第78話、出発と道中の出来事
夜が明けて空が白んできた頃。
まだ弟妹達がぐっすり眠っている時間、隣のブルーを撫でながら両親に向き直った。いつになく真剣な表情で。
両親との間に緊張が走る。
「……と」
「と?」
「と……とととと、とう……」
「頑張れ!あと少し!」
「とう……親父、か、かか、母さん。行ってきます」
「なんで今言い直した!?」
「うふふ、言ってらっしゃい。気をつけてね~」
ショックを受けた父とのんびり手を振る母。
気恥ずかしく思いながらも、ブルーと一緒に馬車に乗る。
隣に座っていたルファウスが生温かい目を向けてきたのでキッと睨む。
「……なんだルファウス」
「いや?若いっていいなと思っただけだ」
くそぅ恥ずかしい……!ブルーまでそんな微笑ましげに見てくるなんて……!
羞恥心を圧し殺し、御者に合図すると馬車がゆっくり動き出した。
俺達は国王の呼び出しに応じるため、これから王都へ向かうところだった。
メンバーは俺、ブルー、ルファウスの他にレルム、レイン、ノヴァ、セルザ、セレーナの二人と六匹。
監視役のルファウスと従魔であるブルーは当然として、何故レルム達とセレーナが同行したのか。
レルムは強い魔物と戦いたいから、レインは王都でやりたいことがあるから、ノヴァは王都の魔道具を見てみたいから、セルザは知り合いの商人に会いに行くからとそれぞれ理由があった。
セレーナだけは暇潰し。「癒しのペットで猫枕はいかがかにゃ~」などと宣っていた。
馬車に乗り遅れないよう頑張って早起きしたレルム達は向かい側でスヤスヤ寝息を立てている。普段はまだ眠っている時間だからな。さっきの見られなくて本当に良かった……
セレーナはルファウスを挟んで端っこで丸くなって爆睡中。この猫、戦う・食う・寝るしか頭にないな。
今乗ってる馬車はアネスタ辺境伯家のもの。子供達のことを気遣って用意してくれたのだ。
やがてレルム達が起き出し、次第に馬車の中は賑やかに。
「にいに、約束通りワイバーン狩りに連れてってね!」
「暖かくなってからな。レインはやりたいことがあるんだっけ?」
「うん。王都の学校に興味あるんだけど、7歳からじゃないと入学できなくて。だからしばらくは独学で勉強するつもり。内政とか外交とか興味あるんだ」
「立派になったなぁ……」
「4歳児が内政やら外交やらを独学で勉強するのに突っ込みはないのか」
「私は魔道具の勉強する!フィードお兄ちゃんが作ってくれた教本を元に、オリジナルの魔道具作る!」
「そうか。楽しみにしてるぞ」
「あたしは皆みたいな目標はないかなぁ。ジルベスタおじさんと遊ぶ約束してるだけだし……」
「Aランク商人のあの頑固親父と仲が良いのか。凄いなフィードの妹」
「ふふ、自慢の弟妹達だ」
道中何度か魔物と遭遇したが、対処する前にレルムが率先して討伐していたので俺の出番はなかった。
空が茜色に染まり始めた頃にはレグナムに到着。今日はここで一泊する予定、なのだが……
「あの、今なんて?」
「はぁー全くこれだから鳥頭は!いいか、もう一度言うぞ。貴様らノンバード族は通行料金貨2枚!この街に滞在するなら常識だぞ。それとも払えないのか?ん?」
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、侮蔑の眼差しを隠しもしないレグナムの門番の蛇獣人。
通行料の金額設定が悪意に満ちてるんだが。というか、俺達ははじめからステータスカードを提示するつもりだった。ステータスカードは身分証でもあるから、通行料を払わなくて済むのだ。
だがこの門番、俺とレルム達がステータスカードを持っていないものだと勘違いし、話を遮ったのである。
ノンバード族は身分証を持たないのが当たり前。役立たずな種族に人権はなしと言われている。辺境に住んでる他にもこのような要因が積み重なってノンバード族はステータスカードを持たない。否、持てない。
そう考えると最初の頃のアネスタは大分マイルドな対応だったんだな。
話を聞いてくれない門番にむぅっと頬を膨らませるレルム達。レインだけは怖い笑顔。目が据わっている。いつの間にか目を覚ましていたセレーナも不快だにゃと言わんばかりに顔をしかめている。やめろ、門番を殴り倒そうとするな。
「ふん、下らんな」
「ん?黒いウサギ……王族!?」
ルファウスが馬車の窓から顔を出すと、蛇獣人は固まった。
そしてステータスカードを見せた途端に顔が青ざめる。
「失礼致しました!知識の宝物庫と名高いルファウス王子殿下がおられるとは……」
「それはさておき。我が国では種族ごとに通行料の金額が変動するのは違法だ。先程の発言はそうと知ってのことか?」
「め、滅相もございません!あれは言葉のあやでして……」
面白いくらい鮮やかな掌返し。
どうやら彼は有名人のようだ。それもルファウスがいると分かってからの豹変ぶりから察するに、彼の心証を悪くしたら非常に不味いと思わせるほど。
王族だからではなく、通り名の方が重要視されてるっぽいし。
「な、何故殿下ともあろうお方がこんなゴミ種族と……」
「その質問の答えはこのヒヨコのステータスカードを見れば分かる」
身分証なんぞ持ってないだろうという態度だった蛇獣人が再び固まった。
ルファウスに促されてステータスカードを提示。
するとみるみるうちに青を通り越して白くなる顔色。
「け、賢者様!?大変失礼致しましたっ!何卒、何卒!ご無礼をお許し下さいぃ!!」
凄まじい勢いで土下座された。王族より重視されるヒヨコって……
「そもそも、貴族の馬車に乗ってる時点で賓客だと察せられるだろうに……」
呆れたとばかりにため息をつき、慌てて領主へ連絡を入れる門番を見やる。あれは処罰対象だなと呟きながら。
王族の前であんなアウト発言したらそりゃそうなるわな。
ようやっと街に入り、今晩は宿に泊まるのかと思いきや、領主の使いが来て領主の屋敷に向かうよう言われた。
王族も同行してるのでそこらの宿に泊める訳にいかないらしく、領主の屋敷で一晩世話になるとのこと。
当の王子様はそこら辺全く気にしてない様子で「安宿でも、なんなら野宿でも構わんが」などと言って領主の使いを困らせていた。
今まで明確に言葉にしなかったが、俺が賢者だとハッキリ名言したせいでレルム達の態度が変わる……ことはなかった。
賢者が何かを知らないからかと思いきや、アネスタ辺境伯が布教活動してたからおおよそ知ってるとの返事が。何の布教活動かは聞かないでおく。
まぁ、アネスタでは色んなところにバレてるし、街の人の態度から俺が特別な称号を持っているとレルム達も薄々勘づいていたみたいだ。この感じだとアネスタ残留組にも知られてるっぽい。
ついでに、転生者だってこともバレてた。その上で今まで通り接してくれてたのか……嬉しい。嬉しすぎて涙が出そう。
「だって、にいにはにいにだもん!」
「別の人の記憶を持ってても、どれほど特別な存在でも、僕の兄さんに変わりないから」
「お兄ちゃんが凄いのは分かりきってたことだしね!」
「称号とか、そんなの関係ない。あたし達のフィード兄に変わりないもん」
俺の涙腺に特大の攻撃を仕掛けたレルム達をむぎゅっと抱き締める。優しい家族に恵まれて幸せだ。
領主の屋敷では、領主がすんごい平身低頭でちょっと困った。俺とルファウスと何故かセレーナを見てなんだか胃を痛めそうな顔をしていたが大丈夫だろうか。
ところでレイン、悪どい笑顔で何やらメモ帳に書き込んでいるが何を企んでいる?
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