第27話、ヒヨコVSオークキング

 囲まれて身動きが取れなくなる前にとオークの集落から距離を置いて馬車を止める。



 オーク200体と聞いて絶望的な顔をする冒険者達。


「そんな……」


「もう無理だ……俺ら死ぬんだ……」


「に、逃げれないの……?」


「無理だな。あと2、3分で遭遇するぞ」


 逃亡不可能と知り絶望の色が深くなる。

 俺の探知魔法で度々魔物の接近を知らせていたのですんなり信じてもらえた。ブルーにも魔物の探知を頼んでいるが、続々と現れる魔物を警戒して常時探知魔法を発動しっぱなしである。

 最初のうちは差別意識からかなかなか信じてもらえなかったが、ドンピシャで魔物の種類と数を言い当てていくうちに少しずつ索敵は任せられた。

 その影響なのか、思ったより早く差別意識特有の負の感情を向けられる頻度は減った。この調子でどんどん差別をなくしていこう。


 ブルーとグレイルを馬車に残して外に出る。

 念のため馬車全体を覆う結界を張っておく。


「そろそろだな」


 ぽつりと呟いてから暫し。

 木々の間から次々とオークが現れた。

 その数たるや、視界の暴力と言っていいほどだ。


「む、無理だ!逃げるぞ!」


「今逃げたら追われるぞ」


 逃げようとした冒険者に釘を刺す。


 若手の冒険者って言ってたな……じゃあこのオークの群れは荷が重いか。

 無理に戦わせても足手まといにしかならない。


「結界の中にいろ。俺が殲滅する」


「なっ!?ヒヨコだけに任せるなんてできるか!」


「時間が惜しい。つべこべ言わずさっさと入れ」


 3人の冒険者を問答無用で結界の中に蹴り入れる。

 結界から出てこれないように細工しつつオークの群れと対峙した。


 気味の悪い雄叫びと同時に一斉に襲いかかってくるオークの群れ。

 手始めに水の刃を放ち、最前列にいたオークの首を狩る。

 次いで風魔法で圧縮した空気弾を多数作り、後続のオークの頭を撃ち抜いた。

 これだけでも結構な数を葬ったはずなのにまだまだ湧いてくる。

 どうせ湧いてくるなら素材を採れる魔物にしろよと文句を言いたくなってくる数だ。


 もうめんどくさい。一瞬で終わらせよう。


 結界を張った馬車から離れ、オークの群れに単身突っ込む。

 馬車の方からなんか叫び声が聞こえてくるがスルー。

 ぴょーんっと飛び上がり、オークの群れの中心までいくと魔法を発動した。


 カッ!と閃光が迸り、次の瞬間には大爆発を起こした。

 自身を結界で守りながら発動したので自分の魔法に自分もかかるという間抜けな事態にはなっていない。

 特殊仕様な結界なので熱も感じない。


 もくもくと漂う煙を風魔法で吹き飛ばすと、周りの状況がよく見えた。


 俺がいる爆発の中心地と結界に守られている馬車以外はかなり悲惨なことになっていた。

 木々は吹き飛び、緑は黒焦げ、火が移って燃え盛っているところもある。消火活動は忘れない。

 森の一角を焼け野原にしてしまったが、山火事にはならなかったんだからセーフだろう。


「うむ、ちゃんと爆散したな」


 地面にはオークの死骸が積み上がっている。一匹残らず討伐できたようだ。

 満足げに頷き、討伐完了したことを伝えに馬車の方へ歩いていると、突如背後から殺意が突き刺さった。


 頭で考えるより先に身体が動いた。

 反射で飛び上がる。と、同時にたった今自分がいた場所を何かが通り過ぎた。


 それは剣だった。鈍色に輝く銀とも灰ともつかぬ色の刀身が横凪ぎされた直後のままそいつの動きは止まっている。


 が、それもほんの数瞬のこと。


 渾身の一撃を避けられて怒っている様子。だが爆発の影響でところどころ血を流してるので動きが鈍い。


「オークキングか」


 さっき探知魔法でオークの群れの中に変な反応があると思ったらオークキングだったのか。

 オークと似た反応だったし、オークの親戚なら素材にならないから纏めて吹っ飛ばそうとしたのだが……


 オークキングの持つ剣に思わず熱い視線を送ってしまう。


 オークもオークキングも使い道はない。

 だがあの剣だけは価値がある。


 たまに現れるオークキングだが、武器を持った個体は滅多に現れないのだ。

 武器なしの個体なら価値は半減どころか皆無に等しいが、自前の武器を持った個体はなかなかレアだ。

 その武器もかなり頑丈で、武器として使っても長持ちするし、売ったらかなりの金額になること間違いなし。

 魔物に関する常識は前世とそう変わらないはず。


 よし、殺るか。


 水と風の刃を挟み撃ちするように同時に放つ。

 攻撃は両方ヒットしたが、そこはやはり手負いでもオークキング。一撃では倒せなかった。


 オークキングが距離を縮め、怒り任せに剣を振るう。

 剣筋を見切って避けた。


 目眩ましでもするつもりなのか、剣で地面を抉って砂煙を上げるオークキング。

 砂煙が舞い踊る中姿を眩まし、突如高速で俺の周りを移動する。不規則に動くそれは徐々に近付き……


「そこか!」


 探知魔法で始めから分かっていたオークキングのいる場所の方に振り向き、降り注ぐ剣を白羽取りする。

 驚いたオークキングをものともせずに白羽取りした剣の軌道を変えてオークキングの首を狩り取った。


 首と胴体が離れ、どさっと落ちる。

 オークキングが握っていた剣からするりと手が放されたことで終幕を告げる。


 ふぅ……終わった。


 オークキングの持っていた剣を一撫でし、表情が緩む。

 当面はこれを売った金で食い扶持を繋ぐかな。


 オークキングの剣を収納魔法にしまい、オークの死骸の山を避けて馬車へと戻ると、唖然とした冒険者達が出迎えてくれた。


「おーい、終わったぞ」


「………………」


 結界を解いて声をかけるも、反応がない。


「おーい、大丈夫か?」


「……大丈夫じゃない……」


 やっと反応が返ってきた。

 大丈夫じゃないって、まさか攻撃の余波がこっちまで来たのか?結界はちゃんと作動してたし、見たところ怪我もなさそうだが……


「ヒヨコがオークの群れとオークキングを討伐した夢を見た……」


「夢じゃないぞ」


 現実だ。


 見せつけるように魔物の死骸の山を指差すと、今度は頭を抱えた。


「ヒヨコが爆発した……ヒヨコが……ヒヨコがぁぁ……」


「複数の魔法を同時に……しかもあんな正確に……王宮魔導師でも片手で数える程度しかそんなことできないわよ……!」


「こんな広範囲を焼け野原に……頭おかしい……」


 何故だか異常者を見る目で凝視されたが、まぁいいだろう。

 これで多少なりともノンバード族イコール最弱の図式は崩せたはずだ。


 冒険者達を通り越して馬車の扉を開けたらブルーが飛び掛かってきた。


「おっと……ブルー?」


 すりすりすりすり。

 滅茶苦茶高速で頬擦りされる。摩擦で少し痛いくらい。

 どうやら心配させてしまったようだ。


「ああ、良かった。無事だね」


 どこかホッとした顔のグレイルが視界に入る。

 グレイルにも心配かけたようだ。


 ブルーを宥めてから改めて死骸の山を見て、思わず遠い目をしてしまう。

 これの後処理は大変だな……


 前世の人間の肉体ならまだしも、今はヒヨコ。この大量の肉塊を埋めるなんて鬼畜もいいところだ。

 冒険者達に手伝ってもらってもどれだけ時間がかかるか……


 俺の思考を読み取ったのかグレイルが先回りして答えてくれた。


「一先ず魔石だけ回収してこのままにしておこうか。急げば今日中にもアネスタに着くし、兵士に事情を話して片付けてもらおう」


 おお、それは良かった。

 馬車なら予定より早く到着すると思っていたが、まさか今日中とは。

 おまけに面倒な後処理は兵士に丸投げしてしまえと。その手があったか。


「じゃあ魔石回収するので少し待ってて下さい」


 馬車から降り、魔石を回収しようとしたところで冒険者達が復活した。


「とりあえず、お前が異常なのは分かった。分かりたくないけど嫌でも分かった」


「ノンバード族は最弱なんかじゃなかったってことねぇ。貴方だけが特異なのか他のノンバード族もそうかは知らないけど、少なくとも貴方は強いわ。ええ、よーく理解したわ」


「その、態度悪くてすまんかった。これからはノンバード族だからって差別しないようにする。だから武力の矛先を俺らに向けるのは止めてくれ、頼む」


 目の前の3人だけでも差別意識を塗り替えることに成功して嬉しい限りだ。

 だが、何故怯えているのだろう。謎だ。


 その後、冒険者達の手も借りて全ての魔石を回収し、急いでアネスタへと向かったのだった。


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