第5話 多摩の浦サマーナイト
「ありがとう、ございました」
歌謡界の盗塁王、
その瞬間、二曲目のイントロが始まった。激しいドラムのリズムが響き、さすが盗塁王と称される地面である、お馴染みの反復横跳びダンスを披露する。地面のダンスに合わせ一万人、いや二万人を超えるであろう観客が、あらゆる意味で盗塁王と言わざるを得ないような反復横跳びダンスを踊り出す。現在、西は三鷹から東は吉祥寺まで、おおむね銀河全域で大ヒットしている新曲「多摩の浦サマーナイト」の始まりだ。
その時だった。突然、白と黒の服装に身を包んだねずみのような集団が一斉に会場に押し寄せ、観客たちを襲撃しはじめた。ねずみは数え切れないほど大勢いるようだ。暗闇に紛れて事前に会場を取り囲み襲いかかる機会をうかがっていたのだ。「多摩の浦サマーナイト」の激しいドラムのリズム、観衆のダンス、この大音量と動きに紛れて会場に飛び込んで来たのである。
控室の椅子に座り、会場の様子をモニターで観ていたモグラのはったんは
「ニッキーだ!ニッキーねずみたちだ!」
叫びながらはったんは会場へと走った。まさかリハーサルの情報までニッキーたちが掴んでいるとは。この機に襲撃を仕掛けてくるとは。はったんはスタッフに大声で「逃げろ」と叫びながら会場のステージに向かい走った。
多くの観衆が逃げ惑うなか、悪のニッキーねずみらに捕まえられす巻にされている者もいる。すでに井の頭池に浮かぶ老人の姿も見える。はったんはマイクを取り叫んだ。
「みなさん、逃げて下さい。極悪銀河団のニッキーねずみたちが襲って来ています!」
そう言い終え、ふとステージに目を落とすと、恐怖にうんこを漏らして気を失い倒れている地面三郎の姿があった。うんこをちびっているだけではない。地面三郎は震えが止まらず、なおかつうんこの漏れも止まらないのだ。出続け流れ続けていたのだ。ニッキーねずみたちはステージに達しようとしていた。ステージの端に手を掛けるニッキーねずみ。端から垂れる三郎のうんこ。
ニッキーねずみらは三郎のうんこが手に触れると声を上げ後ずさりした。ニッキーねずみたちはうんこを殊更恐れ、手に着いたうんこを払い拭おうと混乱しているようだった。ステージから流れ落ち続けているためニッキーたちはステージには上れない。そこでモグラのはったんは自らもうんこをひねり出してみた。そしてそれをステージに迫るニッキーねずみに向け投げつけた。ねずみは「キィー」と声を出して一目散にステージから走って逃げていった。
客席ではまだニッキーねずみたちの襲撃が続いていた。老人から子どもまで男女かまわず次々に観客をす巻にしては井の頭池に放り込んでいる。はったんはステージに広がるうんこを手に取り、客席に向って投げた。
「クソ野郎!」
はったんは客席に向って叫んだ。
ニッキーたちはそれが生死に関わることであるかのように逃げ惑い始め、次第に会場から姿を消していった。
会場に集った市民も井の頭公園もクソまみれになったが、はったんの機転で被害は最小限に抑えられた。
井の頭池に投げ込まれた客たちもクソまみれになりはしたが救出された。地面三郎はまだ漏らし続けていたが救急車で運ばれて行った。
(続く)
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