさんに向かって、飛ばなかった。
「無駄だよヴィル。ヴィルの魔法じゃ私には届かない」
あー、そうっぽいですね。
いまの本当に最後の魔力だったのに……。
「かはっ」
また地面に叩きつけられる、流石にもう無理。
意識が保てない、ちょっとだけ回復してた魔力もほぼ使い切ったし血も流し過ぎた。
「起きたら、今度は普通のお説教だから………今はゆっくり寝てなさい。ヴィルの身体は傷一つなく治しとくから」
さっきまでと違い、いつものレーラさんの優しい声が聞こえ、意識が沈む。
『―――――
意識が落ちる寸前にそんな幻聴みたいな無機質な声も聞こえた気がする。
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