004「5年前の話-4」
俺が前世の記憶を思い出して3ヵ月近くが経った。
情報を集めることは今も続けているんだが…。
「本当に、なんなんだこの世界は…」
情報を集めれば集めるほど、この世界に感じる違和感が大きくなっていた。
まず言語、ジニス語という名前で呼ばれている。
「限りなく日本語に近いんだけど、なんか違う」
信じられないことだが、この世界の言語は統一されているらしい。
この世界ではバベルの塔を建てたりはしなかったのだろうか?
人間種以外には各種属の古代言語もあるらしいんだけど、ジニス語が共通言語になっているからジニス語さえ話せれば未開の地の原住民以外は平気らしい。
このジニス語、上手く説明出来ないけど極めて日本語に近いのに限りなく日本語じゃない言語って感じといえばいいのだろうか。
聞こえて来る言葉は確かに日本語、俺が話している言葉も日本語。
だけど、何かが決定的に違うと感じてしまう。
ヴィルの記憶では違和感を感じたことがなかったから、前世の記憶を思い出したせいで違和感を感じるようになったのだろうか?
まぁ、会話が出来るのだから違和感に慣れるしかないだろう。
次に文字と文法、こっちはもっと意味がわからない。
ひらがな!カタカナ!!たまに漢字!!あとアルファベットとか英語っぽい部分もある!!!。
文法は地球の日本語と同じような感じ、以上。
「本当に、本当に意味がわからない…」
最初はどうした物かと頭を抱えた。ヴィルが勉強嫌いの遊ぶ事が大好きってクソガキだったから文字を覚えていなかったから。
人から話を聞くにも限界がある。大人は基本的に仕事をしているから相手をしてくれるかわからない、子供からの聞き取りではちゃんとした情報は集まらない。
なら本を読んで情報を集めるしかないんだが、ヴィルはクソガキで文字が読めない。
孤児院に併設されている教会でシスター達に頭下げてきちんと勉強を教えて貰うか?
ただ、ヴィルは問題児で有名だから新手のイタズラかと勘違いされるかも知れない。
こいつは本当にどうしたもんか、って悩みながら孤児院にあった絵本をペラペラ開いてみたら。
「…これ、もしかしてアルファベットが筆記体で書いてあるだけなのでは」
試しにローマ字読みしてみたら普通に意味の通る文章になりましたよ。
アルファベットの筆記体なんか前世では触れる機会は少なかったし、筆記体の存在そのものを忘れていた。
(Tシャツとかに筆記体で書いてあった単語や文章の意味なんか調べたこともなかったからなぁ)
そもそも異世界の文章がアルファベットのローマ字読みでいけるなんて考えつきもしなかった。
他の本を開いたら普通にひらがなとカタカナで書いてあった。
さらに他の本を開いたら漢字が出てきた。
なんでもありかよファンタジー。
ちなみに、文字はジニス文字。アラビア数字の方はジニス数字と呼ばれている。
ひらがなやカタカナ、漢字なんて特別な呼ばれ方はしてないらしい。何でやろうか?
これらの文字達も未開の地以外は世界共通になる。
まぁ、文字が読めるようになったし情報を集めるかーって気合いを入れて孤児院と教会にある絵本やら本やらを読み漁った。
孤児院の院長や教会のシスター達からヴィルが本を読んでる!?やっぱり煙草を吸って熱を出してから頭がおかしくなったんじゃ!!って本気で驚愕され心配されてしまったけど。
いや、まぁヴィルは勉強嫌いのクソガキだったから仕方ないね。
そんな事もあったけど、気にせずに俺は本を読み漁る。
情報を集める意味もあったし、前世では本の読み過ぎが死んだ原因の1つになるくらい本を読むことは好きだ。
前世と同じく、ジャンルを問わずに本を読み続ける。
昔話、歴史書、図鑑、伝記、何でも読む。
そうやって本を読み漁ること数日、俺は気付いてしまった。
気付きたくなかった、見ないようにしていた、認めたくなかったけど、気付いて直視して肯定するしかなかったというか…。
もう開き直るしかなかった、開き直ってよくよく考えてみたらこの世界に感じていた違和感がほとんどなくなったから結果的にはよかったんだけど。
まず、言語やら文字やら数字に使われているジニスってのは人名なんだ。
この世界でトップクラスに有名な昔話。
文字が読めなかったヴィルも、そりゃもう読み聞かせで何度も何度も聞かされた。
400年以上前に世界を救い人々を導いたという勇者にして賢者にして聖人。
伝説の英雄ジニス。
ジニスは大きな厄災で滅びに向かっていた世界に現れ種族を問わずに数多の人々を救い、纏め上げ、導いたという。
彼に救われた人々はジニスを称え、ジニスの伝えてくれた言語・文字・数字に彼の名を付けた。
そして、それは今も受け継がれている…。
ジニスに関する文献が教会にあったから、読んでみて確信した。
こいつ、間違いなく俺の前世と同じ世界から来た転生者か転移者だ。
しかも、テンプレチート異世界系主人公みたいな能力持ちの。
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