第2話 訓練計画表を作ろう!




 誕生日の翌日、朝ご飯を食べてサダールじいちゃんに沢山甘やかされた後、プレゼントで貰った文房具をテーブルの上にひろげていた。


 僕は使用人の皆から英才教育を受けているんです。文字の書き方や簡単な算術など、手が空いてれば交代制で教えてくれるんですよ。

 前はちょっと休みたい時もあったけど、歴史のお勉強をさせられた時に教えてもらったんだ。世の中には恵まれない人達がいるんだって⋯⋯悲しいお話でした。だから僕は本当に恵まれた環境の中にいるんだと思う。


 勉強はあんまり好きじゃないよ。でも頑張らなきゃって思ったんだ。それに立派な冒険者になるためには、沢山覚えなきゃ駄目なんだって⋯⋯だから勉強は寝ないように頑張っています。


 意外にも勉学に一番秀でてるのがクライブおじさんだった。

 昔は鍛冶師ギルドの職人兼会計士をやっていたらしい。半分算数の先生だね。


 ミト姉さんはいつも優雅にお茶を入れるんだ。だけどミト姉さんは自分の過去を語らない。今より小さかった頃の僕の話はしてくれるんだけど、自分のことは話さないんです。不思議で謎でみすてりあす!


 サダールじいちゃんは、生まれた時からずっとこの御屋敷で働いているんだってさ。サダールじいちゃんには子供がいて孫もいます。会ったことはないんだけど、子供は王都で暮らしてるらしい。孫は僕よりも五つ年上で、今八歳なんだとか。

 長い休暇が出来るとこの町に遊びに来るらしく、それに合わせて暇をもらったりしているみたい。

 流石にこの屋敷に家族を入れるわけにはいかないから、町で遊んであげたりするんだって。サダールじいちゃんは息子の長期休暇を楽しみにしているよ。


 おっと! 集中しなくちゃね! 閑話休題です。


 今日僕が考えたかったのは、どんなスキルから取得していくか、そのためには何から訓練するか予定を考える事。

 アレク父様とスフィア母様のように、剣も魔法も出来るようになりたいと思う。そして僕は色んな世界を旅したいんだ。


 まずは走り込みかな? それが一番大事だと思う。スキル的にも体力的にもね。


 目を閉じて【恩恵の手引書】に意識を集中した。凄まじい情報量に目がチカチカする。あわわ⋯⋯


 初級の剣術スキルを手に入れるには、八百時間以上剣に触れ二万回の素振りが必要⋯⋯これは計画的にコツコツ積み重ねれば、二ヶ月くらいで形になる。やるしかない!


 だけど魔法はそう上手くはいかないみたいだね。

 例えば火の魔法を覚えたい場合、魔力感知スキルと魔力操作スキルが無ければイメージの練習をしても何も意味がないみたいなんだ。全部出来るようになるには一年以上かかる?


 魔力操作スキルを得るにも、魔力感知スキルが無いと練習する事すら出来ないらしい⋯⋯魔法はまず魔力を感知するところから始まるようだね。大変だなぁ。


 魔力感知スキルを得るには、魔力の濃い場所に千時間いなきゃいけない。でも魔力の濃い場所って何処にあるんだろう?


 洗濯物を抱えたミト姉さんが、僕のいるテーブルの前を横切った。ちょっと話を聞いてみようかな。


「ミト姉さん」


「どうしたの? アークちゃん」


「魔力の濃い場所って何処にありますか?」


「んー、魔力の濃い場所ねぇ。迷宮の中に入れば間違いないらしいんだけど、一般人にはとても危険な所なのよね。でもどうして?」


「危険な場所なんですか⋯⋯訓練したかったのですが無理そうですね。残念です⋯⋯」


 魔法はしばらくお預けかな? 迷宮なんて行けるわけがないし、もし魔物に襲われたら危ないからね。


「あ、すぐ近くにも魔力の濃い場所があったわね! 身近すぎて忘れていたわ! しかも安全安心よ」


 落としてから上げる。流石ミト姉さんだ!


「それは何処でしょうか!?」


「この屋敷のボイラー室よ。結構な量の魔石を砕いて使ってるから、その近くは魔力が充満しているの。クライブさんに頼めば中に入れてくれると思うわ。」


「ボイラー室ですね! ありがとうございます!」


「ふふ。頑張ってね」


「ミト姉さんもお仕事頑張ってね」


「ありがとう」


 軽く手を振ってミト姉さんを見送った。仕事の途中で声をかけてすいません。


 確かミト姉さんは生活魔法が使えたと思う。という事は、魔力感知も魔力操作も習得しているんだろうね。


 これなら短い期間で魔法も使えるようになりそう。訓練は色々大変そうだけど、ちょっと顔がニヤけてきちゃった。





「かんせーい! 僕の訓練計画表!」


 スキルの習得条件を【恩恵の手引書】で調べながら、効率的で無理のない計画表が完成した。

 無理がないとは言っても、結構ハードスケジュールなんだよね。僕にはなりたいものがある。だからきっと頑張れる! と思う⋯⋯


 五時に起床して準備運動をしてから、ヘロヘロになるまで全力ダッシュを十本。少し休憩してから八時の朝食まで剣の素振り。


 朝食後、ボイラー室で魔力を浴びながら短剣の突き練習。疲れてきたらボイラー室で算術と地理のお勉強。


 十一時半からミト姉さんの料理のお手伝いをして、昼食を食べたらミト姉さんと一時間お昼寝をする。


 起きたら灰色のデブ猫ちゃん探しだね。名前はクレアというらしい。近所でよく見かける猫で、僕のスキル習得に協力してもらう。


 デブ猫探しで探索スキルと気配察知スキルを狙い、その後尾行と隠密のスキルも狙う。一石四鳥だ。何処までも追いかけて痩せさせてあげる。ふふふ。


 十五時になったらサダールじいちゃんを探してお菓子をもらう。お菓子食べないと元気出ないんだよ。だからこのスケジュールは外せません。


 その後はまたヘロヘロになるまで全力ダッシュを十本。きっと凄く大変だろう⋯⋯


 帰ったらボイラー室で絵本を読んだりしようかな。小賢しい三匹のオークを狼の毛皮を被った狩人が追い詰めるお話があるんだよ。決めゼリフはオーク即斬! 我ら狩人新鮮組! ってやつなんだ。昔勇者様が書いたお話みたいなんだけど、小賢しいオークはレンガの家に逃げ込んじゃうんだよね。ハラハラドキドキのお話なんだよ? 鮮度が命だから!

 あとは絵を描いたり体術スキルの練習をしたりしようかな。


 夕食後は、その日の事を父様と母様に報告だね。剣術や魔法を見せてもらうのも良いかもしれない。


 お風呂はローテーションで誰かと一緒に入る。使用人は御領主様一家が入った後に利用する事になるので、少し遅めの時間帯だ。

 就寝前には、ベッドの中で父様と母様の冒険の話を聞きながら、遅くとも二十二時には夢の国へ。


 うん、なかなか上手く書けたんじゃないかな? 後で皆に見てもらおう。





 今日の夕飯は、ニョッキの入ったミルクシチューと、サラダと茹で鳥をコーン生地の薄焼きパンで包んだ料理だった。


 とても良い匂いがする。湯気が立つシチューからは、バターとミルクの香り⋯⋯それに少しの黒胡椒の混ざっていた。

 お腹が空いたよ。早く食べたいなぁ。



 皆で神様にお祈りをすると、僕は早速パンを頬張った。シャキシャキとした歯ごたえに、チェダーチーズのコクがマッチしていた。

 料理は基本的にミト姉さんが作るんだ。この美味しさは料理スキルを持ってるよね。僕も料理を作れるようになりたいな。


「今日はキース君がとうとう剣術スキルを授かったんだ。彼は大物になるぞ。将来有望だ」


 父様が嬉しそうに皆に話しをしている。息子が剣術スキルを覚えた事で、領主様からとても褒められたそうだ。

 確か領主様の息子は、僕より四歳年上だったかな? 僕も明日から頑張らなきゃね!


「これアレク! 領主様の息子に君はないじゃろう。キース様と呼ばんかい」


 サダールじいちゃんが父様を軽く叱る。キース様はガルフリー家の次期領主様なんだ。剣術の先生を任されていたとしても、キース君なんて呼び方はしちゃいけないらしい。

 そんな事を言いつつも、サダールじいちゃんの顔は嬉しそうだ。めでたい報告の後だから、言い方も優しかったよね。父様は苦笑いで頭を下げる。


「こっちはちょっと大変ね。どうもキース様は魔法のイメージが苦手なようで、生活魔法の浄化が上手く発動しないわ」


「得手不得手はあるもんさ。学園入りするまでには初級剣術スキルをレベル4にしたいな。勉強との両立だが、キース様なら何とかなるだろう。剣技さえ覚えれば、学園の戦闘実習も楽になるだろうしな」


 どうしよう⋯⋯キース様の話題でもちきりだよ。僕の訓練計画表を見て欲しかったんだけど、また今度見せようかな。


 訓練は明日からだ。頑張るぞー!




 後日談。


 僕が寝た後、訓練計画表は皆に見つかっていたらしい。別に隠したわけじゃないからね。

 皆微笑ましく計画表を眺めていたそうなんだけど、自分の名前だけ計画表に書かれてなかった事に、クライブおじさんがショックを受けていたそうです。



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