第15話 終末の日常④ マクブラストの受難

警神庁・捜査一課神長『マクバラスト』通称マックは自分自神の脳裏世界に御姿を具現化させ、空間に映像を浮かべてなにやら作業をしている。


彼神かれは、紫色の緩やかな巻き毛になった髪をかきあげ、顔立ちは美男神で高身長、今は真剣な顔つきで作業に没頭し、マッチョな体型を駆使して素早く的確に業務を遂行していった。


(ハーもう嫌だ。帰りたいぜ。)


今までさんざんお互いに神念話で交信しあった内容に沿って、脳裏内で同時撮影した映像画像を場面事に空間に浮かべ、指で方向を支持し重要、最重要、機密事項と3段階で映像整理しながら、これからの事態をかんがみて、溜息を付いた。


その話し合っていた相手とは、漆黒の翼を持つ女神であった。


女神かのじょは、彼神かれの忙しさとは対照的に、彼神かれの脳裏空間を女神かのじょが勝手にいじくり回し完成させた神花と泉と木々が広がる庭園空間に、


優雅な机に腕を落ち着け、優雅な椅子に腰掛け、優雅に神紅茶をゆったりと飲み寛いで、まったりとした自然空間に溶け込みながら、充実した休息を満喫しているようだった。


その女神かのじょの肩には綺麗な鳴き声で鳴く優雅な銀色の小さな神鳥が止まっている。


(それで、勿論協力してもらえるのよね)

(これで、また昇進間違い無しね)

(次は部神長かしら)

(またしばらく会えるかどうかわからないから、先にお礼言っておくわね)

(おめでとう。マクバラスト部神長)


優雅に神紅茶を手に取っている女神かのじょ様は、漆黒の翼を優雅に羽ばたかせてマックを神念話と翼で脅していた。


(相変わらず、話聞かない奴だな。このストーカー女神やろうはよ)

(勝手に話を進めんなよ。俺はまだ受けるとも受けないとも返事してねーぞ)


マックは、映像整理しながら、悪態を吐き女神かのじょを扱き下ろした神念話を送る。


(あらっ話を聞いてなかったの。聞いたからにはもう貴神あなたは関係者よ。)

(受ける受けないはもう問題じゃないわ。)

(マクバラスト課神長。早く動かないと昇進に響くわよ。)


女神かのじょは翼を大きく羽ばたかせて早く動くように促していた。


(最後に確認だ。こちとら、上司の判断を仰がなきゃ何ねーだからな)


作業を止めたマックは、鋭い眼光で射抜くように女神かのじょを見つめながら、女神かのじょに神念話で問いかけた。


2柱は、再びお互いの情報を出し合い、最終的に導き出された解決策だと思われる計画についての最終確認をお互い神念話を神速の勢いで飛ばし合い情報のやり取りを進めていく。


(あいつ、もう駄目なのか)


ほんと、あいつ、可哀想な奴だな。


(あの子はこちらでなんとかするわ。)


なんとかってなんだよ。言えよ。お前やばい奴なんだから、ちゃんと説明しとけ。


お前が神罪犯したら、俺にお鉢が回ってくるからよ。俺、お前には絶対に勝てないから、


そうなったら逃げるから、後宜しくだぜ。


マックは、いつも災難を一身に背負う台風の目に哀悼の意を浮かべ、それでも、俺に迷惑を掛けなければ、放置する気満々だった。


(あの子が消滅したら、何処にあれが行くかわからないから、消滅はさせないわ。)


あれを持つ彼女神あの子は、神霊界から、もうほとほと愛想を尽かされ、見放され、放置され、放置されても尚障害となり、困った神霊界側は、同盟関係の天神界に泣きつき、なんとか引き取ってもらったという経緯がある。


正直もらった天神界側も対応に困り果てていたのだが、彼女神あの子が希望の鍵を創造したことによって、彼女神あの子の待遇は徐々に改善されつつあった。


だが、やはり彼女神あの子は、自神の与えられた役割から、抜け出せない運命であるらしい。


ほっ良かったぞ俺。助かったぞ俺。神を消滅させたら神罪案件確定だからな。あーよかった。


お前と争ったら間違いなく廃神確実だからな。俺安心した。


んっ!!ということは、つまり・・・・


マックが言ったように天神界では、神の抹消、神を消滅させる罪は神罰に問われる。


最高神の神眼が犯行現場を捉えたならば、その場で裁きの雷が天から下り躊躇なく神罰が断行される。


ただ、神の中には、神罰を受けても神罰の攻撃自体を無効化する程の御力の強い神も当然いた。


その場合には、事態が複雑化し、混迷をさらに極めていく事になるのだ。



(おいおい。あいつ、廃神はいしんにすんのか。相変わらず、お前怖いね。)


あいつとは、またいつか会えるだろ。せいぜい1000年程廃神神殿でしっかり祀られてろ。


先程からの神念話のやりとりから、マックは、結論を導き出した答えを神念話で相手に飛ばした。


マックは、自分自神に被害がなければ、例え我が身の創造神であろうとも、平気で見捨てる御心の持ち主であった。


非情な神、まさにここに極まりである。


(それで、この場所が戦場になるんだったか。)


俺腹痛くなったから、今日早退するわ。う・うごけ・・ない・糞、俺を拘束しやがった。


警察神を拘束するなんて、お前ほんとに女神かよ。悪魔の間違いじゃねーのか。


はーー、たくっ超神連中は何が目的なんだよ。こっちには、何もわかんねーだよ。


ちゃんと情報の現ナマ持ってから出直してきやがれってんだ。


俺、警察神なんだぜ。工作神じゃないだぞ。そこんとこ宜しくだぜ。


たしかにマックは警察神なのだが、いままで散々彼女神かのじょにこき使われ、天神界側からは、期待の若手工作警察神として注目を集めていた。


マックは、実力以上に過大な期待を掛けられたが、その期待を彼女神かのじょにこき使われる事で、その期待に何度も答え続け、今のこの地位まで上り詰めたのである。


(そうよ。もう始まってるかもね。そしてここが最終地点のゴールになるわね。)


そして俺はこいつにこき使われるのが、これで確定しちまったよ。この糞ストーカー野郎め。


超神界を神霊界は、神界戦争が勃発している。


戦場が拡大し、ここ天神界も巻き込んでいく様相となってきたのだ。


今回の事態は、超神界の破壊工作活動の一環と神霊界側は、捉えている。


逆に神霊界側は、これを大々的に宣伝し、天神界世論を煽って引きずり込んでしまおうという計画が進行中であった。


(超神界の奴ら、俺らも戦争に巻き込む気かよ。)


俺、戦争とか争いとかよー本当は苦手なんだぜ。そんな俺がこんな出世していいのか。間違ってねーよね。


ここで戦闘行為始まったら、俺、ケツ膜って逃げるけど、いいよな。俺やるよ。やっちゃうよ。


そんで、お前からも見つかんねー場所に高飛びしてやるからな。俺の本気を見してやるぜ。


マックはいままで、散々逃走しようと試みたが、逃げだしても一瞬の内に捕まり、その後は女神に散々な目にあい、その出来事があった後からは、より大きな厄介事に巻き込まれるようになり、女神には背後霊のように、毎回付きまとわれるようになってしまった。


でも、それでもいつかは、大空を高く羽ばたくように奴から絶対に逃げてやると、御心に固く誓うマックであった。


(俺はお前の駒として、天神界との橋渡し役に仰せられるってことかよ。)


お前と俺たちの最高神は、相性最悪に悪いから、俺に仲裁しろってことだろ。


だいたい、お前と最高神が仲が悪いのは、お前が原因だろ。俺に押し付けんじゃねーよ。


俺、警察神だって言ってんだろ。なんで俺様がお前と最高神の仲を取り持たなきゃなんねーだよ。


それから、俺をヒーローに仕立て上げんじゃねー。


実際には、何度もお互いの仲裁役になって事態を解決に導いているマクバラストなのであった。


その功績もあり、マックは出来れば生涯出来れは逢いたくない存在のだが、彼神かれが頼めば最高神様に御目通りが叶う神物として、いつの間にか、本神の希望を余所にして、そうなってしまっていた。


(どうして奴ら、そんなに強気なんだ。奴ら天神界と神霊界と同時に対処するほど強くねーだろ。)


確かに奴らは、強い御力を備えた神々だが、自惚れたのか。そんなことで、ここまでするのかよ。


なんでもいいから情報寄越せ。俺は、上司に気に入られてんだよ。ちゃんと胡麻すりたいだよ。


胡麻スリスリしてーんだ。部長ともっとスリスリしてえだよ。部長はお前と違って優しいからな。


マックと部長神は、今はラブラブである。社内恋愛のドキドキとしたお互い秘密の関係であった。


毎回、お互いに尾行を巻いて2柱で逢う瞬間が堪らなく戦慄的スリリング熱い恋の映画ラブロマンスのように燃え上がっていた。


(私もよく聞いてないから、わからないのよね。ごめんなさいね。マクバラスト。)


そう神念話がマックに届くと女神は申し訳なさそうな態度をとり、目線を下に下げて同情を引こうとしているがお顔はうすら笑みの浮かべていた。


また、お得意のムカつく笑みかよ。それする時、お前だいたい神をおちょくってんだぞ。


何回もおちょくられた俺が断言するぜ。いつかぜってー被害者の会立ち上げてやるぞ。


被害者の会の会長は最高神様になっていただくからな。覚悟しとけよ。


(上司に説明しなきゃなんねーんだよ。お前の嘘は下手なんだよ。わかってる事は全て吐けよな。)


お前の言葉に俺の昇進がかかってるんだ。シャキシャキ喋っちまえよ。


そして、俺は部長とぶちゅーっとな。俺の神生活がかかってるんだ。早くゲロしろよ。ドバっとよ。


女神はちょっと不快なお顔をマックに見せた。


だが、すぐに表情を元のうすら笑みの浮かべた表情に戻した。


今の思念のやり取りから女神は近いうちに、地獄を味わってもらおうと御心に決めた。


女神は、マックと部長が恋仲なのも勿論知っていた。影から全部しっかりと見ていたから。


彼女の隠蔽能力を使えば動作もないことで、マックと部長にもまったく知られていない。


女神から見たら原始的な生殖行為も余すことなく、全て神眼の映像として神脳裏内に保存していた。


今の神念話に含まれていないマックの思考発言もすべて補足している。


今度は、どう料理すれば、美味しくなるのか考えながら、ひたすら胸を大きくときめかせていた。


(私は一介の秘書神よ。これは、私の与えられてる権限をこえてるわね。)


何が一介の秘書神だ。この神霊界の最終兵器やろーが、権限なんざ、今まで山ほどぶち破ってた癖に。


そんなに俺と部長がぶちゅっとするのが羨ましいのか。なんなら今度相手してやってもいいぞ。


やいてんだろ。お前。俺も男だ。来る者拒まずしっかり責任とってやるぜ。


女神は態度は全く変わらないが、内心ではそうではなく、どう料理すれば、美味しくなるのかを脳裏内で精力的に体験実験していた。


(だから、直接本神に聞いてくれないかしら。)

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えっ・・・お前なんていったんだ。そうだよな。お前ってばそう言う奴だった。今まで散々やられて来たのに、気づかない俺ってなんて馬鹿なんだろう。


お前の肩に乗ってる鳥の色に妙に覚えがあったんだよな。気づいていりゃ、他の奴に無理矢理おしつけたのによ。


マックは、女神かのじょの肩に乗っている優雅な銀色の小さな神鳥を凝視した。


全てが銀色で染めた体毛を煌めかせ、孔雀の尻尾のような長い銀色尾を揺らしている神鳥も、じっとマックを凝視していた。


お互いが凝視し合う中でマックは、己の背中から冷や汗が、滝のように流れ下たれる感触を感じ続けていて、緊張の面持ちをしながらその感触をじっくり味わっていた。


女神はこれで、重荷を一つ外せたことで、気分が開放されたのか、うすら笑いが強くにじみ出ていた。


(えっどういうことだ。なんか、すげーー冷や汗かいてるんだけど、まさかだよなー。頼むよ)


もう。わかっちまったよ。お前、俺を見つめてるその気持ちわりー笑みを浮かべた顔そろそろ止めてくんねーか。


女神は彼神が気持ちわりーと思考した笑みをこれでもかとマックに見せつけていた。


(俺をそんなに虐めないでくれれーか。俺お前になんかしたかよ。なんもしてねーだろ。)


俺は、お前のおもちゃだってのは、わかってるけどよ、もっとおもちゃを大事にしろよな。


否、マックは気づいていないかもしれないが、女神は自神をちょっとしたことで傷つく純粋ナイーブな神だと思い込んでおり、実際は全然純粋ではないのだが、女神はマックの何気ない発言に何度も切れそうになり、そこで何度も我慢し続けている。


その小さな恨みも塵も積もれば山となるように、女神の脳裏世界の中には、マクバラスト断罪館が高くそびえ立ち、マクバラストに言葉で傷つけられると、そこでさまざまな実験が繰り返されている。


(降参しますから、ゆるしてくれませんか。たのんます。本当たのんますわ。)


おもちゃは壊れてもお前の御力ならすぐに元に戻るだろうが、俺の心は壊れたままなんだよ。


もう少し待遇改善を要求するぜ。そして、次はぜってー神身御供を用意してやる。


マックの思考を補足している女神は、彼神の待遇改善の抗議を速効却下、どう美味しく楽しく心を粉々に砕いてやろうかと脳裏世界のマクバラスト断罪館で実証実験を開始することを、たったいま即決即断した。


(すぐそこに私の部下が立ち尽くしてるから、彼女にちょっと細工してくるわね。)


くっそ~~。お前がそのお方から逃げ出すために俺を出しに使いやがったな。ちくしょ~~。


俺に世話を押し付けやがった。お前、秘書なら秘書らしくしやがれー。


そのお方の秘書じゃなかったのかよ。後このお美しいお方も連れて行ってくれよー


俺、さっきも言ったけどただの警察神なんだよ。外交問題さっぱりなんだよ。


脳裏世界のマクバラスト断罪館で以前からおこなっていた実証実験の一つをようやく形に出来た満足そうな女神様は、肩に乗っている銀神鳥とマックに最後の神念話を飛ばした。


(じゃあ、あとはよろしくお願いしますね。教皇神様)


そう神念話を神鳥にに送り、女神かのじょは漆黒の翼に包まれるとそのまま闇となってこの場からたち消えた。


残された神鳥は、ゆっくりと神霊の姿に形を変えていった。


その御姿を拝見したマックは、どんどん顔色が悪くなっていく。


ついでにお腹もギュルギュルと締め付けられるように痛み出していた。

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