第110話、うちの子が優秀すぎる

 新天地改造にあたりメルティアス家は大きく8つの部隊に分かれた。


 魔の森で木を伐採する木こり班。

 伐採した木を加工する木工班。

 加工した木材を組み立てて家を建設する大工班。

 王都で大量購入した石材で通路を作成したりする石工班。

 日常生活に必要な魔道具を製作する魔道具班。

 森から出てきた魔物を狩る討伐班。

 頑丈な建物にするための特殊結界を施す結界班。

 魔力ポーションを作ったり怪我人を治療したりする治癒班。


 全体を指揮する母や俺を除けば大体そんな感じに収まった。


 数の暴力ってすごい。デタラメなハイスピードで着々と建造物が出来上がっていく。さすがにちょっとびっくり。

 正直子供だからとナメていた。魔法ありきとはいえ、プロ顔負けの仕事をこなすとは。

 本職の人が発狂しそうなので他所様には秘密にしておこう。


 居住スペースを整えるのになんやかんやで丸5日掛かった。それでも充分早いけど。

 建造物の骨組みと外観だけなら2日で完成したのだが、各部屋のトイレなどの水回りに設置する魔道具の数を揃えるのに時間が掛かったのだ。

 何せ両親含めて342匹?人?数分の個室と同じ数だからな……しかも全員集まれる大広間やその他諸々も含めるともっと増える。魔力ポーションでゴリ押ししなかったらもっと時間が掛かっていただろう。


 水場の魔道具とひとくちに言っても様々で、例えばトイレに設置する魔道具は水を出す・出現した水を押し流す・便器の浄化・押し流した水と排泄物の浄化の4つの機能が必要だ。

 貯水タンクを奥に設置し、水を出す魔道具を予め内部に仕込んでおいて水を貯めておく。一定の量まで貯まると自動的に止まるオプション付き。

 魔力を流せば貯水タンクから水が流れ、そのまま排泄物ごと隣のタンクに押し流されてそこで浄化の魔道具が発動し、綺麗になった水が貯水タンクに戻る、という仕組み。便器の浄化はまた別だ。

 ちなみにこれを考案したのはルファウスである。

 最初はウルティア領にいた頃と同じく適当にそこら辺で済ませて土で埋めるつもりだったんだが、信じられないと言いたげな顔で「田舎でもないのにそんな不潔な……!」と呻くように訴えてくるルファウスに屈したのだ。

 彼は筋金入りの潔癖だった。おかしいな。人外に転生したこともあるくらいだからその辺気にしないと思ってたのに。


 基本的に鳥類獣人は種族柄1回の排泄量が少ないのでトイレも人間基準だとかなり小さめなもの。

 その他水回りも魔道具を設置し、鳥類獣人専用に使いやすくしておいた。


 トイレ・風呂を除き個室はワンルーム。ただし空間魔法で拡張するのでかなり広い。成鶏しても使えるようにとの配慮だ。

 外から見たら玄関扉が1メートル間隔で空いてるのに中に入ったらだだっ広い空間のお出ましでしたーって初見の人はびっくりするだろうな。


 木こり班が必要以上にガンガン伐採するもんだから魔の森の敷地面積が大分削られてしまったが、まぁ切り株は植林しておいたし問題なかろう。

 石工班は食堂と住居を繋ぐ通路を完成させた。施設と施設の間が地面剥き出し雑草だらけは許せないと一部の弟妹が騒いだ結果である。時間のあるときにこまめに細工を施すと意気込んでいた。夢中になれるものがあって何より。

 セレーナとレルムを筆頭に討伐班は魔の森から出てきた魔物を積極的に狩っていた。お前ら戦闘民族かと突っ込みたくなるほどにそれはそれは嬉々として狩っていた。セレーナはともかく、お兄ちゃんはそんな戦闘狂に育てた覚えはないぞ。

 治療班は主に魔力ポーション作成に従事していた。あとはたまに魔法のコントロールに失敗したやつの怪我を治したり。魔力ポーションの材料は木こり班が伐採ついでに採取している。

 父を筆頭に結界班は建造物の周囲に魔石を埋め込んで半永久型の対物理・対魔法結界を展開。魔石に魔力が残っている限りほぼ壊れる心配のない優れもの。結界に関してだけは父の方が上手だった。いつの間にか追い抜かれていた。ちょっと悔しい。


 まぁ俺はどちらかと言えば攻撃系の魔法の方が得意だし……と内心言い訳しつつアネスタ辺境伯領に転移して依頼しておいた大量の家具を受け取り、かなりの額にも関わらず分割ではなくぽんっと手渡した大金にあんぐり口を開けた職人には構わずに今度は王都へ。

 そこでも依頼していた家具を受け取って以下略、魔の森手前の拠点に転移。

 全員で協力して家具を配置すれば、とりあえず住むのに困らない程度に整えた居住スペースの出来上がりだ。


「やっと缶詰め地獄から解放されるー!」


「念願の1人部屋だー!」


「ベッドを独り占めできるって素晴らしい……」


「これでトイレ争奪戦もなくなるね。もうウルティア領にいた頃には戻れないから助かったよ」


「父さんの結界すごーい!これなら寝惚けて魔法撃っちゃっても家を粉砕しなくて済むね!」


「喧嘩する度にオカンの雷が落ちて焼き鳥の刑に処されることもなくなるな!」


 衝撃情報がいくつか混ざっているが、全員喜んでくれて何よりだ。


 問題の部屋割りだが、仲良しグループに分かれてもらって上手く調整できたので良しとしよう。

 最低限の居住スペースが仕上がったので、邪魔になったアネスタから持ってきた屋敷を取り壊そうとしたところで待ったが掛かった。


「人型の獣人や人間の来客が来た時用に取っておいた方がいいんじゃないか?」


「友達呼んでパーチーすんのに要るっしょ絶体ー」


 待ったを掛けたのはルファウスとレストだった。

 ルファウスの言う通り鳥類獣人と人型獣人では色々と勝手が違うので、来客が来ても満足に接待できない可能性が高い。

 賢者の存在を公にした今、ノンバード族に接触しようとする者がいるとは思えないが、これから先弟妹達にも友人ができるかもしれないし、何より俺にはウィルという友人が既にいる。

 俺だって人並みの願望はある。友人を自宅に招いて遊んだり一緒にご飯食べたりしてみたい。仲良しの証みたいで憧れる。

 レストの発言は意味不明だが。なんで平民なのにパーティー?まぁよく分からんが俺のためを思って言ってくれてるのは確かなので無下にはするまい。


 屋敷の取り壊しはひとまず止めておいた。

 だがそのまま使うには増築の跡が悪目立ちしてしまうのでこちらも改装することが決定。しかし来客予定なんぞ今のとこないのでまったりのんびり作業を進めている。


 居住スペースが出来たら次は大食堂に取り掛かった。

 こちらはテーブルと椅子を家具職人に依頼しているのでそれ待ち。なので他に出来ることを済ませておく。

 他に出来ること、それ即ち結界作成。

 以前それとなくヒヨコ軍団にどんな食堂がいいか聞いてみたら「外の空気を吸いながらご飯食べたいよねー」「じゃあお貴族様みたいに東屋造る?」「どうせなら綺麗な花畑作ってそれ見ながら食べたいなー」「じゃあ柱邪魔だね」「建物いらなくない?」「結界でなんとかしよう!」「「「賛成ー!!」」」というやりとりの末に建物不要の大食堂の案が可決された結果だ。

 いや、確かに外にテーブルと椅子を並べようとは思ったが、吹きっさらしの場所にテーブルと椅子を並べて結界張ってハイ終わりーじゃ流石に母に怒られるかなと思い直したところだったのに……まぁ、美しい景色を眺めながら食事するって発想はなかったから助かったけど。


 調理小屋は大工班が母の指示に従って作成中で、花畑は女子グループが張り切って種を植えている。……植物の成長を早める魔法なんて教えた記憶ないんだが。

 自分が忘れているだけで前に渡した魔法教本の中に書いてあったのだろうか。


 ちょっとした謎を残しつつ大食堂の特殊結界を父に任せ、次の作業場へ。次は畑だ。

 土魔法が得意な子達で一斉に土壌を改良する光景は端から見て凄かった。大地を自在に操る小さな神々と言われても信じちゃうような光景だった。ヒヨコだけど。


 居住スペースが出来てからは大食堂、調理小屋、畑など各々別の場所で作業をしているメルティアス一家。

 空気中の魔素の濃度を保つためか時折ルファウスが手伝ってくれた。レストも同じく。


 というか、家族が優秀すぎて俺のやることがほとんどないんだが……


 優秀な家族を持って嬉しい反面ちょっぴり複雑な心境に陥る俺をよそに、作業はどんどん進んでいった。



    ◇    ◇    ◇



 一方その頃、国王の執務室にて。


 国王と宰相はルファウスと護衛が提出したメルティアス家に関する報告書に目を通して呻いていた。


「長年不可侵領域だった土地を……こ、こんな、お手軽改造して……っ(泣)」


「陛下!気を確かに!あの家族が異常なだけです!」


 気心知れた宰相しかいないのをいいことにガチ泣きする国王を、宰相が必死に慰める。


 というのも、魔の森に近いあの土地は危険極まりないけど開拓に成功したら莫大な利益が得られる土地なので狙う輩が後を絶たず、国王と宰相の頭痛の種だったのだ。

 魔の森は実力ある冒険者でも命懸けで討伐に向かわなければならないほどに危険な魔物が蔓延る危険地帯。

 メルティアス家の拠点の先、魔の森のすぐ手前にある街は冒険者が必要な物資を調達するため、寝泊まりするためだけに造られた特殊な街である。それだって過去に何度も魔物の侵攻を受けて壊滅的な被害を出しており安全とはとても言えない場所だ。


 どんなに手を尽くしても安全が確約できない土地。それを狙う欲深な命知らずの阿呆共を上手いこと言いくるめたり、有能な冒険者を送り込んでスタンピードが起こらないよう奔走していたのは他の誰でもない国王と宰相である。


 そんな危険地帯を、僅か一週間足らずであっさり住めるようにしたというのだから、自分達の苦労はなんだったんだと嘆くのも致し方ないと言えよう。


 二人のやりとりを眺めていた宰相補佐候補のレインはのほほんと笑った。


「うちの家族が、じゃなくてノンバード族全体がアレな可能性もありますけどね」


「「っっっ!!?」」


 二人は戦慄した。


 えっ?天変地異起こせる不穏分子が国中にいるってこと?そんなまさか……いやでも有り得ない話では……いやいやあくまで可能性であって……いやいやいやしかし……


「よし。仕事するか」


「ですね」


 普段仕事から逃げる国王が、現実から目を逸らすために仕事に逃げた瞬間であった。




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