第10話 裏側の日常 神能研究所 / マリティカの憤怒 / 神霊皇槍御船

『わたくしは本日この場において【転神の儀】を貴女神あなたに執り行おうと考えています』




この言葉が映像と共に瞬く間に天神界中を駆け巡り、天神界中に大激震が起こった。


ここ天神界神能研究所でも大混乱の大騒ぎが絶賛開催中である。


「うわーシャルちゃん。私を置いていかないでー」


「私達を見捨てないデー」


「今度一緒にシャルちゃん世界シャルちゃんワールドでドッジボール大会するって約束してたのに・・・・」


塵神ちりがみめ。糞の役にも立たない神が俺たちの崇高すうこうな研究の邪魔するなよ」


女性神達の悲鳴が鳴り響く。さらに男性神達の怒号も鳴り響いていた。


研究所の中央ホールで数多くの研究神達が仕事を放り出して、天神日輪放送サークル放送が配信した四次元映像を取り囲んで視聴していた。


彼神ら彼神女らの頭には神光の輪ゴッド・サークルがふわふわと浮かんでいる。


この光輪がある神が天神の神としてのあかしである。天神の神々は、光輪を用いた神能(御力)を得意としていた。


この研究所では、他の世界神達の神能を研究、新たな神能の開発研究、危険な神能の破壊など、神能に関わる研究を行っている。


この研究所は最高神直轄施設として、天神世界神政府が税銭から予算を拠出していた。


「ふぅっ初耳なんじゃが、どういうことかの」


白髪の細かく揺れるゆるふわ天然巻き髪に白い整った長顎髭に


頭に五本の大きさが違う光輪を浮かせた老神、


彼神も映像を見てかなり驚いているのだが、


落ち着いた仕草で髭を触りながらゆっくりと口にする。


彼神は長椅子に深く腰掛けながら、思考の海に漂っていた。


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儂らはシャルリアが最高神になれる器だとじゃ


腸が煮えくり返るほど非常に悔しいが仕様がないのじゃ。


だが、儂らは皆じゃ


今でも大きな論争が巻き起こっておるのじゃ。


わからんのじゃ。愚神霊は儂らの邪魔をして何がしたいんじゃ。


本当に愚神霊の宣言が神霊界の意思と受け取ってよいのじゃろうか。


神霊界の神々は何故、あの愚神霊を放置しておるのじゃ。


このままでは双方の争いが種がわんさか出てくるぞ。どうするつもりじゃ。


儂らをより上位神へといたる鍵になるかもしれん貴重な幼女神じゃ。


シャルリアは、神能力量・馬力・強度では他の幼女神や幼神とほとんど変わらんのじゃ。


じゃがのう、では、軽く最高神をも凌駕りょうがしておるのじゃ。


今は生後1年の生まれたばかりの赤ん坊じゃから、


下界からの信仰が全くないのは当然なのじゃが、


信仰が広まるにつれて、神能力量・馬力・強度も上がるじゃろうし、


いずれシャルリアが最高神になる道も開けてくるじゃろうて。


儂らもあの器の大きさの秘密が解明し我らがその力を持つことさえ叶えば、


我が天神界と同盟関係にある神霊界が他神世界よりも、


さらに上の位に上り詰め、神々の最高位世界として君臨することも、


夢や幻じゃなく間違いなく現実のものになるじゃろう。


天神界と神霊界にとってはのう、まさに未来を掴む鍵なのじゃが、


その鍵をみすみすどぶに捨てるわけにはいかないのじゃ。


まさか下界に追放するとは、天地がひっくり返ってもありえんじゃろう。


まさに寝耳に水じゃわい。話を聞いてもまだ誰も彼も信じておらんのじゃ。


愚神霊はまさに、天神界最高神の意に逆らう発言を、


天神界中の神々に向かい、さも当然であるかのように宣言したのじゃが、どうするつもりなんじゃ。


聖神霊教会は、神霊界の神々が布教活動が主な目的じゃが、


一つ大きな役割として神霊界の大使館的な役割も果しておるのじゃ。


愚神霊は、聖神霊教会の教会神じゃが、もし最高神が裁きをくだせば、


神霊界との外交的な軋轢あつれきが生まれるかもしれんのじゃ。


発表してしもうてはのう、今は兎にも角にも信じない訳にもいくまいて。


それにしても、シャルリアが全く反応していないのは、どうしてなのじゃ。


なにがあったのじゃ。気になるのう。


もしかりに、シャルリアの意思が封じられ、


意のままに操っておると知られればどうなることやら、儂にも予想がつかんのじゃ。


神霊界の連中もそのことがわからん訳では、あるまいにのう。


わからんのじゃ。全くのう。背景がわからんから、まったく議論にもならんのじゃ。


知ってる神に聞ければいいじゃが。


のう。


あやつの性格ならば、


儂らを監視しているはずじゃて。


隠れているじゃろ。


「そろそろ出てきて説明してくれんかの。のう、メグフェリーゼの分神霊よ」


「いるんじゃろ」


いまだ、大勢の神々の魂の叫びが飛び交う中、老神は、小さな声で呟いた。


(こんな大勢の前では、姿は見せられないわ)


メグフェリーゼの分神霊は御神体を現さないが、老神『ゲオラディアード』に神念話で答えた。


『ゲオラディアード』は神能研究所の所長神、つまりこの研究所の最高責任神。


メグフェリーゼは、老神がシャルリアに害を与えないか警戒監視対象として日々監視していた。


(恥ずかしがり屋さんじゃの。まあよい。愚神霊の発言は、神霊界の相違と考えて良いのかのう)


ゲオラディアードも神念話でやり取りすることにした。


(そうしたいとうごめいている神々もいるけど、神霊界の相違ではないはね)


分神霊は、ゲオラディアードだけを対象にして神念話で答える。


周囲で騒めき寄り集まっている研究神達は、対象外であった。


研究神達は、罵詈雑言ばりぞうごんを吐きながら、所長神が今から述べるであろう言動に耳をそばだてていた。


(であるならば、どう落とし前をつけるつもりじゃ)


愚神霊の宣言に一喜一憂いっきいちゆうし、


上位神である老神の一挙一動を見守っている研究神達を老神も気づいているが、


まだ事態が把握できていない。


彼神等のことは一度頭の隅に追いやって、メグフェリーゼの分神霊のやり取りに集中する。


(まあ、いつものことよ)

(退屈な神々の生活に一輪のお花を添える程度の事)

(まあ、今回はちょっと規模がデカくなりそうだけど、気にしないで)

(こちらは今までどうり、上手くたずな握ってるから、安心して)


相変わらず、何処にいるのか全くゲオラディアードにはわからなかったが、


神霊とは、そういう存在なのだと納得しているので、老神は気にも止めていなかった。


(儂らにも何か手伝えることはないのかのう)


このままでは何も情報が貰えないかもしれんと考え、


こちらから1つ提案をしてみた。


(そうねえ。それなら、ひとつお願いあるけど、聞いてくれる?)


何度も神念話をやり取りしているが、ゲオラディアードにはどの方角にいるのかすら、掴めていなかった。


だが、メグフェリーゼのお得意のうすら笑みを浮かべている表情がゲオラディアードの脳裏には浮かんでいた。




★  ★  ★  ★  ★  ★  ★



マリティカ略してマリは、プンプンだ。とても怒っていた。


「メグフェリーゼ様のアホー」

「メグフェリーゼ様のバカー」

「メグフェリーゼ様のカスー」


「はー」「はー」「はー」「はー」



コバちゃん。ごめんね。本当にごめんね。せっかくコバちゃんが丹精込めた御力で作った神鎖神隷聖印セイント・チェイン消えちゃったの。


文句はメグフェリーゼ様にしてね。私はコバちゃんの世界に行く気満々だったわよ。


「誰も助けてくれないと思って諦めた自分自神が馬鹿みたいじゃない」


メグフェリーゼ様も助けてくれるなら、事前にもっと声掛けたり、打ち合わせしたり、色々段取り立てて欲しかったわ。


いきなりこんな訳もわからない場所に押し込められても訳がわからないわよ。


いつもシャルちゃんばっかり依怙贔屓えこひいきして、私達にももっと構ってよね。


「メグフェリーゼ様、覚悟しなさい」


今度メグフェリーゼ様に会ったら絶対に文句言ってやるんだから。覚悟してなさい。


「メグフェリーゼ様のエッチー」

「メグフェリーゼ様のスケベー」

「メグフェリーゼ様の変態ー」

「メグフェリーゼ様の無神経ー」

「メグフェリーゼ様のオタンコナスー」


「はー」「はー」「はー」「はー」


「メグフェリーゼ様、もうゆるさないんだからー」


マリは、激おこプンプンだ。とても手がつけられない程怒っていた。


暫くその状態が続いたがやがて怒り疲れて冷静になって来た。


はー。それにしても、ここはどこだろうね。はー。


出入り口どこにもないしどうすればいいのよ。さっきなんか眠りたいって思ったら、素敵なベッドが突然出現してびっくりしたわよ。この部屋どうなっているのよ。


よく思い回してみるとこの白壁の部屋って何か思いあたるのよね。なんだったかな。


それよりも、メグフェリーゼ様のさっきのお言葉で


・・・、長らくお疲れでした・・・・

・・・ある程度目処がつくまで、そのまま眠って寛いでいなさい・・・


って聞こえたから、他の神子候補生達もいるかもしれないわ。なんとかして、みんなと合流出来ないかな。


「ねえ、誰かいませんかー。聞こえてたら返事してくださーい」


マリは、この部屋で閉じ込められてから数え切れないくらい口にした言葉をもう一度白い空間に向かって叫んだ。


勿論、今までと変わらず誰も反応しない。やっぱり、無理だよねー。


マリは、この部屋のどこかに出口はきっとあるはずとにらみ、私の御力【神水創造】【神水精密操作】【神水硬化】を駆使して、何処かに隙間がないか調べ尽くしたが部屋の壁に隙間を発見出来ない。


かなり念入りに調べた為、御力を消費しすぎてしまい、マリ自身が御力不足に陥りそうになり、このままでは四肢の維持にも支障がでる為、落ち込みつつ探索は終了された。


ハー疲れた。お腹すいたなー。何か食べたいな。せっかくみんなで頑張ってお弁当用意したのに、食べれなかったな。


マリの思考を盗み聞きしたように、お部屋に机と椅子と机の上に、みんなで作ったお弁当が今までそこにあったかのように風呂敷に包まれた状態で一瞬でその場に設置された。


やっぱり思考読まれてるよね。神人工知能搭載の部屋だよね。どこまで理解しているのかな。


なんとか説得してここから出してもらえないかな。こういう時はどうすればいいのかな。


「う~~~ん。わかんないよ~~~~」


「神人工知能さん。聴いてたら返事してくれませんか~」


「答えてくれないと泣いちゃいますよ~~」


「いいんですか~かわいい女神が泣いたら、貴方は嫌われますよ~」


「本当に泣いちゃいますよ~知りませんよ~涙腺緩んで来ましたよ~」


「ぐすっぐすっうっう~」


「うわ~~ん、みんなして私を除け者にする、うわ~~ん」


「うわ~~ん、誰も話を聞いてくれないよ、うわ~~ん」


「うわ~~ん、可愛い女神が泣いてるのに誰も助けてくれないよ、うわ~~ん」


「うわ~~ん、お腹すいたよ~、うわ~~ん」


マリは生まれて1年しかたっていないので、感情のコントロールが上手く出来ていない。


さらに、いままでの悪意の篭った視線を浴び続けて、とうとう感情の防壁が崩れ落ち崩壊が始まってしまった。


今までは、女神としての誇りだけを武器にして、なんとか自分自神の理性を保っていたのだが、それももう、限界だったようだ。


暫く、自分自神の感情が落ち着くまで、泣き続けた。


「ぐすっぐすっもう、だいじょうぶ。もう、なかないよ」


「メグフェリーゼ様がきっと隠れて映像撮ってるから、もう泣かないよ」


「もう絶対、復讐してやる」


マリは、これまでやり込められた悔しさ・怒り・悲しみを、脳裏世界の奥底にある聖火の燭台の底に沈めた。


澄んだ青々として燃えていた聖火の炎は、負の触媒によって闇色に染めた復讐に炎に次第に変わりゆき、その復讐の炎はその後、盛大に燃え上がっていく。


その変わりゆく光景を、熱く燃え上がった垂れ目の瞳で、ただ凝視して見ていたマリは、復讐の炎を燃え上がっている燭台の前まで、ゆっくりと歩み寄る。


その場で跪き両手を合わせて、自分自神に向かい祈りをし、メグフェリーゼに対して、いずれ貴女神をギャフンと言わせてやるわよ、まってなさいと固く誓った。


この日、この時、この瞬間、メグフェリーゼに反旗をひるがえす神がまた1柱誕生してしまった。


この出来事によってマリは、近い未来に立ち上がる『メグフェリーゼ被害者の会』設立メンバーの1柱という過酷な運命を背負うことになるのであった。


その後、気分を落ち着かせたマリは、色々考えられる手段を講じてみたが、結果は出なかった。


マリもシャルと同じく生後1年たらずの子供神なので、応用力が全くなく軟禁されている状態に、全く手も足もでずに途方に暮れてしまった。


「一度ご飯を食べてから、仕切りなおそう。そうしよう」


今の私の御力では、どう仕様もないと一端いったん諦め、お弁当を食べようと席に着く。


「みんなで作ったお弁当。まさかこんな場所で食べるなんて、理由わけがわからないわね。」


そして風呂敷を解いたところで手が止まった。そして、タレ目のお顔が赤くなった。


「えっうそっほんとにっもーあのエロスケベーーーー」


「もーーメグフェリーゼ様ーーー。もっと説明してーーーーー」


そこには、メモ神紙が上に置いてあり、その下に何やら大きめの薄いカードがお弁当の上に置いてあった。


メモ神紙には、こう書かれてあった。


[お弁当食べながら、その神鏡版ミラーソートを使って今後の予定確認しておくこと]


マルティカは思わず神鏡版ミラーソートを叩き壊したくなったが、ふーふー息を吐き、深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、まだ神体がブルブル震えてはいたが、なんとか叩き壊さずに踏みとどまった。




★  ★  ★  ★  ★  ★  ★






荘厳な鐘の音が戦いに赴く戦神逹を鼓舞するかのように鳴り響いている。


周辺一帯は星の数ほどいるであろう神々に埋め尽くされている。


彼神らは銀色全身鎧を装着し、白い神霊鳥に跨って大空を舞っていた。


彼神らは、背景に溶け込んでいるように透けて見えていた。


彼神らは中央にみえる巨大な神槍のような形状の御神船おみふねを見守るように陣形を取っている。


神槍型御神船おみふねは、大空の彼方にある的に向かって一直線に突き進んでいた。


風で舞い上がった神木の葉が一瞬の間に彼らをすり抜け大空に溶け込んでいく。


大空に漂う白雲もまた、一瞬の間に彼らをすり抜け大空の彼方へと消えていった。


大神鳥の群れが大迫力の翼を羽ばたいて、弧を描くように群れを率いていたが、


彼神らは、一瞬の間に一直線ですり抜け、接触せずに通過、大神鳥の群れも瞬く間に消えて見えなってしまった。


彼神らの後方からは神鏡球ミラービットが連隊を組んで必死に飛ばしていたが、性能が全く叶わないらしく、時間の経過と共に徐々に引き離され、やがて彼らも大空の彼方へと追いやられてしまう。


槍に率いられている戦神軍団はこの速度を維持し大空の的に目掛けて突き進んでいく。


その中央に位置する神槍型御神船おみふね、船名は、『神霊皇槍御船ミストシャベリン』の操舵室では、艦長神『セント=ブリックス』が、部下神からの報告を受けていた。


彼神は金髪短髪の凛々しい顔立ち、キリッとした目鼻立ち、上唇と同じ幅に整えた金色口髭金に背もすらっと高く体格も良い風貌をしており、鈍く輝く白銀全身鎧を身に装着し、両手で杖を握りしめ、床面に突き立ててバランスを保ち佇んでいる。


彼神も少し透き通っている。


「神霊波フィールド正常」「神霊重力波フィールド正常」「速度現状維持」・・・

「船内空間安定フィールド正常」「船内空調システム正常」「船内各種神核システム正常」

・・・「船内各種神工知能正常に稼働中」「周辺1神光理上に敵影確認できません」


報告は、全て正常値を示している。


だがブリックスは、鋭い目つきで室内中央部に表示されている周辺展開地図をじっくり睨んでいた。


ーここまでが、計画どうりに進行している。敵は我らを捕獲する網を用意している。

ーここからが、腕の見せどころだな。さて、上手く事が運んでくれる事を俺自神に願い、誓う。

ー教皇神様。我々をお導きください。


ブルックスは脳裏で思考を呟いた。


「「神霊思念波フィールド展開せよ」」


ブリックスは、部下神に重厚な口調で命令する。


「了解。神霊思念波フィールド展開開始」


部下神が命令を遂行していくと、神霊皇槍御船ミストシャベリン全体が発光し、


何回かに分けて円形に光波動が放射された。


「艦長神、神霊思念波フィールド展開完了しました」


部下神とのやり取りは終了し、ブリックスは、軍団に向かって神霊思念波を放つ。


(((これより命令は全て【神霊ゴッド・スピリ思念波】ット・メモリーズで行う)))


(((全軍に命ずる。前任務は只今をもって破棄せよ)))


(((全軍に命ずる。全軍、早急に戦闘準備体制に移行せよ)))

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