005「5年前の話-5」
「異世界に召喚された黒髪チート野郎が言葉が通じなかった現地民を次々にフルボッコにして会話出来るように自分と同じ言語にした。ついでに自分の知ってる事を伝えてたら、何か世界も救えた」
ジニスがやったことを簡単に言うとこうなる。
ラノベにするなら「異世界に召喚されたから地球の知識とチート能力を使って世界を救ってみることにした」とかってタイトルになるのだろうか?
ちなみに、俺はジニスは転生者じゃなくて転移者だと考えている。
理由はジニスが黒髪という割と珍しい容姿(俺も黒髪だけど)なのに、出身地が一切判明しておらず幼少期などの記述が一切ないこと。
ジニス自身が「神様から世界を救って欲しいと頼まれて呼ばれたからこの世界に来た」と話したことがあると文献には書かれていた。
日本人っぽい名前ではないからジニスって名前は自分で付けたのだろうか?
というか、結構細かくジニスについて書いてあるけど、この文献の筆者は何者なんだろうか…。
ジニスの他にも、教会にあった本には「これ転生者や転移者がやったのなら辻褄合わないか?」って話がいくつもあった。
言語に関しては400年以上も経てば変化くらいするし、そんな日本語を聞けば違和感を感じて当たり前だろう。
文明や文化の歪さは過去の転生者や転移者が自分の得意な部分や必要な部分だけを一気に引き上げようとしたのだろう。
過去にこの世界に来た異世界からの転生者や転移者がやりたい放題やった世界。
それに気付いたら、俺の中にあった違和感はほとんどなくなっていたし自分の前世の記憶を疑うこともなくなった。
過去にも転生者はいたと考えるなら俺もその一人なのだろう。
しかし、新たな疑問も出て来た。
まず、転生者や転移者が過去にどれだけいたのかは知らないけど…なんというか徐々にマイルドというか大人しくになってきてる気がする。
世界相手にフィーバーしたジニスがチート野郎なのはいいが、その後に出て来る転生者か転移者だと思われる連中にジニスほどの能力はない。
間違えてジニスを強くし過ぎてしまったから、その後の連中は少しずつこの世界に合わせた能力に調整しているみたいだ。
あと、ジニス以外の転生者か転移者の中には神に会ったとか神に命じられたとかって言ってた連中がいたらしいが俺は神になんて会っていない。
もしかしたら会ってはいるけど忘れたという可能性もある、そもそも前世の記憶を思い出したのも最近の話だし。
あとは、何故か転生者や転移者は日本から来た奴しかいないっぽい。
何でピンポイントで日本だけなんだろうか?
まぁ、その辺は考えても仕方ないか…。
読み終わった本を片付けて、俺は教会を出て街を歩く。
最近は教会に引きこもって本を読み漁っていたので外を散歩しながら考えをまとめたい。
「俺はこの世界でどうやって生きていこうか…」
前世でよく読んだ異世界の物語のように内政チートで金を稼ぐ?
「まぁ、無理だよな…」
この世界は過去に転移者や転生者がやりたい放題やった世界なのだ、今更都合よくそんな事が出来る可能性は限りなく低い。
そもそも、俺の前世はちょっとオタク趣味があった普通のサラリーマンであって内政チートが出来るほどの深い知識はない。
そして、俺は孤児だ。貴族などの支配者階級が存在しているこの世界では家柄や血筋が重要視される。
スタート地点からしてマイナスなのだから、よっぽど内容が素晴らしくて運が良くない限りは内政チートなんて出来ない。
「高ランク冒険者を目指して冒険者になるとか…」
冒険者になるのはありかもしれない。幸いにもヴィルの身体は運動神経は悪くなさそうだから、孤児院を出るまで知識を深め身体を鍛えれば何とかはなるだろう…ただ。
「魔法が使えるかどうかわからないってのが、痛いんだよなぁ…」
この世界には物語に出て来るような天才魔法少年とか少女はいない。
魔力そのものは、幼い子供も持っている。魔力を使用する魔道具を日常生活で使っているのだから俺にも魔力があるのはわかっている。
だが、魔力使って魔法を発動することは出来ない。
様々な国で研究はされているが未だに理由はわからないとのことだが、二次性徴を迎えてからじゃないと魔法を発動することは出来ないらしい。
俺も孤児院のクソガキ達と一緒に試してみたことがあるけど出来なかった。
魔法を全く使えないって人は少ないらしく、火種を出したりコップに水を出したりするくらいなら、割と簡単に誰にでも出来るらしいが出来なかった。
そういえば、この前クソガキ達のまとめ役になってる歳上の子供が魔法が使えるようになったって喜んでたな…。
そんな訳で、貴族に仕える魔法使いや高ランク冒険者にいる魔法使いみたいに職業として役立つ魔法が使えるかどうかは実際に魔法が使えるようにならないとわからない。
冒険者になるなら魔法が使えるかどうかで高ランクになれるかどうかの難易度が一気に変わってくる。
戦闘はもちろん、野営や索敵や治療に至るまで魔法が使えた方が有利な点が多過ぎるのだ。
最悪、俺がそこまで魔法が使えなくても魔法使いを見つけてパーティを組めばいいという考え方もあるが、魔法がほとんど使えない俺と組むか、魔法がそこそこ使える奴と組むかとなったら俺に魅力がなければパーティを組んでは貰えないだろう。
ちなみに、魔法の素質も遺伝するらしいので両親が魔法が使えるなら子供もほぼ魔法を使えるらしいのだが俺は孤児なので両親が魔法を使えたかどうかなんて知らない。
「どうしたもんかなー」
今世が孤児である事を不幸に思ったことはないが、せめて俺が魔法を使えるかどうかくらいわかるようにして欲しい。
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