024「ご褒美じゃないお説教-1」

死刑執行を待つ人って待つ人ってこういう気分なのかな?


もしくは、親や教師に悪戯がバレたときの子供とかの気分とか?


「まぁ、いまの俺はまだ子供といえば子供だし。レーラさんは親ではないけど冒険者や薬の調合とかの先生みたいなものだから間違ってはないかもだけど……」


冒険者ギルドには食堂というか酒場みたいなのが併設されていて、料理も結構美味しいので冒険者だけでなくギルド職員や依頼に来た人なんかもよく利用している。


いまの時間は依頼から戻って一杯やってる冒険者がそれなりに居て、各々好き勝手に飲み食いしている。


そんな店の片隅のテーブルに俺は一人で座っている。


孤児院に帰らずここにいるのはレーラさんに座っているように言われたからで、あの雰囲気には逆らえなかった。


「おまたせ」


レーラさんがやって来て俺の対面へと座ったけど、その冷めた目だけはいい加減どうにかしてくれませんか?すごく怖いんです。


ほら、注文を取りに来た店員さんがびくって怖がってますよ?ここの人達はその雰囲気のレーラさんを知らない人が多いんですから、普通に注文するのやめましょ?


あぁ、周りがなんかあったなみたいな感じで察してるし。レーラさんのこの雰囲気を知ってる人からは同情的な視線を向けられてるよ。


レーラさんを見かけるたびに口説きに来るチャラ男の冒険者の人までレーラさんの雰囲気を察して避けてるじゃないですか。


どんだけ相手にされなくても懲りずに口説きに来てたチャラ男さんまで避けてるんですよ?本当に怖いので、せめてその冷めた目だけは直しましょうよ。


「………………………………」


無言でこっち見ないで下さい、怖すぎて泣きそうになるんです。


「………………………………」


この無言なレーラさんどうすればいいんだろ?あ、店員さんがびくびくしながらさっきレーラさんが注文した飲み物が運んできた。


レーラさんは静かに店員さんに礼を言って受け取った飲み物のうちの一つを俺の前に置き、残りを自分の前に置いたんだけど。


何で二人なのに飲み物三つあるの?誰か来るの?間違えたの??


「ヴィル」


「はいっ!」


レーラさんの前にある二つの飲み物について考えていると、唐突に名前を呼ばれたので思わず反射的に返事をしてしまう。


「まずは、お疲れ様」


あ、はい。


「冒険者として、きちんと受けた依頼を達成させてるのは私もよく聞かされてる」


誰だ、レーラさんにそんなこと話してる奴は。


「今日も受けた依頼をきちんと達成させたし、納品された薬草を見せてもらったけど採取方法も状態も悪くなかった」


おや?褒められてる。もしや、その冷めた目と雰囲気は無茶したし怒っとかなきゃいけないから演技でしてるだけとか?


「だけど、それとリーフベアーのことは別」


ですよねー。


「魔力がほとんど残ってない状態で帰って来てたから何事かと思ったけど」


というか、レーラさん。声に感情が乗ってないんですが?


「自分から説明してヴィル。どういうこと?」


ちゃんと説明しますから、何か周りから小声で修羅場?とか色々と聞こえてきてるんで本当に勘弁して欲しい。


「説明と言われましても、薬草採取の依頼を受けたので西の森に行って。採取を終わらせた後に森の奥にある泉の所で魔法の練習をして、帰ってる途中でリーフベアーに遭遇して襲われたので仕方なく狩っただけなんですが………」


嘘は言ってないし、ユニークスキルのことはレーラさんにも話していないのでこれだけしか話せない。


何となくだけど、ユニークスキルについては他人に知られるとまずそうだと思ったし。そもそも、俺のユニークスキルは前世の記憶ありきの能力なので話すに話せないし。


過去に転生者や転移者がごろごろいたと思われる世界とはいえ、俺が転生者だとバレて面倒なことになられても困る。


転生者や転移者がどういう扱いなのかもわからないし。


「………………………………………」


あ、あの。話してないことはあるけど本当に嘘じゃないので無言でこっち見ないで。


「リーフベアーはこちらから刺激しない限りは襲っては来ない魔物のはずだけど。ヴィル、何をしたの?」


本当に何もしてないんです!なんか助走つけて襲って来たんですよ!?


「本当に何もしてないですよ、ばったり遭遇して……そのまま、何事もなく終わると思ってたらいきなり襲いかかって来たんですよ?」


どう考えても俺は無実だし、悪いのは立ち去らずに襲って来たクマさんの方である。


「ヴィル、本当に何もしていないの?」


いや、そこまで信じてくれないと流石に凹むんだけど。


「…………………………はぁ」


深く息を吐いたレーラさんはそのまま飲み物が入ったコップを持つと、一気に飲み干した。


飲み終わったコップをテーブルに置くと立ち上がって近くにいた冒険者の所まで行って何か話してる。


小銭を渡してたから頼み事とかかな?話しかけられた冒険者の人、レーラさんにびくびくしながら頷いて出て行ったけど。


「ヴィル」


なんですか?俺はレーラさんが信じてくれなくて若干凹んでるんですけど。


「今日は私の家に泊めるから」


……………………………は?


「孤児院にはいま使いを出したから気にしなくていい」


さっきの冒険者に頼んでたのはそれか。


「えっと、どうしてですか?」


なんで、いきなりそんな話になるのか意味がわからないんだけど。


「理由、わからない?」


少なくてもレーラさんの雰囲気からR指定が付く甘い展開にならないことだけはわかりますけど。


「ヴィル、貴方は実年齢以上に冷静。状況に合わせて自分で考えて行動する事は十分に出来てる」


まぁ、13歳だけど中身は別物だからそれくらいは出来る。


「自分から知識や技能を求める向上心もある。自分に足りない部分をきちんと把握して、それを埋める為に努力しているのも私は知ってる」


褒められるのは嬉しいんですが、褒めてくれるならもうちょっと優しい声で言って欲しい。


「これは私の落ち度でもある。まだ早いと思って先延ばしにしてたけど、この際だからヴィルにはちゃんと教えようと思う」


あ、もう一つあったコップに手を付けた。


最初から二つとも飲むつもりだったのね。


「ヴィル。これから私はヴィルを叩き潰すから。ヴィルは一度、何をどう工夫しても何も出来ないし何もさせてもらえない。生き残ることだけに全力を出しても、それすら出来ない相手がいる事をその身で学びなさい」


は?何を言って……。


レーラさんに襟を掴まれ、そのまま床に叩き付けられた。


「かはっ!」


衝撃に息が詰まる、いきなり過ぎて受け身どころか何も反応出来なかった。


「がっ!」


叩きつけられた身体を蹴り上げられて身体が浮く、また襟を掴まれる。


13歳にして背とか小さいけど、男の俺が浮くとかどんだけの力で蹴り上げられたんだよ。


「訓練場、借りるから」


持っていたコップの中身を飲み干し、テーブルに置いたレーラさんはそのまま俺を引きずって歩き出す。


ヤバい、たった二発食らっただけでまともに動けてない。


これ間違いなくマジに叩き潰しに来てる、訓練場に連れて行かれるまでに少しでも回復させないと何も出来ずになぶり殺しにされる。


「ヴィル、もう一つだけ教えてあげる」


ずりずりと俺を引きずりながら残念美人から冷酷美人にクラスチェンジしたレーラさん。


「アカドクナシ茸とアカドク茸はリーフベアーの好物。あの魔物は普段は巣穴から出て来ないけど、餌を探しに巣穴から出て徘徊しているところに好物を大量に持った状態で遭遇して襲われないはずないでしょ」


だから俺は何もしてなくても襲われたのね。


「ちなみに、これ前にヴィルには教えてるから」


………………………マジか?


あぁ、そりゃレーラさんもブチ切れるわ。


だから、何度も本当に何もしていない?って確認してたのか。


俺が何もしていないけど襲われたって言ったのを信じてたからこそ、命に関わる大事なことを忘れていた俺に怒ってたのね。


クマさんごめんよ、悪いのは俺だったわ。









でも、流石に叩き潰されるのは嫌だなぁ…。

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