002「5年前の話-2」
俺には前世の記憶があるらしい。
…頭のおかしい人みたいだな。
実際、知らない奴にそんな話をされたら頭がおかしい奴に話しかけられたと思う。
知ってる奴からそんな話をされたら熱でも出したか、怪しい宗教に引っ掛かったのかと心配する。
しかし、俺は前世の記憶を思い出してしまった。
「どうしたものかなー」
ベッドに横になり天井を見上げる。
外からは子供達が遊ぶ声が聞こえて来る。
この部屋は体調を崩した子供が過ごす隔離部屋なので、俺以外はいない。
たまに世話役になっている俺より年齢が上の子供や孤児院を手伝ってくれているシスター達が様子を見にくるくらいだ。
院長が隠していた葉巻を吸ったら前世の記憶を思い出した。
それが、数日前。
前世の記憶を思い出したせいなのか、熱を出して寝込んでしまい昨日辺りからようやく回復してきた。
院長達は葉巻を吸ったせいで熱を出したと勘違いしたらしいけど。
「まぁ、とりあえず現状を確認をしよう」
熱が下がるまでは頭が朦朧として上手く考えることが出来なかったけど、今なら問題ない。
ヴィル、それが今世での俺の名前。
年齢はたぶん7歳、赤ん坊の時に名前と年齢が書かれた手紙と一緒に孤児院の前に捨てられていたらしいので、それを信じると今は7歳になる。
顔つきは割とあっさりしている感じなのか?同じ孤児院の子供達に比べるとあっさりとしている気がする。
髪は黒色、瞳も黒色。
ただ、右眼の方が左眼に比べて少しだけ濃い黒色をしている気がするんだけど気のせいかな?勘違いかも知れない。
その辺りは鏡がなく、顔を洗うときに水に映っていたのを見ただけなのでよくわからない。
この世界では鏡は高級品らしい。
次に、前世の話。
前世での名前は…いいか、それは。
今となっては名乗っても仕方ないし、前世の記憶が正しいとも限らない。
本当に俺の頭がおかしくなった可能性もある。
とりあえず、前世の記憶が正しいと仮定して。
まず、前世は地球という星の日本という国で生きていた。
性別は今世と同じ男、顔やブサイクでもなければイケメンでもないたぶん普通な感じ。
ナルシストでもないので、自分の容姿にはそこまで自信はない。
10人いたら3人はカッコいい!って言ってくれるかくれないかの顔だったと思う。
髪は黒色、瞳の色も黒色。身長とか体格も平均的な日本人と同じくらいだったはず。
今世が日本人っぽい容姿なのは前世が日本人だったせいなのか?
まぁ、いいや。
年齢は覚えている限りでは25歳。
両親は可もなく不可もない普通な両親。仲が悪い訳でも良すぎる訳でもない。
兄弟は4つ上の姉と2つ上の兄がいて、俺は末っ子だった。
家族仲は悪くはなかったし、普通な感じだったと思う。
俺が就職したから一人暮らしがしたいって言ったときに月に一度は帰って来る事が条件だったから、ちょっと過保護だったかも知れない。
俺自身も普通な人生を送っていた、普通に大学まで出て就職してって感じ。
趣味がちょっとオタクっぽいってのはあった。
漫画読んだり小説読んだりゲームしたりと広く浅くやっていた感じなので、この分野は極めてるぜっ!ってのはない。
姉がハマったジャンル、兄がハマったジャンルのお下がりが俺に回って来たので色々と詳しくはなったが。
夏と冬に友達に誘われて戦場には行ってたけど、俺は配布する側ではなかったし。
死ぬまでには1回でいいからサークル参加してみたかったなぁ…。
さて、今ここでヴィルとして生きているという事は前世での俺は死んだのだと思うが。
死因は何だったのだろう?
車やトラックに跳ねられたり、駅のホームから突き落とされたりした覚えはない。
ブラック企業でボロボロになるまで働いた覚えもなければ、大病を患っていた訳でもない。
女の子を通り魔から守って刺された覚えもないし、現実に絶望して自殺した覚えもない。
寝煙草して火事になって焼け死んだ?いや、当時は禁煙してたはずだからそれもない。そもそも、俺は煙草吸う時はベランダで吸ってたし火の扱いには気をつけていた。
となると…思い当たるのは。
「まさか、過労で死んだのか?」
原因が過労くらいしか思いつかない…。
たしかに、仕事が忙しい時期で他の時期よりは残業も増えてはいた。
それでも、始発で会社に行って終電で帰るとか会社に泊まり込んで仕事をしたとかはなかったし休みはきちんとあった。
就職活動のときに徹底的に調べてブラック企業だけは回避したのだから。
ただ…時期が、そう時期が悪かった。
「小説とゲームで睡眠時間削りまくったよな…」
数年間も連載が止まっていた小説の続きや贔屓にしていた作者の新作がいきなり何冊も発刊された。
それに加えて、時間泥棒と言われていたゲームの新作も発売。
さらに、発売だけは決まっていて何年も放置されていたゲームまで発売された。
仕事は忙しい時期だった。それでも、何年も下手すると10年以上前から待っていた新作達が発売されたのだ、忙しい時期が過ぎるまで我慢出来なかった。
その為に睡眠時間を削りに削った、平日も休日も関係なく何日も。
まだ若いから大丈夫だろーって。
新作が読める!出来る!!ってテンション上がりっぱなしだったから身体の不調には気が付かなかったのだろう。
「で、過労であっさり死んだと」
馬鹿なのか前世の俺?いや、馬鹿だったのだろう。
外で遊んでいる子供達の声が、気付けば聞こえなくなっていた。
部屋の中も暗くなって来ていたので、もうすぐ夕食なのだろう。
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