第11話 犯人は


「嘘だろ……これどう見ても大家さんが殺人鬼の流れじゃん。俺もうあの人と会話できないって……」


 服部さんはしばらくその場に呆けていたが、葛森の背が見えなくなったあたりで服部さんは深いため息をついてぐったりとうなだれた。まあ気持ちはよくわかる。

 葛森に纏いつく怨念はかなりのものだった。

 あんなものを見せられれば誰だって気分が悪くなるだろう。

 あれ、そういえば貞代たちはどうした?



 俺は周囲を見渡すが、貞代たちの姿は見えない。

 今思い出すと葛森が来る直前から貞代たちの気配がなかったな。

 どこ行ったんだ? そう思って周囲の気配を探ると、貞代たちは少し離れた茂みの中でこちらの様子を窺っていた。



「何でそんな所に……。つーかさ、隠れるんならもっと上手くやるか姿を消しなって」



 俺が呆れて見つめていると、視線に気づいた貞代たちが慌てて駆け寄ってくる。

 そして俺の隣で膝をつくと、不安げな表情で俺を見上げてきた。


『あ……っ……っ』



 なんだ? 一体何があった? 

 俺が戸惑っていると、貞代たちは俺の腕を掴むと何かを懇願するように訴えてくる。

 その目は恐怖一色に染まり、とても演技とは思えない。



『同じ……同じなんです……! あの声、気配……間違いありません! あの人が犯人ですっ……!』


「やっぱそうか」



 俺は小さく呟くと立ち上がる。

 やっぱりそうだったのか。これで葛森の容疑はほぼ確定したと言っていいだろう。

 後はどうやって逮捕するかだが、とりあえず今日は帰ろう。

 準備もしなきゃならんしな。容疑が確定し、葛森自身に霊感はないため邪魔されることはないだろう。ただ一つ気になるのは葛森が放ったあの邪念だ。俺どころか霊感の低い服部さんすら怯えさせるほどの呪いを纏っていたのは何故だ? 



 悪霊の気配はなかったが妙な呪いにでも手を出しているのかもしれん。

 それだけが気がかりだが、とりあえず攻めてみるか。

 俺ってあまり頭いい方じゃないしな。だって今までの悪霊問題って全部力ずくで解決してきたし。

 なぁに男は度胸だ! 取り合えず軽く一当てして葛森の様子を見るとするか。

 さて、これから忙しくなりそうだな。

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