第26話、グレイルと魔力眼
「グレイル様!そりゃないぜ!」
「ノンバード族の、しかもこんなヒヨコが魔物を倒せる訳ないっすよ!」
「いくらグレイル様でもねぇ……」
護衛は虎獣人の証言を信じられない様子。
だが虎獣人が柔和な笑みはそのままにほんのりと威圧感を醸し出したことで状況が変わる。
「おやおや……私の“眼”が信じられないと?」
不快だと言わんばかりに尻尾がゆらりと揺れる。
たったそれだけで冒険者が畏まった。
「……っ、いえ!滅相もない!」
「では、後処理の手伝いを。早く終わらせないと他の魔物が寄ってくるからね」
俺が倒したとは丸っきり信じてない顔だが虎獣人の言葉に従う冒険者達。
このグレイルっていう爺さん、それなりに偉い人なんだな。
「すまないね。少しばかり教育が足りてなくて」
「いえ。誰だって信じないと思いますよ。こんな子供が倒したなんて」
「それだけじゃないよ。差別意識があるせいで視野が狭くなっている。嘆かわしいことだ」
「確かに視野が狭いのは悪い傾向ですね。でも初めて真っ向から差別されたので新鮮でした」
うむうむと一人頷いていると、グレイルが目を瞬かせた。
「……怒ったりしないのかい?」
「何故怒る必要が?新鮮で面白かったですけど。でもどうせなら喧嘩売ってくれれば手っ取り早く実力を示せたんですがね」
「ふ、ははは!そうか、面白いか」
俺の発言に声を上げて笑うグレイル。
何がそんなに楽しいのか。
魔石を取り出して後処理を終わらせ、お礼も兼ねて一緒にアネスタに行くことになった。
本来ならウルティア領まで行商に行くはずだったが予想以上に魔物が多いため一度引き返してから出直そうとしたところでオークの集団に当たってしまったらしい。
いつもならもっと強い冒険者を護衛に雇うが、ここは比較的弱い魔物しか出ないので敢えて若手の冒険者を雇って経験を積ませる腹積もりだったとのこと。
「魔石はどうする?見たところ手ぶらのようだが」
「収納魔法に入れてるので」
言うが早いか、ヒヨコの手を翳した途端に消える魔石。
冒険者達は目玉が飛び出そうなほど驚愕し、グレイルも目を見張る。
「なっ!収納魔法だと!?」
「あの伝説の魔法を……嘘でしょ……」
「ほぉ……」
やっぱりこの世界では伝説扱いのようだ。
前世だと誰もが普通に使ってたから調子狂うな。
再びオークに囲まれないうちにと馬車に乗り込む。
「私はグレイル。しがない商人だ。改めて礼を言うよ」
「俺はフィードです。お気になさらず。たまたま通りかかっただけですので。あ、このスライムはブルーです」
みにょーんと縦に伸び、直角90度に曲げるブルー。お辞儀のつもりだろうか。
「ははっ!連れの子もなかなか個性的だな。スライムに意思が宿るなんて見たことも聞いたこともないが」
「特殊な個体なんでしょうね。ところで、さっき眼がどうとか言ってましたけど……」
「私は他人の魔力が視えるのだよ。魔力の動きや質、量などがね。俗に魔力眼という」
「魔力眼、ですか」
前世では聞いたことのない単語だ。
この世界特有のものかな。
「ちなみに、フィード君がずっと広範囲に薄く魔力を広げているのも気付いてるよ。とんでもない魔力量だね。探知魔法かな?これほど広範囲に広げられるとは凄いね。高ランク冒険者でもなかなかいないよ」
「ありがとうございます。前世ではこれくらい当たり前だったので、褒められても違和感しか感じませんけど」
「前世の記憶持ちか。納得したよ」
子供でありながら、魔力がないと言われているノンバード族でありながら魔法を使えることに合点がいったようだ。
転生する際、記憶の他に魔力も引き継げると知っていたからだろう。
尚、魔力がないのではなく生まれつき魔力が封じられているだけだと説明する。
誤解はきっちり訂正しておかねば。
「なるほど。ノンバード族に会う度に、魔力が宿らないはずなのにうっすら漏れていたから疑問に思っていたのだが、そういうことか」
魔力の血栓から漏れ出たのを視たのだろう。そしてやはり魔力の血栓の抜き方は知られていないっぽい。
こりゃ本格的に血栓の抜き方を広めないと、差別意識はなくなりそうにないな。
その後も何度か魔物と遭遇したがオーク単体がちらほら現れるだけだったので護衛が難なく対処した。
「やけにオークが多いな……いつもの三倍は遭遇してる」
少し険しい表情のグレイル。
探知魔法には結構な数のオークの反応があり、確かにこれは異常だ。
「グレイルさん。前方300メートル先にオーク200体の反応があります」
「200だと……迂回は?」
「無理ですね。気付かれてます」
予想通り、オークの集落ができていたか。
やはりこれは殲滅するしかないな。
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