017「この指輪は一体何なんだろう?-4」
なんか、もう今日は疲れることばっかりなんだが。
神託の儀では機械みたいな声にハッキングされて端末という名の指輪を着けられ、かと思えば神様(仮)……いや、管理者が神って言ってたから神様(真)が現れて何かやらかしてくれて。
くったりしながら孤児院に帰って来て、着けられた指輪について調べてたら管理者を名乗る不審者からユニークスキルだの魔法の使い方だのあーだこーだ一方的に言われるっていうね。
「あー、もう嫌だー何もやりたくなーい」
めっちゃ現実逃避したい。
「はぁ……………………煙草吸いたい」
誰もいない場所で、独りで煙草に火を点けて空を見上げて過ごしたい。
「前世ではよくやったよなぁ」
仕事が上手くいかなかった時とかに会社の屋上で煙草吸って気分転換してたっけ。
空を流れる雲と空に流れ消えていく煙草の煙を見ながら、仕事の情報と気持ちの整理をしていたあの時間が懐かしい。
「…………………………………………………切り替えるか」
煙草のない現実逃避なんぞ空虚なだけだ。
与えられたというか、一方的に押し付けられた情報を整理するべきだろう。
まずは、この本からかな。
管理者は使用者登録が終わったなら説明が書いてあると言っていた。
端末がユニークスキルになっているみたいなこと言ってたっけ?
ユニークスキルってあれだろ、珍しいとか唯一無二とか統合されて進化すると究極になる奴だよな。
この世界で俺だけが使えるスキルってのはちょっと楽しみでもある。
なら、使い方をしっかり理解しなきゃならんよな。
説明書きがあるなら、まずはそれを読むべきだろう。
起き上がって本を手に取り開く。
さっきまでは白紙だった最初のページに文章が書いてあるけど…………何だこれ?
「厨二心全開な文章なんだけど、これにも俺の記憶が反映されてるとかだと嫌すぎるんだけど」
前書きってやつか。
日本刀と合体して空中戦する物語にあった「英雄を目指すなら不要だ」的なのと同じで。
この本が伝えたいことと、この本が言いたいことがこれになるのだろう。
【虚構と幻想の果てを歩み 此処に創り出すことを誓うなら
積み上げ続けた幾多の模倣は 汝を裏切る事はないであろう
此処に在るのは無限に重ね合わせた幻想を紡いだ叡智
此処に在るのは夢幻を重ね合わせた現実を記した軌跡
汝の叫ぶ感情の総てが此処には在る 汝の望む激情の総てが此処には在る
我は幻想と現実を蒐集する機構なり 我は模倣と贋作を研鑽する機構なり
悠久と永遠の果てを歩み 我は汝と共に此処に在ることを刻む】
何だろう、読んでいてとても心が痛い。
「厨二病特有の文章の組み方というか、厨二病特有の言葉の選び方というか」
え?まさかこれが俺のユニークスキルの取り扱い説明書なの??
ペラペラとページをめくってみるが、この前書きっぽい文章以外は白紙だった。
…………俺、これを解読すんのか。
「ま、まぁ熊本弁よりは解読しやすいはすだ」
あっちは太陽に文句を言うのが朝の挨拶で、闇堕ちしたらお疲れ様だ。
それに比べたら、きっとわかりやすいはず。
「よし、やるか」
まずはシンプルに考えることが大事、この文章が俺の厨二病の症状を元に組まれているなら………なんか、泣きそうだよ。
うん、厨二病時代の俺なら無駄にかっこよくて難しい言葉を使いたがるはず!!
「…………………涙出てきた」
なんで、自分のスキルの使い方を調べてんのに精神を削られなきゃならんのだろうか。
えっと、文章の流れを把握した上でまずは一行目【虚構と幻想の果てを歩み 此処に創り出すことを誓うなら】ってとこ。
虚構と幻想ってとこはとりあえず無視していい、注目するのは創り出すことを誓うならってところ。
全体の流れからして、汝ってのは俺で我っていうのはこの本のことだろうから。
「俺は、この本に対して何かを誓わなきゃならないってことになるのか?」
創り出すことを誓う、なら何を創り出すのか?ってことだけど…。
二行目の積み上げられた幾多の模倣ってなんだ?俺を裏切らないって模倣ってどういう意味だ??
三行目から六行目はたぶん、この本の機能の説明。
つまりは俺のユニークスキルであるこの本が出来ることが書いてあるはず。
たぶん、三行目から五行目をまとめた内容が六行目の【我は幻想と現実を蒐集する機構なり 我は模倣と贋作を研鑽する機構なり】ってやつ。
幻想と現実を蒐集する、幻想ってのは存在しない物、現実は存在している物………それを集める?
模倣と贋作を研鑽するって、他人のマネや偽物を練習するってことだろ?
最後の七行目はたぶん、俺が誓えるなら悠久だろうが永遠だろうが一緒にいてやるってことになりそうだけど……。
「んー、わかりそうなんだけどわからん」
こういう厨二病な文章って、書きたいこととか伝えたいことを難しい言葉で飾って誤魔化してるはずだから言いたい事は本来ならシンプルなはずなんだよなぁ。
「……虚構……幻想……模倣……現実……贋作…………」
俺のユニークスキルなんだから、もうちょっと素直でわかりやすくてもいいと思うんだけどなぁ。
「そいや、管理者が何か言ってたよな。俺のユニークスキルの名前が
理由ねぇ、厨二っぽいのが好きなのが本質だからとかは違うのだろうか?
何だっけ?何か幻想を現地にする為には何とかかんとか言ってたけど。
幻想って幻で実際には有り得ない物、空想上の産物だ。
「ん?図書館って事は本だろ?幻を本の形にして図書館に納めてんのか??」
ダメだなぁ、思考が煮詰まって固まってきてる。
考える場所を変えてみるか。
【汝の叫ぶ感情の総てが此処には在る 汝の望む激情の総てが此処には在る】ってところはどうだろ。
感情と激情の総てがある、此処ってのは本ってことだろうけど。
本を読んで泣いたり怒ったり笑ったりして楽しんだりするけど、それが誓いや図書館にどう繋がるんだ?
「………そいや前世でガキの頃に図書館で大泣きしたことがあったなぁ」
まだ小学校に上がってもなかった頃、姉さんと兄さんと3人で図書館に行って、2人が俺にって選んで持って来てくれた子供向けの童話の絵本。
もう内容なんか覚えてないけど、その童話の結末が悲しくて納得出来なくてボロ泣きしたんだよなぁ……。
「僕ならこんな悲しい話にしない、幸せな終わり方にするって泣きながら姉さんにしがみついたんだっけなぁ………」
懐かしいなぁ…俺はもう死んでこっちの世界に来てしまったけど、姉さんと兄さんは元気だろうか?
「だったら――が同じような悲しいお話しに出会ったときに、幸せな結末に出来るようにすればいいよ……か」
泣き止まない俺に姉さんか兄さんのどちらかが言ってくれた言葉。
どっちが言ってくれたのかは覚えてないけど、何か印象深くて記憶に残ってんだよなぁ……。
「……………………………………もしかして」
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