001「5年前の話-1」
5年前。
7歳のクソガキだった頃の話だ。
12歳、もうすぐ13歳になる今も大人からしたらクソガキであることには変わりないのかも知れないけど。
まぁ、あの頃はいま以上にクソガキだったと思う。
この街の教会に併設されている孤児院に住んでいる俺は、同じく孤児院に住む似たような年齢のクソガキ達と一緒になって結構な頻度で無茶をして、その度に世話役になってる少しばかり年上の子供を困らせてばかりいたから。
もちろん、流石に犯罪行為とかをしていた訳じゃない。
俺も、孤児院のクソガキ達もそれくらいの分別はついていたからな。
それに、そんな事をしたら親代わりになってくれている孤児院の院長や手伝いに来てくれる教会のシスター達に迷惑がかかる。
だから、無茶と言ってもクソガキ達と冒険者ごっこでダンジョンに見立てて街中を走り回り、教会の横にある木に登っては飛び降り、棒を振り回したりしてたりしたくらいだ。
子供のごっこ遊びとしては可愛らしいもんだろ?
まぁ、怪我をしなかった訳じゃない。擦り傷やら何やらはよく作った。
そんなある日のことだ。
俺の人生を変える重大な出来事が起きた。
大袈裟に言ってしまえば。あの日、あの時から俺の人生は始まったんだと思う。
俺が住んでいる孤児院の院長を訪ねて来たこの孤児院出身らしい商人の男。
名前は覚えてない。
院長から紹介はされたけど、あの時の俺には全く興味がなくて名前なんて聞き流していた。
さっさと外に遊びに行きたかったというのもある。
その商人なんだが、行商をしているらしく珍しい物を見つけると土産として孤児院に持って来たりしていたらしい。
時々、夕食に変な物が並んでいたのはこいつのせいだったとか。
まぁ、話を戻そう。
その商人が院長に持って来た土産にある物があったんだ。
それが煙草、紙巻きではなく葉巻の。
当時の俺には茶色の棒にしか見えなかったんだけど、院長が嬉しそうに受け取っていたからいい物なんだろうなぁとは思っていた。
それから、数日後に院長の部屋を掃除していたとき。
隠してあった煙草をたまたま見つけた。
さて、7歳のクソガキが大人が嬉しそうに受け取っていた物、しかも隠してあった物を見つけたからどうするか?
そりゃ、まぁ試してみたくなるよね。
使い方は院長と商人が使っている所をこっそり覗いていたからなんとなくわかったし。
(たくさんあるし、1本だけならバレないだろ)
こっそり拝借、ついでに一緒に隠してあった火をつける魔道具も拝借する。
掃除を終わらせて、いつもならクソガキ達と街に遊びに行くところを孤児院の裏へ。
ここなら人目につかないからバレないだろ。
孤児院の壁にもたれて座り込む。
さっそく火をつけてみるが、中々燃えなかったけど色々と試行錯誤してみたら火がついた。
(これから、どすればいいんだろ?)
火がついて煙が出ているが、これの何が面白いんだろ?
しばらく煙を眺めながら考えてみたら、院長達がこれを咥えていたのを思い出したので火のついてない方を咥えてみる。
煙が目に入って痛かった。
(そういえば、味がいいとか言ってたな)
味ということは、棒を舐めるのだろうかと思って舐めてみるが特に美味しいとは感じない。
もしかしたら、煙が美味しいのかもしれない。
院長達も口から煙を吐いたりしてたから口に咥えて吸い込めばいいのかも。
吸ってみる、空気とは違って煙が口の中に溜まるのがわかる。
どの程度吸えばいいかわからなかったからそのまま吸っていたら…肺に煙が落ちた。
「ぶっ!!げほっ!げほっっ!!」
なんだこれ!?
咥えていた棒が落ちて地面を転がるが気にしてる余裕なんかなかった。
「げほっ!げっほ!!げっほっっ!!」
むせる、ひたすらにむせる。
「げっほっ!げっ!っほ!!げっっ!!」
呼吸がおかしくなる、苦しくて頭が痛くなってきた。
「げほっ!けほ!!はぁ、はぁ……すー、はー」
しばらくむせていたけど、やっと落ち着く。
「まっず……何、この煙草」
落としてしまった棒を…煙草を拾う。
「こんな不味い煙草よく吸えるな、味に好みがあるにしても信じられん」
くるくると煙草を回す。
「葉巻を吸い慣れてないってのもあるけど、これならコンビニで買える吸い慣れた紙巻きの味のがよっぽどいい」
煙草から出た煙が円を描いて登っていく。
「あー、コンビニ行くか。不味い煙草吸ったせいで美味い煙草が吸いたくなったし」
手に持った煙草を地面に押し付けて火を消して立ち上がる。
「そういえば、禁煙してたんだっけ?まぁ、いいや。こんなくそ不味い煙草を吸ってしまったのが……」
「…………あれ?」
火の消えた煙草を手に持ったまま立ち尽くした。
仕方ないよね、いきなり前世の記憶を思い出したんだから。
ちなみに、院長には葉巻を拝借したことがしっかりバレていてめっちゃ怒られた。
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